024 幽霊の身体検査③
しばらくすると、ベッドにうつぶせになっている女子高生が尋ねてきた。
「
んっ……肩甲骨、どうしますか?
ああ、そうだ。
僕が『肩甲骨を触って調べたい』って希望したんだった。
僕はベッドのすぐそばまで移動して、女子高生を見下ろしながら言った。
「う、うッス。それでは、触らせていただきますッス」
「うッス。どうぞ」
僕は女子高生の身体の右側に立ち、両手を伸ばす。
そして、彼女の右側の肩甲骨を軽くマッサージでもしているかのように
もっと、エッチな場所はなかったのか?
肩甲骨って!?
まあ、彼女の身体に触れること自体には感謝しているのだけど。
黒髪ポニーテールの女子高生は、肩甲骨を揉まれながら僕に質問する。
「そういえば、わたしってどうして、肩甲骨を揉まれているんでしたっけ?」
「う、うッス。『幽霊にも足があるのかどうか』をチェックした後、他に触って調べる場所がありますかって話になったからッス」
「ああ、なるほど。そうでしたね。それで、幽霊でも肩甲骨があるってこと、ちゃんと確認できましたか?」
『幽霊でも肩甲骨があるってこと、ちゃんと確認できましたか?』
肩甲骨の確認と幽霊になんの関係が……?
そう思いながらも僕は、きちんと彼女の肩甲骨をチェックしているフリをしようと考えた。
それまで遠慮がちに彼女の肩甲骨をやさしく揉んでいたわけだけど、少し遠慮せずに力を入れて揉みはじめる。
そのときだった――。
んっ?
この感触……は?
もしかして、ブラ
ブラジャーの紐だっ!?
ジャージの厚めの布の素材感で、やさしく触っているときには、僕はブラジャーの紐の存在に気がついていなかった。
でも、力を入れはじめた途端……。
そ、そうか……あのセーラー服から透けていた緑色のブラジャーか……。
ブラ紐は、このあたりにあるんだ……。
それから僕は、黙々と揉みはじめた。
右の肩甲骨だけでなく、左の肩甲骨もだ。
女子高生のブラ紐の感触を味わえるなんて、きっと人生で最初で最後かもしれない。
すると――。
「あっ……」
と、ベッドでうつぶせになっている女子高生が声を漏らした。
んっ?
もしかして僕は、興奮しすぎて強く揉みすぎてしまったのか?
それで、彼女がどこか痛くしたとか?
「ど、ど、どうしたッスか?」と、僕は尋ねた。
「えっ? ああ、いえ……大丈夫です」
「え、遠慮せず、何があったかをきちんと伝えていただけると……うッス。どこか、痛くしたッスか?」
「い、いえ……」
「お、教えてくださいッス」
すると、彼女が少し小さな声で言った。
「いえ、ちょっとブラジャーのホックが外れちゃいまして……でも、大丈夫ですよ」
そう言われて僕は、黙ったまま動作を停止した。
思考も停止した。
『ブラジャーのホックが外れちゃいまして』
という彼女の声が、僕の脳内でリピート再生されていた。
彼女の方は上半身を起こして、僕に背中を向ける。
それから女子高生は、服の中に自分の両手を入れて、背中のあたりでモゾモゾと動かしはじめた。
黒髪のポニーテールがゆらゆらと揺れた。
これは……!?
ブラジャーのホックを留め直しているんだ!?
目の前でブラジャーのホックを留め直す彼女を眺めながら、僕の興奮は最高潮だった。
やがて、ブラジャーのホックを留め直した彼女が僕の方を向いて言った。
「どうしますか? まだ、わたしの身体をどこか触って調べますか?」
僕は首を横に振った。
「うッス。もう充分ッス。ありがとうございますッス!」
そんなわけで、お
とんでもないボーナスタイムだった。
そして僕は、生まれてはじめて、女の子のブラジャーのホックを外した。
まあ、事故みたいな外し方だったんですけど。
「じゃあ、そろそろ、またいつものように、いっしょに眠りましょうか?」
女子高生はそう言うとベッドで横になった。
僕はこくりとうなずくと、移動させておいた掛け布団を取りに行き、ベッドで横になっている女子高生にふわりと掛けてあげた。
「あっ……すみません」と、女子高生は申し訳なさそうに言った。
僕が小さくうなずくと、彼女が話を続ける。
「横になって二人で手を握ったらすぐに眠ってしまうので、もう掛け布団はいらないかなって、勝手に思っていたんですよ。けれど、なんかこうやって横になっているときに人からやさしくお布団を掛けてもらえると、すごく幸せな気分になりますね、ふふふっ」
「う、うッス。よろこんでもらえてよかったッス」
「今度は、わたしがあなたに掛け布団を掛けてあげますよ。どうぞ、ここに寝てください」
「えっ?」
僕がそんな声を漏らしている間に、彼女は立ち上がってベッドから出てしまった。
「さあ、どうぞ。今度はわたしがお布団を掛けてあげますから、横になってください」
僕は言われたとおり、ベッドで横になる。
すると女子高生がニコニコしながら、掛け布団をやさしく僕に掛けてくれる。
「お布団、掛けますね、ふふっ」
ああ……もう!
この子と今すぐ結婚したい!
こんな何気ないことが楽しくて、うれしくて!
二人でいっしょにいて幸せすぎる!
「うッス。幸せッス」
と、僕は思わず声に出して言った。
「よろこんでもらえてよかったです、ふふっ」
それから彼女が「失礼します」と言いながら、モゾモゾと布団の中に入ってくる。
そして、僕の隣で横になると、彼女はこう尋ねてきた。
「どうします? 手をつなぎますか?」
「んっ?」
「いえ……そのぉ、手をつないだら、またいつもみたいにすぐに眠ってしまって、気がついたらわたしはバス停でずぶ濡れになっているので……」
僕は彼女になんて言えばいいのか、判断できなかった。
黙っていると、彼女は話を続ける。
「また、あのバス停にわたしを迎えに来てくださいね。雨の中、大変でしょうけど……お願いしますね」
布団の中で彼女の手がするするとこちらに伸びてきて、僕の手を見つけて握りしめる。
彼女の手のぬくもりを感じながら僕は答える。
「うッス。また、次の土曜日も絶対に迎えに行きますから。あ、あ、安心してほしいッス」
「うッス。お願いしますね」
そして、すぐに
今回は、これまでで一番楽しい土曜日だったな……。
また土曜日が来たら、バス停の彼女を迎えに行くんだ……。
そう思いながら僕は眠りにつき、そしてまた新しい夢を見たのだった。
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