《9》意志から武器へ
戦後25年、戦争という定義にあてはめるには余りにも一方的な勝利をおさめ、日本は主導国家としてASAの中でも確固たる地位を築いていた。
無論そこにまで至る経緯には、先の戦いにおける大勝や市民生活の質を飛躍的に向上させたエネルギー管理の実績が大きく影響していたのは言うまでもない。導入を開始するか否かを決める都民選挙では投票率87%、賛成9割の評決をもって
当初人間が想定していた工期は東の計算でその期間を大幅に短縮し、着工から僅か3年で東京は戦略型AIが管理する「電脳都市」に生まれ変わったのである。
都民の生活は一変した。日常を維持するための電気、水道、ガス、個人個人の通信に至るまであらゆる管理が全自動で行われる。それまでの文明社会史において蓄積された膨大なデータを元に自ら学習し効率を高めていく
国営事業者は早々に年金受給者となった。民間でも
ある者は趣味に生き、ある者は旅を始め、ある者は日がな1日惰眠を貪る。有史以前から人間と供のあった労働はAIの手に渡り、人々はそれも受け入れ、自分たちの生き方さえも転換させていくことになる。その時東京は紛れも無く「理想都市」として世界に認められる存在となったのであった。
あの日、あの時を迎えるまで。
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「倉庫内に動体反応、数7、さらに内部に高熱源反応有り」
「了解。07は街道沿いに南西側から迂回しろ。合図を送ったら発電機を潰せ。09、25、準備はいいか?」
「いつでも行けます!」
「かく乱機正常に稼働中。彼ら映像の偽装データも送信済みです。外部に外の動きが漏れることは無いでしょう」
「よし、5分後に港側の通用口から侵入する。武装はNL-3、第3強襲態勢だ。準備しろ」
2087年11月28日。時刻は朝8時を迎え、特装1課実働班は寝ずの番からの朝焼けに包まれていた。目標である港内の物資運搬倉庫、その中に運び込まれている不正な武器兵器の押収が任務であった。およそ2週間の内偵の成果は部隊に有利に働き、倉庫街周辺500メートル圏内は警視総庁による封鎖線が施され、内側を巡回していた抗団員による偽装作業員は既にその全てが無力化済みである。牧田のクラッキング技術によって外界への”耳”と”目”を削ぎ落され完全に孤立した倉庫に対して今まさに彼らは攻め込もうとしていた。
―07配置完了、指示を待つ―
「奴らここまで囲まれてるなんて想像してるんですかね」
「どのみち袋の鼠だ。野次馬が集まる前に始末をつけるぞ」
「ノイズが増えます、通信は最小に控えてください09」
09こと
「(久しぶりの着装任務だからって舞い上がってるな。ミサイル誤射して船にぶつければいいのに……)」
「(余計なことしか言わねぇな相変わらず。今日も班長がいるんだ、落ち着けよ俺)」
声に出さず聞こえもしない内なる声が交差する中、仁藤の元に封鎖線の警官隊からの連絡が入る。ヘルメットを既に装備している為に物理的な機器を介した無線には一々フェイスガードを下ろす必要が出てくるため、仁藤の内心にもほのかに苛立ちの火花が瞬いた。
―こちら第7封鎖線!女性が1人封鎖線を破って侵入した模様!現場での対応を求む!―
「ぬかせっ、こっちは今から奇襲をかけるってときだぞ!」
―こっ、こちらはもう無理です!ッ……―――
そこにいる全員が悪い冗談であることを祈っていると、市外へ続く埠頭の連絡通路から1人の人影がふらふらと表れ出てくる。
「俺引っ張ってきます!」
「止せ、スーツで急な動きをすればカメラ偽装が剥がれる。11聞こえるか?目標建造物付近に民間人を確認!至急撤去しろ!」
「いやっ、遅かった!?まずい!」
珍しく声に出して狼狽する牧田の手元のレーダーには倉庫内の新たな高熱源体の発生を知らせるアラートが表示されており、それは敵のギアスーツが起動したことを意味していた。
「伏せて!!!」
ふらふらと射線に入ってきた人影に大声で警告をしたのは牧田であった。だがその言葉は自分の真横で左肩にマウントした軽ランチャーを装填した仁藤からの誤射に対しての警告だ。予告通りに仁藤の肩口から3発の炸裂式フレシェットが発射され、よろめいた人影の2メートル脇をかすめて倉庫の壁面に着弾、弾頭は半拍後に爆裂した。
「奴ら出てくるぞ、大査!女をどけろ!」
仁藤のスーツ内にロックオンアラートが鳴り響き始める。作戦は奇襲から強襲に移行された。牧田が侵入者を抱えて走り去るの確認すると目標建造物に対して仁藤はその両手に抱えるM880チェーンガンを、榊は右肩マウントの対人シーカーでの実力行使を始めた。
戦前から建っている老朽化の進んだコンクリート壁は1課の制圧射撃によってまるで熱湯をかけた氷の様に削り取られてゆく。だが開け放たれた倉庫入り口から顔を出した対戦車タレットの定点射撃により2人も正面切っては接近することができない。更にスーツ内に新たな警報が追加される。それは極小範囲、倉庫の中心から半径20メートルまでの指定電子機器を機能停止させる強力な指向性ECMのものだった。
「駄目です!これ以上進めばシステムダウンの可能性が!」
「07、電源は!?」
―落としました、ですが内部からの電力漏出と微弱な放射線反応が認められます。軍用のECM装置とタレット用の小型原子電力炉があると思われます―
仁藤の思考は方向を変えながら回転を続ける。携帯型の電力炉でギアスーツに影響を与える電力量を供給できるものといえば核融合炉かそれに準ずるものであるためだ。
仁藤は相良にそのまま後背を突かせるために、装甲目標である自分達の存在感を高めようと発する火力を増やす。連続発射されたランチャーフレシェットと7.8ミリライフル弾、そして熱探知シーカーによる轟音の連続で湾内はまるで戦場の様相を呈していた。
「うぅー、ガリガリ言ってやがんな」
3つの射線が交錯する倉庫正面の喧騒を避けつつスムーズに相良は侵入する。歩哨の役割を果たしていた外部の抗団員を事前に全て無力化していた為だ。建物内にはケーブルやパイプラインが張り巡らされており、原子炉の排熱によるものか室内はまるで蒸籠の中の様な灼熱地獄。そのうえでウェアラブルデバイスの線量メーターはおおよそ市街地では出て行けない値にまで数値を上げ始めていた。
「起動させて2分かそこらだぞ。屋根まで溶け落ちんじゃないか?」
―メルトダウンは絶対に阻止しろ。臨界に達する前に炉を強制停止させる!―
「了解!」
着弾の振動に合わせて前進する相良。散発的に遭遇する東京抗団員に対して65式拳銃で応戦した。敵はいずれも対人重機関銃や電磁ニードルガンなどの重兵装だが、相良にとってそれらは棍棒を背負った鶏と同じく他愛も無いものに映る。構えも動きも素人同然の抗団員は相良が引き金を引くたびに1人ずつ無力化され、彼は殆ど労することなく線量計の最大値地点に辿り着いた。
横開きのシャッターの向こうにある小型原子炉は既にその発電効率を大幅に突破しており、崩壊が始まるカウントダウンを迎えようとしている。
「どぅら!」
ヘッドギア同梱の遮光バイザーを下ろすと同時にドアをけ破り、相良は4発で場を制圧した。見張りに2発、オペレータに2発、それぞれ片腿と右肩を12ミリ拳銃弾に貫かれ地面に崩れ落ちるのを見届けることなく一直線に目標に取り付き原子炉を停止させると外から聞こえる連続した銃撃音が停止した。
「こちら07、機関砲オペレーター及び原子炉を制圧。周辺に計器での放射線漏出確認できず。除染会社と救急車をの要請頼みます」
―よくやった07。除染後に検査に向かえ。現場は引き継ぐ―
「適当に洗ったら復帰しますよ」
―念の為だ、作戦中に倒れても保険はおりん。02以上―
自分の隣でうめきながらも起き上がろうとしているオペレーターをブーツのテーザー機能で黙らせたのを最後に、相良の本日の業務は現場指揮官直々のお達しによって終了した。
「泣けるぜ」
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「やたらトラックが多いな。また疎開民かよ」
「高架橋の増設じゃない?予算の使い道他にないのかな」
「先月みたいに中止になんないことを祈ろう。ここ最近ダウンバーストばかりじゃないか?」
―11月28日。時刻は正午です―
「アナウンサー上手くならないですね。もう半年ですよ」
「やる気がねぇだけろ。さっ仕事だ仕事!生産労働だっていつ首切られんのか知れねぇからな!」
「今夜は呑みに行きたいですね」
ー今日は深夜から未明にかけて強風が吹くでしょう。地下市街に住む方以外は早めの帰宅を、そして不要な外出を控えることをお勧めいたします―
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「無いってどういうことだ?」
「言ったとおりの意味です。ここの倉庫内にも近辺の同様の建物内にも、このターミナルコンピュータ―にも彼らの資金の流れや武器の供給ルートは全く存在していません」
港内の簡易指揮所。総庁の警官や専門家達が現場検証や除染を行う隣で、倉庫内のターミナルコンピュータから引っ張ってきたデータ解析が行われていたのだが、成果は芳しくはない。
国内のネット情報は全て情報庁の管理下に置かれている為、違法な武器取引の際の資金の流れは
「物証が出ないとなると直接聞くしかないな」
「AMADAの連中でも呼びましょう。こいつ1人に任せるより確実です」
「手続きで日が暮れるぞ。牧田、本庁のターミナルに繋いでもう少し深く探ってみろ。俺たちは捕まえた抗団員達の取り調べに同席する」
「分かりました」
「何か分かれば直ぐ報告しろ。いいな」
装甲パトカーの貨物スペースに拘束した犯人達と共にスーツのまま乗り込み始める仁藤と榊。データのコピーを鑑識に手渡し倉庫の中に向かおうとしている牧田に対して、通り過ぎ様の榊は苛立ちを隠そうとしなかった。
「次はしくじるなよ。班長に恥をかかせるな」
「成果が無い事を恥だと考えるようになるのは、不正の入り口だと思いますよ」
「今度下手なことしたら俺がシメてやるからな」
「班長がお待ちです。気を付けて行ってきてくださいよ」
サイレンが遠ざかり争いの火種達は供に自らの仕事場に移動していく。もうじき
ターミナルは倉庫の地下部分、生鮮食品用の冷凍室に設置されている。手広な庫内の真ん中に鎮座するそれにメモリーを差し込んで情報の抜出を始めると、牧田は証拠の物理的な回収を残して他の作業を全て引き継ぐ旨を鑑識に伝え、しばらくの間1人にさせて欲しいと頼んだ。
「じゃあ先に上の掃除にしますができるだけ急ぎでお願いします。」
「こちらの都合ですいません」
広々とした密室で機械と2人きり、牧田にとっては心地よい時間だ。デジタルワイヤーを投影してデータを
「さて、じゃあ初仕事、お願いできるかな?」
頭上から伸びる翡翠色の1本。他のワイヤーが防衛や侵入といったプログラムに従って動くのに対し、その1本は自発的に牧田の掌の中に滑り込み目の前のデータの溜まりにその触手を伸ばし始めた。
「頼むよ、
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「それで。それを言うためだけに呼びつけのか?」
「話4割、あとはコレでしょうか?今期の初物ですよ」
「こんなバカに高いもの、ありがたがる気持ちは分からんがね」
「それはもう。手が出しにくい物こそありがたいものですから」
都内某所。昼下がりの路面店の中で小さな会談が行われている。
警務省局長の
「私も暇ではない。村尾の推薦ともいうだけあって君には期待してはいたが、それでもここ最近の君の警察贔屓は目に余る」
「物事はもう少し単純に考えた方がよろしいかと思いますよ。『危ないから備える』。なんとも分かりやすい理屈です。加えて人は金の匂いには進んで寄ってきます、それが極地への切符であろうとも。それは先人の経験からも分かることではないでしょうか?」
「どう言おうが無い袖は振れん。欧米との国交正常化、それに対する分配でこちらは手一杯なんだ。比較的穏やかな国内治安の維持予算拡充というのは、仮に私一人が賛同したところで国民が許すまい」
会談の開始から40分が経過し久藤が7回目の時計の確認をすると、店の出入り口付近に控える秘書に車を回すようにアイコンタクトをする。
「それは戦前までの体制の話です。今の状況ではたとえ正当な手段が溢れていようとも、国民は自分からこの国の現状を知ろうとはしないでしょう」
「失言だぞ。新聞社にでもすっぱ抜かれれば面倒だ」
「どう捉えていただいても構いません。ですがこのままでは中京都でさえ、旧都からいつ来るかも分からない侵攻に耐えられる可能性は限りなく低い。自衛隊を呼び戻すのが現実的でない以上、金の力に頼るのは至極全うであるとは思いませんか?」
「だからといって独立愚連隊まがいの集団の設立を手伝いなどできんよ。済まんが失礼する」
一度持ち上げただけのティーカップを残して久藤は席を立つ。使い込まれたスーツが真横をすれ違って自動ドアの開く音が聞こえた時、安藤は背中越しに彼女に言葉を放り投げた。
「どうか健やかにお過ごしください。また近いうちにご挨拶に」
「もう十二分だ馬鹿垂れ」
店先に止められていた私用のリニアカーが発進するのを見送ると、安藤は席から立ち上がり向かいに残されるカップに一瞥する。束の間、真顔で考えを巡らせた後に踵を返して会計を済ませると、店の外に出た彼は腕時計の機能でレンタルの車を手配した。
時刻は13時30分。遅めの昼食を求めに歩き回る勤め人たちがまばらにみられる街中で車の到着を待ちながら、安藤はほぼ新品の状態のまま鞄の底に眠っていた液化臭機を口に運ぶ。
「さて、無駄足を運ぶとしようか」
一度だけ吸い込んだ柑橘類の香りが口内から漏れだすよりも先に手配した車が角から顔を出した。黒い箱で埋まった運転席の横で急増されたハンドルを握る運転手に軽く挨拶をし、後ろに乗り込んだ安藤はネクタイを締め直した。
「お客さんどちらまで?」
「外務省まで頼む」
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14時45分。警務省捜査1課の取調室で行われた尋問という名の恫喝にて新たな襲撃計画が発覚した。実行は本日深夜。標的は財務省事務次官、久藤紗理奈。都内近郊に潜む東京抗団の過激派たちによって計画された「血税によって私腹を肥やす政治家への制裁」という建前ではあるが、その実態は市街全域での大規模な武装デモだ。
仕事を片付け次の問題に対峙することになった警務省各員。警戒並びに対策チームが急遽編成され、特装1課は都内の暴動対策班に編入されることとなった。
地下の取調室からサーバールームを経由して地上大ホール、そこから部署階層への直通エレベーターに乗り込んだ仁藤と相良、そして榊と三国の4人は1年余り振りに特装1課管理班室に姿を見せることとなる。
出迎えの挨拶を経理の清水とかわすと本人にそのまま上層部からの連絡報告を求める仁藤。そこへ自らの席から立ち上がった班長、
「おう。来たか
「連絡を回せ。すぐ配備に付く」
「そう急ぐなよ、省からの要請にはまだ時間がある。初めて見る顔もあるし取り敢えず座ったらどうだ?」
「連絡を」
元々表情が豊かではない人物なのは知れ渡って入るものの、ここまで冷徹に言葉を交わす様子を直接目の当たりにしたのは相良と清水以外は初めてであった。
ファイルを手渡し軽くため息をついた
「都庁及び主要交通機関付近の巡回警備は捜査1課並びに特殊犯罪捜査班が行います。特装1課並びに2課は第4種迎撃装備で県境を封鎖。ウチは静岡方面で車両を……」
「何でですか!?」
異議を申し立てたのは榊だった。古木の樹皮の様な深い茶色の髪が揺れ、その瞳は懐疑心で満ち溢れている。彼の一言で課室内は静寂に包まれ清水が渋い顔で不用意な発言を止める前に第2射を放つ。
「ここ数日の摘発内容から見て、奴らの狙いは都心部での大規模な武力行使の可能性が高いです。なら今の総庁で一番火力を持ってる我々が直接の警備の当たるのが適切でしょう!?」
「街中でスーツ着るわけにもいかないでしょ。街頭報道でもこの件はまだ民間には伝わってないんだから、無用な心配事を増やさない為にも僕たちは都内での最大行動半径の一番外側で出番を待つ。これが今回の仕事」
「それにしたって!」
「榊」
仁藤の一喝でヒートアップした榊の頭は瞬時に冷却された。自分が前に進み出て課長に食って掛かるような姿勢になっていることに気付き、ステップを踏むように勢い良く後退して姿勢を正した。
「やる気があるのは結構だけど、余り班長を困らせちゃだめだぞ勇吾くん」
「榊でお願いします。失礼しました課長……」
室内には鉛の様に重く葬儀場の様に静まり返った空気が滞留していた。丁寧ながらも明確な拒絶の意志を返事から感じ取り、なかなか次の話題に移ることができなかった畠山に清水が後ろから助け船として後の説明を続ける。
「今回は報道管制を敷いての第2警備体制です。都心では軽装での巡回警備が主になりますが1課からも1人、連絡員をかねた現地協力者を特警に提供することになっています」
「つまりこの中からその1人を選ぶということか?」
「いえ、選抜員は事前に決定しています。皆さんにはその承諾とコールサインの確認のためにお越しいただきました。それでは」
清水の視線を合図に畠山が入室の許可を出す。実働4人の後ろから入室してきたのは特警のマークの入ったベストを身に付けた西園寺であった。
「……了解した。清水、警備位置を」
「班長!}
次に異を唱えたのは相良だった。都内の交通課からの引き抜きで現場主義の彼にとって特警への印象は非常に悪く、たとえ選抜員が誰であっても異論を述べたであろうが、よりによってその役が最も配属歴の浅い新人に任されることに対して強い拒否感を示していた。
「俺が行きます、都心なら地理にも詳しい。適任です」
「春実くんは三重県警内の対人捕縛技能試験でもトップの実力なんだ。彼女の技量を知って1
畠山はにこやかに話す。推薦されている当の本人の顔は一切の曇りも無く目の前を見据えてはいるが、その心がどことなく宙を泳いでいるのではないかと相良は考えて再び反論を述べようとするが、仁藤がその発言を遮り腕を後ろに組んでしっかりと立つ西園寺に覚悟の程を問う。
「1課の威信にかけて、必ず務めを果たします」
「この通りだ。相良、お前も信じてやれ」
「……分かりました」
榊、三国も続けて承諾し清水は注意事項の説明に移行した。市民の警戒を高めない為に事前に航空機は使用できない事。県境ではリニア高速、一般道、地下通路の3か所にそれぞれ班を分け出入りを記録することなどだ。細かい班割は現地で当てられるためここでの説明は終わり、各々指定の集合場所まで急行するよう号令が出る。
「じゃあ皆。明日の朝日までの間、蟻の子一匹通さないように!いいね!」
「では各員は所定の持ち場に向かえ。解散」
実働班員達が次々に退出していく中、相良はすれ違う最中の西園寺に一瞬目を向ける。みなぎる活力、使命感、闘志。同僚たちの不幸から立ち直り彼女本来のバイタリティが戻りつつあったのだが相良にとってはむしろその方が不安要素として大きかった。
結局かける言葉も思いつかないまま最後尾が部屋から出ていき、中にはこの部屋の住人2人と他所の衣装に着られている西園寺が取り残された。畠山は清水に買い置きのコーン茶を用意するように頼み、渋々承諾した清水が冷蔵庫のある部屋の奥に消えると、急な呼び出しを謝罪し彼は西園寺の隣に立った。
「皆期待してる。仁藤もああ見えて素直なところはあるんだ。さっきの賛同も君の力を認めてるからこそだよ」
「本当ですか?」
「そうだともさ。目標のデータだ、捕縛後に必ず連絡してくれ。くれぐれも特警の手に渡さないように、いいね」
「はい!では、行ってきます。課長!」
ドアが開き切るのを待つことなく隙間から抜け出るように駆けだしていった彼女の後ろ姿を畠山は見守っていた。ただ静かに。その瞳には淀みも陰りも無くただ目の前の事態の一点に向けられている。
「3人分、淹れたんですけど?」
「あ、ごめん」
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