第4章 能力の目覚め
014 第4章 能力の目覚め
予想していたとおりだった。
やっぱり時間が戻った。
三度目の同じ月曜日がやって来たのだ。
高校に着くと僕は、授業がはじまる前の朝の教室でオダヤカに声をかけた。
「おはよう、オダヤカ」
「おう、おはよう」
声をかけてもオダヤカの反応は、いつもどおり普通のものだった。
彼はこの月曜日に対して、特に何も違和感を抱いていない様子である。
やはり、時間が戻っていることに気がついているのは、僕だけなのだろうか?
僕はオダヤカを教室の後方に連れ出した。そして、周囲の人間に話を聞かれないような場所を選んで話を続けた。
「なあ、オダヤカ、聞いてくれ」
「んっ、なんだ?」
「今から僕は変なことを言うぞ」
「今から? いやー、いつも定期的に変なことを言っているじゃないか? はははっ」
「はあ? いつも変なことそんなに言ってねえし」
「そうか。悪かった」
「いや、こちらこそ悪かった」
僕はぺこりと頭を下げると、話がズレたので修正する。
「なあ、オダヤカ。この月曜日、何か変だとは思わないか?」
「何がだ?」
やはり、オダヤカは『同じ月曜日が繰り返されていること』に気がついていなかった。
「時間が戻っているんだ。僕にとっては『三度目の同じ月曜日』なんだよ。なあ、『バス停のずぶ濡れの女子高生の話』を覚えていないか?」
僕がそう言い終わった瞬間だった。
オダヤカの表情が、一瞬で変わった。
オダヤカは、メガネをくいっと上げながら言った。
「おいおい、嘘だろ? なんてことだ……。お前からその話を聞いた途端、急にすべてを思い出した気がする」
「えっ?」
「思い出したぜ」
「本当か? たとえば?」
「火曜日にロクゴクシ先輩に会った……。そして、人工知能にお前の恋愛相談をした。バス停の濡れた女子高生の話をだ……」
オダヤカは本当に記憶が戻ったみたいだった。
彼はメガネを、くいくいと上げながら言った。
「ああ、なんてことだ。この月曜日の記憶、俺にとっては二回目の記憶だぞ……ってことは、お前にとっては――」
「僕にとっては、三回目。三回目の月曜日なんだ」
「んっ? なんでお前の方が一回多いんだっけ?」
「んっ?」
「この月曜日の記憶、俺は二回目で、お前は三回目なんだよな。俺、なんでお前より一回少ないんだっけ?」
首を小さくかしげながら、オダヤカはメガネをくいっと上げた。
僕もメガネをくいっと上げながら話す。
「僕がこの月曜日に最初に戻ってきたとき、前の月曜日の一回分の記憶がさあ、なんていうか、そのお……オダヤカはカウントされていないからじゃないか? んっ、僕が言っていること間違ってないよな?」
ちょっと混乱してきた。
それはオダヤカも同じようだ。
「んっ? 俺は最初の一回目よりも前の月曜日は、記憶がカウントされていないんだっけ? 俺が言っていることも間違ってないよな?」
「ああ。だから、なんて言えばいいのか、そのカウントされない月曜日がアレだよ。アレだな。アレなんだよ」
「アレしか言ってなくねえ? でも、アレだよな」
「ああ、アレだ」
「なんて言えばいいんだ?」
オダヤカが苦笑いを浮かべる。
僕もなんだか面白くなって、少し笑ってしまった。
「ふふっ、その、だからアレだよ。だからさあ、一回カウントされていない月曜日がオダヤカの記憶がない月曜日だ。僕が二回目のときの月曜日が、オダヤカにとっての一回目になって、その前のオダヤカの月曜日は記憶からなくなっちゃっているから? んっ? 何を言っているんだ、僕は?」
「んっ?」
「んっ?」
僕とオダヤカは同時に首をかしげた後、メガネをくいっと上げた。
二人の動きが意味もなくシンクロした。
それから僕とオダヤカは、もう少しだけ話し合ってお互い理解した。
「わかったぞ。だから、俺には『記憶に残っていない月曜日』が一回あるってことだな。気持ち悪いな。俺にとっては一回目になる『最初の記憶に残っている月曜日』が、お前にとっては『二回目の記憶に残っている月曜日』ってことなんだろ?」
僕は、こくりこくりとうなずく。
「そうそう、その認識でいいんじゃないか?」
「なんか、一回わからなくなると、混乱する難しい話だよな」
「ああ、混乱したな」
「話は変わるけどさあ、
鏡? はあ?
「えっ? オダヤカさあ、今、その話したい?」
「あっ、まあこの話はいいか。やめとこう。また混乱するから」
「ははっ。鏡の話は、やめておこうな。話が脱線するしな」
僕とオダヤカはお互い苦笑いを浮かべてから、同時にメガネをくいっと上げて話を元に戻す。
二人の動きが再び意味もなくシンクロした。
本当に無意味なシンクロだ。
そして、オダヤカが先に口を開いた。
「しかし、お前から『時間が戻っている話』を聞いた瞬間さあ、前回の月曜日の記憶が突然よみがえったんだ」
「へえ」
「お前の話が『記憶をよみがえらせるスイッチになっている』とかなのか?」
「スイッチ?」
「ああ。お前から『時間が戻っている話』をされると、記憶のスイッチがONになって、俺が思い出す仕掛けなのかな?」
そう言ってオダヤカは、眉間にシワを寄せながらメガネをくいっと上げた。
「オダヤカは、僕から話を聞くまでは、時間が戻る話を本当に忘れていたんだな?」
「そうだ。きれいさっぱり記憶になかった」
「ロクゴクシ先輩は、どうだろう? 覚えているだろうか?」
僕とオダヤカは、同時にメガネをくいっとあげる。
またまたメガネを上げる動きがシンクロした。今日はシンクロ率が高い。
オダヤカがまた先に口を開く。
「明日の火曜日なら、俺たちはロクゴクシ先輩と会えるぜ。先輩には今日のうちに連絡しておくよ」
「先輩といっしょにいた、あの白衣の女の人とも?」
「ああ。ナナゴクシ先輩か。あの先輩にも会えるだろうよ」
んっ!?
ナナゴクシ先輩……!?
「あの人、ナナゴクシ先輩っていうのか?」
「んっ? 言ってなかったっけ?」
「はじめて聞いた」
「あの白衣の人はさあ、『三国志よりも2倍スケールの大きな人であるロクゴクシ先輩』よりも、さらに
僕は首をかしげた。
「んっ? 『一国志』が、人のスケールの大きさを表現する単位なの? お前は『
僕のそんな発言に対して、オダヤカはメガネをくいっと上げて言った。
「んっ? お前、ちょっと何を言っているんだ?」
「えっ?」
「さっき会ったばかりのときに言ったけど、やっぱりお前、定期的に変なことを言っているじゃないか」
「い、いや、オダヤカの話に乗っかってみただけなんだけど……」
それからオダヤカの説明が続いた。
聞いた話だと、ナナゴクシ先輩に『七国志』というあだ名を与えた人は、高二の夏に県外に転校したそうだ。
そして、ナナゴクシ先輩は、三国志のことはよく知らないらしい。
オダヤカはメガネをくいっと上げながら話を続ける。
「俺が考えるに、『月曜日に時間が戻るという話』を、お前から聞かされた人間は、この不思議な現象に
「感染?」
「まあ、感染って言葉は適切ではないな。よくわからんが、感染は病気とかに使う言葉か? こういう不思議な現象に巻き込まれる場合は、感染じゃなくてなんて表現すればいいんだろう?」
オダヤカがぶつぶつとつぶやきはじめた。
僕はメガネをくいっとあげてから、オダヤカに自分の考えをこう伝えた。
「ひょっとしてさあ、僕から『月曜日に時間が戻るという話』を聞いた人に限って、『月曜日に時間が戻っていることに気がつくことが可能になる』って感じのことが言いたいのか?」
「おお、そのとおりだ。よくまとめてくれた。俺の言いたいことがよくわかったな。天才だな、お前。さすが同じ月曜日を俺よりも一回多く繰り返しているだけあるぜ」
オダヤカは僕の肩をポンポンと叩くと、話を続けた。
「お前から『月曜日に時間が戻るという話』を聞いた人間は、時間が戻ったときに時間が戻っていることに気がつく能力に目覚めるんだ。感染じゃないな。これは『能力が目覚める』って感じだろう」
「『時間が戻っていることに気がつける能力』が目覚めるかあ……」
「なんだよ、これ。はははっ」
「はははっ」
僕もオダヤカといっしょに笑った。
オダヤカは話を続けた。
「だから、お前から話しかけられたら、そこで能力のスイッチがカチッとONになってさ。さっきの俺みたいに記憶が戻って、それで『時間が戻っていることを認識できる』ようになるんだよ。たぶん」
もし、オダヤカのその考えが本当なら?
僕は月曜日に戻っている話を、あちこちでするべきではないだろう。
話せば話すほど、この奇妙な状況に巻き込んでしまう人の数が増えるからだ。
そんな僕の考えと、オダヤカの考えは一致していたみたいだった。
彼は僕に言った。
「まあ、あちこちでこの話をするべきではないと思うぜ。巻き込まれる人数が増えるだけだ」
「ああ、そうだな」
「この話を聞いたのは、俺とロクゴクシ先輩と、ナナゴクシ先輩くらいか?」
「うん。あと、前回の月曜日には父親に軽く話したけれど、今回はまだ父親には話していない。他の人には、もう話さないよ」
オダヤカは、こくりとうなずく。
「それがいい。俺も誰にも話さない。約束する」
「頼むよ」
「ああ。じゃあ、とりあえず明日、ロクゴクシ先輩たちに相談してみよう。あの人たちは、すでに巻き込まれているからもういいだろ? 申し訳ないけど協力してもらおうぜ。頭の良い先輩たちに話を聞いてもらうんだ」
そんなわけで僕とオダヤカは、再びロクゴクシ先輩たちと会うことにしたのだった。
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