《15》blightの始まり

 また衝突だ。


 1発、2発、また1発……


 音の種類がまちまちなのは一方的にやられてはいないってことか?


 ……畜生、また行き止まりだ。無駄に複雑な街づくりしないでくれ。


「……待ってろよ!」



#################



 腕にめり込む拳の勢いは止まったものの、それを操る者の意志は止まらない。未確認第1人型兵器はその意識に何らかの介入を受け、ただただ目の前の脅威を排除するための機械となり果てていた。こうは奴の拳を受け止めた左腕を後ろの相良達から遠ざける為に力ずくで流し放り投げるように振り回した。自らの攻撃の余勢で誰もいない方向に20メートル程飛ばされた第1に対し、こうは腕を失い死角となった奴の右側面に回り込もうとする。


「グッ!」


 だが回り込もうとアクションを起こした次の瞬間、彼女の脇腹に相手からのカウンターとして突き出されたつま先が突き立てられる。おおよそ人間には不可能と思われる身のよじり方、第1はその中に納まっているであろう身体構造を無視しながら相手を排除するためだけに最適な動きを取る。

 反撃に遭い姿勢を崩したこうに追撃を仕掛ける第1に対して今度は相良が援護射撃を加える。


「この野郎!」


 G44ショットガン、通称”カミソリ”。対象の殺害を避けるために散弾の拡散を抑え単一方向にのみ小弾が拡散するショットガン。22ゲージから放たれる小弾22発の内18発が奴の腹部に命中し、追撃を阻止つつ相良達は相手から距離を取ることに成功する。


「ありがと!」

「……チィ?」

「また危なくなったらソレ頂戴!」


 返答しないままにフォアエンドを引き次弾を装填する相良。初めて散弾の直撃を受けた奴の腹部にはわずかながら亀裂の様な損傷が見られる。相良は腕を吹き飛ばしても動き続ける脅威に対しての致命打にする為その狙いを頭部や腹部などの急所に限定し、こうが動き出すのに合わせて第2射を放った。


「――――!!!」


 だが小弾達が銃口から飛び出すのを待つことなくその場から第1は着弾点から消え失せる。およそ15メートル程地面から飛び上がった第1は自らに向かう紅に合わせるように反撃の飛び蹴りを繰り出した。咄嗟の攻撃に避ける事しかできない紅が地面を飛び跳ねている頃、その様子を遠巻きに見守る久藤事務次官の傍に付きながら特装1課班長の仁藤は護送車の無線を自身に同期させ地上の牧田と連絡を取っていた。


「隣のプラントは?」


―受け入れ準備は済んでますが、ここまで肉薄されていると移動時に狙われる危険が大きすぎるように思います。ですが……―


「現状それが最善か」


―……ですかね―


「事務次官移動を、今ならまだ避難できます」

「……口惜しいが、ここは従うしかないか。救援に感謝する」

「礼は死傷者たちに言ってください。貴方がさっさと避難していれば出なかった犠牲だ」

「……もはや被災者たちの念から逃げ回れる時ではない。国として責任を果たす。私でなければ奴らは話などはしないだろう」

「アレが平和の使者にでも見えますか?急いでください、流れた蹴りで頭が飛びかねません」


 護衛対象を乗せ車列は喧騒からの避難を開始した。別宅の敷地を背後に車列は隣の工業用区画へまっすぐに向かう。そしてその背後でまた片腕の狂戦士が建造物を巻き込みながら紅達に対して攻撃を加え始める。


 避ける為に飛び込んだ先、隣に立ち並ぶ家々の壁を抉り取るように繰り出され続ける拳はその1つを食らっただけでも致命傷になることが誰の目にもハッキリと見て取れる。壁際に追い詰められた際に奴が放つ強撃を身を屈めながら死角側に辛うじてよけるこう。避ける際に視線を外すこと無く自分のいた場所を観察していると奴のパンチが当たると共に起きた何かしらの炸裂によって、硬カーボン製の壁面にはバランスボール程の大穴が穿たれていた。


(……もしかして……?)


 自身の右腕に目を向ける紅。腕部のガントレットには拳の方向に向くように開けられた横一線の穴があった。紅は自分と奴の姿形が似通っていることで自分にもあのような強力な一撃が放てるのではないかと考えていたのだ。


「左だ!」


 鋭い警告を受けて意識を再び相手に戻す。振り向きざまの後ろ回し蹴り。先程からの攻撃からすれば牽制とでも言わんがばかりの緩慢なものであるが、まともに受ければ致命打になることは間違いない。回避した直後で体勢を崩していた紅はその2本の腕を奴の脚部を受け止める為に差し出した。


「ン―――ッ……」


 だが間違いだった。奴の蹴りの威力はこうの想像を優に超え、彼女は防御した腕ごと全身をからめとられまるで砲弾のような勢いで吹き飛ばされた。地表近くを滑空し空き家を2,3件貫通しながらも辛うじて意識を保っていたこうは勢いを殺そうと目の前を流れる地面に腕を突き立てる。感覚がおぼろげな掌で地面を抉りながら先程の蹴りの威力を殺しきる頃には、蹴り飛ばされた地点から100メートル以上離されていた。


「冗談……」


 視界が歪む。闘志が霞む。

 不意を突かれたとはいえその圧倒的な力をモロに受け止めたことで紅の精神には綻びが生まれかけていた。

 

 負ける……。


 先程までの対等な力同士のぶつかり合いから、圧倒的な力量差を全身で受け止め、そのような思考が初めて彼女の中に芽生えかけたその時、ヘルメットの高感度センサーによって捉えられた1人の声が彼女の耳に届く。


十之とおの!!!」


 それは再び窮地に陥っていた彼女の姿を息を切らしながら駆けつけて目の当たりにした戸越からの叫びであった。心配、叱咤、反射、そしてそれら全てから発せられた叫びはこうの使い倒された感覚器官の1つにすぐさま届き、つい今まで混濁していた意識を活性化させた。


「ふ……遅かったね!」

「お前……!?あんなにびゃんびゃん飛び跳ねられてすぐに追いつけるわけないだろわけないだろ!?……大丈夫なのか……?」

「……あまり大丈夫じゃないかな。でも、もう終わると思うから、そこで見てて」


 戻した視線の先で再び排熱を開始している第1。欠損をはじめとする大きな損害を追いながらも高負荷な稼働を続けたせいで全身のいたるところからスパークや出血が続いていた。誰の目から見ても長くはもたないだろう。かと言って放置すればこの場にいる人間のほとんどを殺し尽くす力はある。


「熱量集中 ターゲット再補足」

「……ふぅ」


 間合いの外でお互いに重心を下げ突撃姿勢を取る2人。その目はまっすぐ一点のみを見つめる。

 先制を仕掛けたのは第1だった。力を開放して地面を滑走しほんの一瞬で紅の5メートル手前にまで躍り出ると右足で弧を描きながら振り出した回し蹴りをこうの首を刈り取ろうと繰り出した。

 すると紅は前方に飛び出すために貯めた力を上昇するために開放し、奴の右足の着弾の直前にその真上に飛び上がる。必要最低限の跳躍によって自分を蹴りつけようと宙で泳ぐ第1に肉薄したこうは、右腕のガントレットごとその強烈なパンチを真下の奴の身体に突き立てた。地下での戦いが始まってから恐らくこれが彼女から繰り出される最も重い一撃であっただろう。

 

 轟音と共に砕けた舗装路の下から土ぼこりが舞い上がる。瞬きの10分の1ほどの短い時間の内に繰り広げられた攻防戦は周りの目には一瞬の内に終結した。


「やった……?」


 煙が晴れて誠二の瞳に映ったのは大地に拳を突き立てる紅と陥没した地面に横たわり右胸をその拳で貫かれた第1の姿であった。


「―――損傷過大 継戦困難 負しょ、負傷……ぐぅ負傷レベルをぉ……」


 胸に穿たれた大穴によって甚大なダメージを被ったのが原因か、第1の声から先程までの無機質さが消え苦悶に満ちた奴本人のものに戻ってくる。出血量は増していくばかりであったが、自らが与えた苦痛の痕に目を奪われて立ちすくむ紅に対して、未確認人型兵器と呼ばれたソレは


「……上手くなったな……」

「え……?」


 こうがその言葉に対する疑問を認識する前に、見下ろした位置の彼の頭は火花と衝撃を伴って陥没した地面と共にすり潰された。それは乱戦の最中に隙を見出した相良の指示によって準備を終えていた狙撃班からの銃弾によるものであった。血しぶきが吹き上がり辛うじて前に掲げられていた左腕が力なく垂れ下がると、首から下の人工筋肉はその機能を停止し完全に沈黙することとなった。


「……班長」


―こっちでも確認した―


「では、残りは……?」


―……―


「やったのか……?」

「……」

「……おい」

「えっ!?あぁ、ごめん……」


 右腕の先から硝煙を立ち昇らせながら自分を呼ぶ声にこうはハッと振り返る。誠二の方に振り向いたカメラアイは光こそ先程までのままであったが、砕かれた顔面からつま先に至るまでを返り血と黒い液体で覆われていた彼女に対して誠二は駆け寄っていくことを一瞬躊躇する。


「大丈夫なのか、本当に」

「あぁ、気にしないで。……無理なことは分かってるけど」


 ヘルメットの前面を覆う液体を手で拭い払いそのように彼女は言う。所々擦り切れたアーマーや繊維が飛び出した人工筋肉によって彩られたその姿に誠二が感じていた物は恐れではない。だがこの時はその感情の正体を自分でも把握しきれていなかった彼は深く深呼吸をして自制心にブーストをかけると、ここまでやってきた理由を果たすために口を開く。


「……あの時、言いそびれてたから今言っておく」

「お礼とかはいいよ?」


 唐突な言葉のカウンターパンチ。多大な危険を冒してまでこのような地の底にまで来た理由を一瞬にして奪い去られ誠二は呆然と固まったが、割れたヘルメットの中から覗く瞳と視線が合って口から零れかけていた罵声を思わず押しとどめた。


「……はぁ、僕はいったい何をしに……」

「じゃあ、私が言ってもいい?」


 予想外の返しに戸惑う誠二。鋼鉄の内側の深紅の瞳はまっすぐに彼を見据える。数時間前とは異なる現実の視界から見つめ見つめられる時間。それは2人が感じる時間の流れを遅くしていた。


「言うって……何だよ?」

「へへ、あ―――」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー――――――――――――――――――――


 発声しかけた紅の脳内に突然の明滅が起きたのはこの瞬間である。口角を上げてにこやかに話し始めようとした彼女の視界は現実から切り離され、意識野は別次元に瞬時に隔離される。そこは地上で意識を失いジオフロントに落ちていく前にみたあの光景であったが、彼女が自分の頭で事態を認識する前にその情景は一変する。


 白く無機質な空間は辺りを取り囲むように出現し始めた廃墟たちに移り変わり始める。浮き上がってきた路面はひび割れ、細々とした雑草が所々に顔を出しす。だが紅は自身を取り囲んだそのような景色のさらに奥に広がった景色に目を奪われた。

 

 艶やかに光る鏡面仕上げのオフィスビルの壁面。道路は徹底的に磨き上げられ塵1つなく、信号機や電光掲示板に映る文字には知性から生まれた活力の様な物さえ宿っているように見える。


「こ、ここ……?!」


 それは紅が見た夢。見たことも無いはずの外界の景色の中にいる自分。近頃見る夢の中に再び白昼夢として立つ彼女の前に、あの少女が現れた。


―これは、あなたの光―


「違う、知らないこんなもの!」


―あなたがすてた光、思い出、夢のかけら―


「……アナタは、誰なの……?どうして私に……」


―知りたいのなら来て。そしたら思い出せるかも―


「どこに?」


―あなたが生まれた場所―


 まどろみの街並みで交わされる児戯にも似た会話。そして幾度か言葉を交えると、町並みは深い黒、重々しい夜の波に徐々に飲み込まれ始めた。そして消えてゆく街並みに向かって消えてゆく小さな背中にこうは自分でも見慣れない己の手を差し出して懇願する。


「待って!」


―どこにも行かない。わたしは、どこにも……―


―――――――――――――――――――-------------------


 視界が明滅を繰り返す。こうの意識が現実の中に戻ると目の前にはまだ誠二がいる。だがそれを構成する状況は180度異なっていた。


「応答ありません……班長!!!」

「や、めろ……」


 銃口が目の前に置かれ引き金にかけられた指をすぐにでも激発させそうなほどの殺気がそれを握る警官から伝わる。そして先程まで第1の身体を貫いていた右手の先に握られている柔らかな感触。現実に意識が帰還してきたばかりこうにはそれが誠二の首だとはすぐには分からなかった。


「そいつを放せ!!早く!!」

「とお、の!」


 意識が回復するにつれて目の前の惨状の解像度が上がり、こうは自分のしていることが信じられず呆然とその手を離す。

 塞がっていた気道が確保されてせき込みながら息をする誠二を他の警官達が介抱しながら遠ざかって行くも、相良は変わらずに銃口を向け続けていた。


「……コイツは危険過ぎます、ここで始末を!」


 閑静な住宅地の中に響き渡る男の怒声。鬼気迫る部下からの要求に仁藤はたった一言口を開いた。


「対象になお敵性反応を認める、対象を排除しろ」

「よせぇ!」


 残り少ない酸素を使い果たしながらの誠二の叫びが空気にかき消される中、相良はその手に握るカミソリの引き金にかける指に命令通りに力を入れた。


【カキッ……】


 トリガーは引き切られること無くその場で停止した。相良の握るG44も仁藤が抱えるグレネードランチャーも、現在も紅の頭部に照準を合わせている遠方のアリサカの引き金もロックされ引くことはできない。それは作戦行動の終了を意味する官用品の強制外部ロック機構によるものであった。

 

「終わりだ相良、彼女を放してやれ」


 小さく足音を鳴らしながら集団に近づいてくる人物が2人。1人は警視総庁特殊装甲1課の西園寺春実、そしてもう1人は同じ特装1課の情報担当主任、いずみあきであった。

 実践的な装備も無く制服の上に防寒用のハイブリッドジャケットを羽織っただけの姿で近づいてくる泉に対して動揺し、相良は命令に瞬時に従うことができないでいた。


「……そ、それはどういう?!」

「ウチの捜査は終わりだ。未確認人型兵器はその第2と第1の遺体も含めて警務省の鑑識課に回されることに決まった。目前の脅威が排除された以上、上は今回のデモは終結したと判断したんだ」

「終わったってそんな、コイツは今も……」


 戸惑いながらも照準を外さない相良。泉がツカツカと2人の間にまで進み出て、自分の真下の者に覆いかぶさる形のまま停止していたこうの胴を下をほんのわずかに力を込めて押し上げると、その全身が力なく転がりヘルメットの部分が自動的に開かれた。


「脅威は無くなった。分かるな?」

「……了解」

「班長、全員に警戒解除を」


 仁藤からの号令によってこうに向けられていた照準は全て外された。誠二は天を仰ぐように地面に横たわる紅に駆け寄ろうとする。しかし彼女に対して伸ばした手は上から誰かに掴み取られその上から手錠をはめられる。それをはめたのは先刻の地下で彼を助けた西園寺春実であった。


「11月29日午前0時07分、あなたを逮捕します」

「なっ、離せ!」

「大人しくしてください。安心して、危害は加えませんから」

「……こちら泉。指定の参考人を確保しました」


―お疲れ様です。隔離したうえで十分な休養を取らせてください。くれぐれも許可無しに接触させないように、良いですね?―


「分かりました。班長、護送を頼む。私は事務次官に」

「……面倒事だな。アイツは承知してるのか?」

「一応はな。どの道、成るようにしか成らないよ。それは知ってるだろ?」

「現時点をもって、財務事務次官暗殺阻止作戦を終了する。相良……」

「……了解」


 納得のいかないながらも相良は組織人として命令を承諾した。そして倒れたままのこうに近づいていき電磁警棒の拘束モードで両腕を磁力で引き付け合わせて固定すると、力なく倒れるその半身を引き起こし、露出した首筋に警棒をあてがった。


十之とおの!」



#################



 疲れがドッと押し寄せてきてる。身体も瞼も重くてたまらないし、耳鳴りは頭蓋骨を割ろうとしている程に強くて……なんか急に”現実”に引き戻されたみたいだ。


 瞼の向こうに光は感じない。さっきまでの自由を引き剥がされて、魂が元の殻の中に押し込められたみたいに窮屈な感覚が懐かしく体に染みわたってくる。


 あぁ……そうだったな。これが私だ。人の助けが無いとまともに立つこともできなくて、空の色に憧れた大人モドキ。さっきまで見えていた空も建物も人も夢の中で見た姿の通りだったのは嬉しかったけど、いざ元の器に戻されたらその輪郭すらあやふやになってるなんて。


 耳鳴りの向こうで大勢の人たちが騒がしく呼び合っているのが聞こえる。だけどそのほとんどが私に対して敵意を持っているのも同じく分かってしまったのは残念だった。声に込められた感情は人一倍分かるつもりだから。


―……ぉ―


 不思議だな……、聞き慣れないのに聞き馴染みのあるような気がする。優しい声。激しく呼びかけても分かるその暖かさは、雑音をかき分けずにその中を真っ直ぐ通り抜けて届き始めた。


―……ぉの!―


 掠れた音質がクリアになってきた。でも、もうひとつピンとこないな……瞼はもう開きかけてるのだけど。


―……紅!!!―


 響く声がそう呼んだ。呼ばれたからには応えないと。私の心のどこかがそう言っている。多分目が覚めた時に私はそのことを忘れてるんだろう。それでも多分、昨日までの私より、私は気持ちよく笑える気がするんだ。



#################



 擦り切れそうな程張り上げた叫びの中の1つ。一度だけ聞いたその名前を呼んだ。


 後ろ手に縛り上げられた両腕を掴まれ耳元では恩人だったはずの女性に制止される中、彼女はその身体を掴まれたまま自由を失いながらも、意識を取り戻したその素顔にはまるで無責任なほどに快活な笑顔があった。汗に濡れ口元の血も拭うことはない。その不格好な笑顔を向けられて僕は動揺するでも怒るのでもなく、心のどこかから沸き上がった懐かしさを噛みしめると、首に受けた刺激によって僕の11月28日は終わりを迎えた。




 


































#################

 


〔連絡が遅れてすいません、仕事の関係で返信が遅れてしまいました〕


〔しばらく連絡が無かったので心配してました!こうして連絡が取り合えて安心しています。仕事の関係というと何か国の中でトラブルがあったんですか?〕


〔すいません、詳しくは伝えられないんです。今は訳あって謹慎生活を送る身で、こうしてメッセージのやり取りをするのも難しくなりそうなのです。なので勝手を言って申し訳ないんですがお頼みしていた分析結果を送っていただき次第、この線での文通は終わりにさせていただきたいんです〕


〔―――――〕


〔本当に勝手を言ってすいません。もし不都合がお有りでしたら無視して頂いても構いません。〕


〔zip_913315.xio〕


〔失礼、中身を拝見させていただきますのでしばらくお待ちください)


〔逆探知されるのに時間がありませんので構わず返信させて貰います。当国の技術士官の分析では出力や性能に関して既存兵器とは圧倒的な差がありますが、設計技術自体はかなり前の物らしく、少なくとも貴国以外の諸外国から持ち込まれたものではないそうです〕


〔わが国では採用されていない有人型機動兵器の一種で7年前にはロシア国境付近での目撃情報があるようですが、推定スペック以外詳しいことは分かりませんでした。お力になれずに申し訳ありません。〕


〔―――――〕


〔メッセージのやり取りが今回で終わりになるとの件、大変残念に思います。貴殿とは国こそ違いますが、考えの共通項の多さにシンパシーを感じとても嬉しく思っていました。今では短い期間であったようにも思えましたが貴殿との交流の時間は私にとってかけがえのない財産です。どうぞ気になさらないでください〕


〔今確認しましいあ、そういえったもらえてうれいあしでう〕


〔それと最後に私の方からも貴殿に伝えておきたいことがあります〕


〔少し待って1〕


〔昨日、軍政府からの辞令を受け取りました。近いうちに貴国に伺うことになりそうです。色々と大変な時期ではありますがもしお目にかかれる機会がありましたら、その時は語り合いましょう。敬愛なるMへ、Hより〕






「あっ、クソう。タイムアップか……」


 物理回線が今にも燃え出しそうなほどの熱を蓄えて異音を放ってる。手直にあったうちわで扇ごうかとも思ったけど窓を開けて風に当てる方がよっぽど効率的だろう。ガラッと二重窓を開け放つと新年の挨拶とでも言いたげなほどに強烈な南風と小さなあられが部屋中に吹き込んできたので慌てて窓を閉じた。


「うへー、さぶさぶ!!!」


 思えば外気を吸ったのも3日ぶりくらいだろうか?性に合っているにしても部屋に引きこもったまま法律を冒しつつ国家間通信回線を弄り回すのは健康にもよろしくなさそうだし、何より……


【ぐぎゅるごごごご】


 空腹に気づく余裕も無い。


「牧田ぁ~?!牧田ー!」

「うんあ、何?」

「あの、アイツ……三小田がメシだから呼んで来いって」

「あぁ……分かった~」

「すぐ来いってよ!」

「分かったよ!すぐに行くって言っといて誠二さん!!!」

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