8-17 強化訓練 3

 朝目覚めると視線を感じる。その先にはじ~とこっちを見つめるハティが居た。

 目が合った瞬間尻尾フリフリで跳びかかってきた。少しうれしょんされたが可愛いので許す!


 俺が起きるまでじ~と待ってる姿は実に可愛い。指ガジ駄竜と大違いだ。


 すぐに外に連れて行ってあげると、うんちとおしっこをする。

 教えてもいないのに、極力部屋内で排泄しない。

 雄のようにテリトリーを主張しない分、雌の方が躾けやすいのは犬に近いのかもしれない。



 今日も朝食前に剣の稽古だ。


 ナシル親子も起きてきたので、早速一緒に稽古を始める。


 親子の剣の指導の間、フェイはクロちゃんの世話だ。

 あの注意した日以来、ちゃんと起きて世話をかかさずやっている。


 クロの世話の後、フェイも合流して俺と手合せする。


「二人は昨日の反復練習からだ。1の型始め!」


 物覚えがいいようで、二人はちゃんと覚えていた。


「次はナシルさんが1の型の攻め、メリルが1の守りの型で受けを行う。できたら攻守入れ代わってもう1回だ」



 1と2の型は完璧だ。


「うん、完璧だ! なので3の型を教える。まずは攻めの方から」


 3の型は突きが入るので、注意をしないと目でも突いたら失明する。


 3の型の攻守を覚えた時点で【剣士】レベル1が親子に付いた。


「二人ともおめでとう。ステータスを開いてごらん」


「あ! 【剣士】が付いた! お兄ちゃんありがとう! やったー!」

「リョウマ君、ありがとうございます! たった2日で【剣士】が付くとは思いませんでした」


「二人が熱心だからだよ。一生懸命覚えようとしている人と、親に強制的に教え込まされてる貴族のボンボンじゃ意気込みや、気合が違うから、習熟速度が雲泥に差が付くんだよね。全て本人次第だよ。でもまだまだこれからだよ。【剣士】→【剣王】→【剣聖】→【剣鬼】→【剣神】と5段階あるからね。冒険者やるなら【剣王】ぐらいの腕は欲しいね」


 俺はまたこっそり親子の【剣士】を【カスタマイズ】でいじってレベル3にしておいた。


「よし、今朝はここまで! シャワーを浴びて朝食にしよう」


 朝食後、少し休憩した後に出発する。


 俺たちの移動は基本ランニングだ。基礎体力を付けさせるために歩かない、歩かせない。


 ただ乗馬訓練もさせるために、親子を交代でクロに乗せ指導している。

 その間はランニングしなくていいので、親子にとってはちょっとした休憩になるはずだ。


 俺とフェイだけなら1日中でも走っていられるけど、俺たちの体は人間素体じゃないので、親子には無理をさせないように1時間毎に休憩をさせている。




 午後にゴブリン4体と遭遇した。

 迷ったが戦闘させてみることにした。過保護すぎるのもいけないとナビーに注意されたのだ。

 ナビーの判断では、もうオークでも余裕なのだそうだ。


「二人とも初戦闘だ。やれるか?」


「はい! リョウマ君、やってみたいです!」

「お兄ちゃん、私もやりたい!」


「人型だが大丈夫か!?」


 俺の発言にきょとんとした顔をされた。

 親子はこちらの世界の住人だ……人型でも、ゴブリンやオークを殺すのに忌避感はないのだろう。


 【マジックシールド】【プロテス】を念のために掛けてやり戦闘開始だ。


 今回、魔法は禁止してある。





「無事に勝ったのだが、メリルは20点だな」

「え~! 一回叩かれちゃっただけだよ? リョウマお兄ちゃん、もっと良い点頂戴よ~」


 そういえば、ナビーに俺もこうやって酷評されたな。


「俺がシールドを張ってたから怪我していないが、もしあれが鋭利な剣でシールドがなかったらメリルは死んでいたんだぞ」


 そう言われて、やっとその事に気付いたのかシュンとなった。


「ナシルさんは60点ってとこかな。なので今から反省会を行う!」


「「はい、師匠!」」


「まず、一番ダメな点だ。折角2人いるのに連携が全くできてない。ゴブリン並みの知能なのかって話だ。ナシルさんはメリルがゴブリンに後ろに回られて囲まれた時にメリルの背を庇いに行くべきだったね。そうすればお互いの背を庇い合え死角がなくせる。特に多数を相手にする時は背中は注意がいる。1人なら仕方がないけど折角2人いるのだから庇い合うように。後、声掛けするのも全くしていなかったね。敵の武器の情報や残数の共有をすればもっと安全に動けるようになるはずだよ。それといくら弱いからと言ってうかつに攻め込み過ぎだ。もっとちゃんと相手を見て攻撃するようにね。後は攻めの型より、守りの型の方をもっと意識するように」


「はい師匠! でも、どうして攻めより守りなのでしょう?」

「こちらがダメージさえ追わなければ、たとえ何時間かかってでも最終的には勝てる。逆に軽い怪我でも、何カ所も傷つけられたら、出血死で途中で負けてしまう。確実に勝つならしっかり守って相手を見据えて、相手に隙ができた時だけ攻撃しておけば、ちょこっと大きな血管に傷をつけるだけでも弱って後は勝手に死んでくれる。首なら3分もしないうちに死ぬぞ。俺の教育方針は『命大事に!』だ」


「そっか、無理に心臓や首ちょん狙わなくてもいいんだね」

「ああ、首チョンとかの即死狙いは実力が付いてからだ。護衛で一緒だった冒険者たちも、ちょっと強めの魔獣には腰が引けて慎重にしながらも何カ所も切りつけていただろ? 低ランク冒険者が稼げない理由なんだが、急所を一撃できないからチマチマ攻撃して、素材の買い取り評価が下がるってのも原因の一つなんだ。それでも怪我するよりずっといいから隙をついて地味な攻撃を繰り返して倒すんだよ。最終的に強くなればサリエさんのようにすれ違いざまにシュパッと首を落とせるようになる」


「うん! 今日初めて戦闘して解ったけど、サリエさん凄いね! 私と同じくらいしか背がないのに凄く強い!」



 昼食後、出発早々街道脇の林に、良い薬草が生えていた。


「こういう雰囲気の場所にはよく薬草がある。魔素が多いところで良く育つからだ。特に魔草は魔力だまりの場所で濃度の高いものが採れる。でもそういう場所は強い魔獣も出るので注意がいる。さぁ、スコップを出して薬草採取だ。やり方は覚えているね?」


 2人に与えたアイテムポーチに、各自で採取したものを入れてある。

 採取時点から等級に差が出るので、それを自覚させるために各々で保管させたのだ。


「よし、今日は後2時間ほどの移動で終えようか。3時ごろから回復剤の指導だ。いいね」


「「はい!」」


 移動が少なくなって喜んでいるのが伝わってくる……まぁ、結構ハードに鍛えてるから仕方がないか。



 回復剤なのだが、ナシルさんは問題なく作れているが、メリルはちょっと苦手のようだ。どうしても等級が完成までに3つほど下がってしまう。


「メリル、残念だが俺のリョウマ印はあげられないな。平均初級の8級はあるのだが、悪いものだと5級品が混ざっている。なのでこちらの無印の容器を使うように」


「ナシルさんは合格です。次の課題として、自分やメリルが作ったものを毎日見て【鑑定】スキルを得ましょう。役立つはずです」


「どうやれば鑑定スキルは得られるのでしょうか?」

「毎日目利きを行って精度を上げていくしかないですね。毎日やっているうちに完成品の良し悪しが判るようになるので、その頃には鑑定スキルが勝手に身に付きます。どのスキルもそうですが、一番最初のレベル1を得るのが難しいのです。一度スキルを得たら熟練度は反復練習で勝手に上がっていきますので、目指すのは最初の初級の【鑑定】ですね」


「良く分からないです……」

「例えばこのメリルがさっき作った回復剤ですが、ここに見本の5級から10級までの物を用意しましたので、良く眺め、容器を振ったりして色や粘り具合から等級を見比べて調べてみてください。毎日やってれば微妙にその5本の違いが分かるようになって見本がなくても等級が見分けられるようになります」



「6級の物と同じような気がします」

「正解です。ではこれは?」


「これも6級でしょうか?」

「自身なさげでしたが正解です。微妙に色合いが違うので比べると分かりますよね。こうやって繰り返してやっていれば、見本の物がなくても一瞬で見分けがつくようになります。そうすれば鑑定魔法を習得して、他の雑貨などもレベルに応じて神の祝福の効果で判別できるようになるのです」


「成程、良く解りました。頑張りますので、答え合わせの時はお願いしますね」

「ええ、フェイも鑑定できますので、どっちかが居る時に練習しましょう。回復剤専門の冒険者を目指すのであれば、自分の売る品ぐらい鑑定できなきゃ足元を見られますからね。商人の皆が、ガラさんやサクエラさんのように良心的に商売しているとは限らないのです」


「はい、その辺は主人に良く言われておりましたから大丈夫です。騙されて大損した~とか言ってましたからね」



 夕方はまた剣の修練をする。

 今日は1~3の型を何度も繰り返し、攻め手と受け手を替えて練習する。


 1時間ほどで終了し、今日は外で魔法の訓練を行う。


「メリル、今日は外で魔法の訓練だ。今日は昨日覚えたスキルを凍属性で練習するように」

「はい師匠! 周りの木に撃って良い?」


「そうだな、的があった方がいいからな。だが無闇に木を倒すのは感心しないからこの土壁の的にしろ」 


 土壁を錬成して、真ん中に円を描いた。


「分かった!」



「ナシルさんは昨日の続きですが、水量調整と今度は冷たく美味しい水をイメージするようにしてみてください。でも勝手に飲んじゃダメですよ? 下手したらお腹を壊しちゃいますので」


「分かりました。冷たくて美味しい水ですね。やはりリョウマ君の水ですね」


 チョロチョロッと出た水を鑑定してみる。


「どれどれ、先に鑑定してと……うん飲水可能ですね。じゃあ、飲んでみます。美味しいですが、冷たくないですね。自分で飲んでみてください」


「普通の水ですね……」


「コツはやはりイメージ力なので、丁度今、メリルが氷魔法を撃ちまくってるので、その氷を見たり触ったりしてイメージを高めてもう一度水を出してみてください。どっちかと言うと、最初は冷たい水を連想するより、氷を出すくらいのイメージでいいのかもしれないですね」


「氷ですか、やってみます」


 ナシルさんはメリルが撃って凍っている土壁や周辺の草、アイスボールで出した氷の塊を触ったりしてイメージ力を高めてから手をかざした。


「あ! それ【アイスボール】じゃん!」

「エッ!? ホントだ! リョウマ君! 初級魔法が【無詠唱】で発動しちゃいました!」


「折角なので、メリルが撃っている土壁の的に、良く狙って放ってみてください」

「はい!……エイ!」


 ちゃんと放てている。威力はレベル1なので大したことはないのだが。難易度の高い氷魔法習得だ。


「お母さん、凄ーい!」


 2人はキャッキャと大はしゃぎだ。


「ナシルさん、もう1回出せますか?」

「はい、やってみます。エイ!」


 うーん、ちゃんと出せている……やはりメリルの母だけの事はある。


「発動はイメージだけで良いのですが、水を出すつもりで放った魔力が【アイスボール】だったとかだと危険ですので、発動時にはスキル名もしっかり刻んでイメージしてください。スキル名を付けることによって格段に制度も上がります。水を出すだけなら生活魔法の【アクア】、初級の攻撃魔法を放つときは【アクアボール】です」


「はい。【アイスボール】! 出ました! ちゃんとイメージどおり発動しました!」


「折角の無詠唱習得なので、スキル名は言わなくても良いですが、パーティーとかの場合、発動タイミングが仲間に分かるように敢えて言う事が多いです。臨機応変に使い分けましょう」


「そうですね。分かりました」


「この【アイスボール】の動画、ソシアとフィリアに今から送るね」

「あの、リョウマ君? ソシアちゃんは分かりますが、なぜフィリア様に?」


「実はフィリアも【無詠唱】にもう1月くらい梃摺っているのです。下手に知識がある分、これまでの常識が邪魔をして習得の妨げになっているようです」


「私たちは知識が全くない分、リョウマ君の魔法しか知りませんからね。それが普通なのかと思っていました」

「それが良いのですよ。間違った教科書で覚えると、後で修正する時、フィリアのように困った事態になりますからね。イメージが大事な魔法なのに、そのイメージが間違っていたのです。修正は中々大変そうです」


 メール画像を送ったら速攻でコールがあった。


 ソシアからだ。


「リョウマ! やっぱり今から私たち、そっちに行っちゃダメ?」

「ダメだよ。皆の指導までしていたら、ナシルさんたちがその分遅れる。あくまでこの親子がメインなんだからね」


「分かってるけど、たった2、3日で【無詠唱】で氷魔法放ってるのよ。私もリョウマに指導してほしくなっても仕方ないじゃない!」


「帰った時に教えてやるから、それまで自分で頑張れよ。コツは教えたんだから、後は努力次第だろ?」


「教えたのは、私たちとやってたあれだけなの?」

「あ~、いや、他にもあるけど……」


「ほらそうでしょ? その教えた事、全部教えなさいよ!」



 う~、言えない……裸にして直接体に魔力を流して教えたとか言えません!

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