8-16 強化訓練 2

 一息ついて皆でお風呂に入り、マッサージを行う。


「流石に二人とも疲れてるようだね。足がパンパンだ。メリル、ここ痛いだろ?」

「ンギャー! リョウマお兄ちゃん酷いよ! 痛いって知ってて、強く押さないで! ンギャー!」


 隣ではナシルさんが同じようにフェイによって絶叫している。


「今、ちょっと痛いのを我慢するのと、明日歩けないほど痛いのに無理やり痛いまま走らされるのとどっちがイイ?」


「う~、今ちょっと痛い方がまだいい」

「明日はもっと距離を走るからな」


 マッサージが終われば今度は魔法教室だ。


「じゃあ、これまでの復習からだ」


 メリルは教えたことを完璧にやって見せた。


「メリルいいぞ、合格だ。今日は【アクアカッター】を教えてやる。これを覚えたら首チョンパできるぞ」


「エッ! リョウマお兄ちゃんが良く使っているあの魔法?」

「ああ、あれは風系中級魔法の【ウィンダラカッター】だ。だが切り口は水の方が奇麗に切れるんだぞ」


「あれ? じゃあ、どうして【アクアラカッター】で倒さないの? お兄ちゃんなら勿論使えるよね?」

「良い質問だ。風魔法だと切り口は傷むが、その分出血死も狙える。毛皮が高い奴なら雷系を頭に一撃とかで倒したりもする。なぜおれが水を使わないかというと、狩った魔獣が濡れるからだ。周りも水浸しになるしな。濡れた足元にバカが雷系を落としたらこっちにも被害が出る」


「教えてもらった、フレンドリーファイアってやつだね」

「そうだ。それと、水系は目視で見えるから正面からだと躱される率も高いが、風系は見えないので回避されにくい。どっちもメリットとデメリットがあるので、臨機応変に使い分けるのがいい。もう少し魔力操作の精度が上がったら氷魔法を教えてやるな」


「エッ? 【アクアボール】ならもう凍らせられるよ?」

「何!? ちょっと撃ってみろ!」


「えい! ほらね? これでいいんだよね?」


 【アイスボール】がちゃんと発動していた。

 俺の冷たい水を真似て最初に出した時に、冷たくするコツをなんとなくつかんだのだそうだ。


「完璧にできているな、それをこう先の鋭利な槍のイメージにしてみてごらん。こんなやつだ」

「やってみる、こんなのでいいのかな?」


「お! いいぞ、それが【アイススピア】だ。【アクアスピア】の亜種になるから、習得スキル欄には【アクアスピア】としか載らないが、要は只凍らせたものだな。放つ時にスピアが刺さった敵がその冷気で凍るイメージで放つと効果が高い。よし肝心の【アクアカッター】を覚えるぞ。これはちょっとコツがいる。薄い水が高速循環してるイメージで作ったらかなり威力のあるものができる。こんな感じだ」


 俺のは皆のと少し違っている。直系50cm薄さ1mmの薄い水の膜内を水が高速循環しているのだ。当然それの外周に触れるとスパッと切れてしまう。


 メリルは5回目で似たようなものができた。


「大体いいが、イメージがまだ足らないようだね。おそらくこれだと射程は10mほどしかないな。それ以上になったら威力が無くなって、切断できるほどの威力が保てないだろう」


「ちょっと難しいね」

「なに、初見でここまでできたんだ。練習すれば距離も威力も上がるよ。よし、今日は【アクアスピア】と【アクアカッター】をメインに練習するように」


「はい師匠! 頑張ります!」

「今日は魔力が切れそうになったら、この魔力回復剤を飲んで、もう1回MPが切れるまで練習するように。レベルが上がってMP量も増えているので結構な数を撃てるだろう。湯船にこの強化した木のボールを浮かべておくので、これの中心を狙って撃つように。命中精度の練習になる」 


 メリルは凄い成果が出たが、ナシルさんはまだ魔力操作が上手くできないようだ。


「ナシルさん、ちょっと上半身裸になりましょうか」

「エッ?……はい」


 一瞬迷っただけでスパッと脱ぎ捨てた。俺の指導を信じ切ってくれている証拠だ。


「背中を向けてください。メリル、ちょっと集中するから休憩しててくれ。音が邪魔になる」

「うん、分かりました師匠」


「ナシルさん、目を閉じて俺の魔力を感じ取ってください。今どう動いてますか?」


 俺は自分の魔力をナシルさんに流し込み、背中から足の方に循環させている。


「背中から足の方に行って。また背中の方に戻ってきてます」

「そうです。これはどうですか?」


「う~ん。リョウマ君の手の平から出た魔力が、体全体に広がって行ってます。今度のは返ってこないでそのまま体に溶けるような感じですか?」


「ええ、合ってます。この溶けるような感じなのですが、これが溜まり過ぎると、ちょっと前までのメリルのようになってしまうのです。魔素が体内に蓄積されるのですね。ナシルさんもメリルの母親だけあって魔力量は多いのです。才能はあるはずですので、足らないのは操作力とイメージ力です。足らないイメージは実際に体感した方が解ると思うので今回裸になってもらいました。魔力感知は十分です、今から俺が補佐するので言われたようにイメージしてみてください」


「はい、お願いします」

「まず魔力は心臓から血液と一緒にどんどん湧き出てくるものと思ってください。その魔力は血管を通って各部位に流すことができます。ちょっとイメージしてみてください。ナシルさんの魔力に同期して誘導します。ほら、心臓がドクンドクンと鼓動してるのが分かるでしょ。それと同じように魔素も湧き出ているイメージです。こうです! それがナシルさんの魔素です。その湧き出ている魔素を循環して見ましょう。血管を流れるようにイメージして右手の方に流してみてください。いいですね~次は左手に。そうです……自分でできるようになりましたね。これが魔力操作の基本です。自分の魔力を思いどおりに操れるようになったら後はイメージ次第で魔法は無限の可能性を秘めています」


「自分の魔素なのに温かいですね」

「魔法使いに何時までも若々しくて長寿な方が多いのは、この魔力循環が上手なので老化が抑えられるのですよ」


「そうなんですか? じゃあ、私も上手くなれば若々しく保てるのでしょうかね」

「ええ、ナシルさんは折角の美人なのでできるだけ若々しい時を伸ばせるように努力しましょうね。じゃあ続けますよ。この魔素は神の祝福で魔法として利用できます。祝福の無い系統には変換できないので、いくらイメージしても発動しません。逆に強い祝福を得ていたら、メリルのようにちょっとしたコツを掴んだ程度でスキルが発動できるのです」


 俺の説明を休憩中のメリルもしっかり聞いている。


「もう一度やってみましょうか。今度はその魔素が右手の人差し指まで流れて行き、指先を出る時に水に変換されて流れ出るようにイメージしてみてください。うーん……指先までは上手く流せてるのに、変換ができないですね」


 俺は自分の服を脱いで、ナシルさんと同様上半身裸になった。


「ナシルさん、俺の背中に手を当てて、俺の魔力を読んでみてください。分かりますか?」


「あ! はい! 凄い勢いで循環しています!」

「魔素を操るのが早く正確ならその分発動時間や精度も上がります。では実際に水を出しますのでちょっと流れを感じて見てもらえますか?」


 手の先からチョロチョロ程度の水を出す。分かりやすいように魔素もゆっくり流してやる。


 ナシルさんは最初手の平を俺の背中の心臓付近に当て、流れを見ていたのだが、不意にぴったり抱き着いておでこを心臓付近に当ててきた。


「ちょっ! ナシルさん!?」

「あ~っ! リョウマ君、動かないで! 今、何となく解りそうなんです!」


 さっきまで意識してなかったのに! はい、勿論おっきしましたよ。仕方ないじゃないですか……肉体は15歳の健全な少年なのです。背中にこれでもかってくらいの大きな生乳が押し付けられているのですからね。やわやわでポニョポニョで……夢心地です。でも水はちゃんと出していますよ。鼻から赤いものと下から白いものも出そうですけどね。


 俺の心音が跳ね上がったのは気づかれているだろう……。


 俺にピッタリ後ろから抱き着いたまま、手を俺の胸の前にかざしたかと思ったら、チョロチョロと水がではじめた。おお~! これでナシルさんも【アクア】と【無詠唱】習得だ!


「お母さんやったね!」

「ええ! リョウマ君、できました! お水がちゃんと出ました!」


「おめでとう! これでナシルさんも【アクア】と【無詠唱】習得です!」


「【無詠唱】! これ無詠唱なのですか!? 賢者様クラスの実力が要るって言われてますよ?」

「只の迷信です。俺の言う通りに、心から信じて練習していれば見てのとおりです」


 親子で飛び跳ねて喜んでいる……でもナシルさん……ピョンピョンと飛び跳ねる度にお胸が凄い事に!


「ナシルさんは、MPが無くなるまで今日はその水を出す練習です。多く出したり少なく出したり思い通りに出せるように調整しながら練習してください。メリルはさっきの続きな。あ、服はもう着ていいですよ。そうだ! ソシアにこのナシルさんの【無詠唱】での発動ができた動画をメールに張って送って悔しがらせてやろう!」


「もう! 兄様はどうしてそう意地悪を思いつくのですか!」

「これを見て悔しがれば、頑張って努力するだろう。素質はナシルさんより、ソシアの方が遥かに上なんだから、できないはずがないんだよ」



 ソシアにナシルさんが【無詠唱】で【アクア】を発動するところと、メリルが【アイスボール】【アイスランス】【アイスアロー】【アクアカッター】を【無詠唱】で発動している動画を送った。



 速攻でコールが鳴って、散々ズルいと愚痴られたが、ナシルさんたちにはおめでとうと祝福の言葉を送っていた。ソシアも良い娘なんだよね。



 今日の魔法講義は有意義に終えたのだった。

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