8-18 強化訓練 4
ソシアのコールを切った瞬間、フィリアからのコールだ。
「フィリア、こんにちは」
「ふむ、こんにちはなのじゃ。親子はそこにおるのか?」
「うん、居るよ。ハンズフリーにするね」
「メリル、ナシルおめでとう。其方ら優秀じゃの。妾はもう、1カ月も苦労しておるのにまだ【短縮詠唱】しか習得できておらぬ」
「ありがとうございます。わたくし自身びっくりいたしております」
「フィリア様ありがとうございます。リョウマお兄ちゃんの教え方が上手なんです」
「ふむ、そうなんじゃろうな。折角良い師匠が付いてくれているのじゃ。今のうちに覚えられるだけ教わるとよい。リョウマもずっとは付いて指導できぬからの」
「はい、頑張って覚えます!」
「ふむ、良い返事じゃ。素直で良い子じゃの」
「そっちに行ったら、フィリアにもコツを教えるからね。それまでは自分で頑張って」
「本当じゃぞ! 妾にもちゃんと教えてくれるのだな? 楽しみにしておるからな?」
「今日はナナは居ないんだね?」
「ナナは調理当番で居ないのじゃ」
「そっか、後2日でガスト村に着きそうだよ。日に日に彼女たちの体力がついてペースも上がっているから、この分だと1週間ほどで神殿に着くかもだね。でも、メリルに無理をさせたくないので、皆には10日ほどの予定だと伝えておいてほしい」
「フム、了解じゃ。メリルは子供故、決して無理はさせるんじゃないぞ?」
「分かってるよ。じゃあ、また何かあったら連絡するね」
「ふむ、くだらぬ事でも皆其方の連絡を楽しみにしておるでの、定期的に連絡を寄こすのじゃぞ」
「あはは、分かったよ」
通話を切ったらメリルが話しかけてきた。
「リョウマお兄ちゃん、フィリア様に愛されてるね。フィリア様、お兄ちゃんと話してる時、凄く嬉しそうな声してる」
「こんな事、これから神殿勤めするメリルに言いたくないけど、神殿ってめっちゃくちゃ退屈なんだよ。娯楽に皆飢えているんだ……だから俺のように外部の情報をこうやって知らせる人ってのはとても喜ばれるんだよ。メリルも着いたら覚悟しておけよ、びっくりするくらい話し掛けられるぞ。外の情報を持っているメリルは話のネタがなくなるまではいいおもちゃだ」
「あう、なんとなくお兄ちゃんの言っていることが分かったよ。メリルたちって着いたらいいネタ提供者なんだね」
「そういうことだ……マジ凄いからな。着いた初日は疲れるだろうが頑張れよ」
魔法訓練は親子が魔力切れになった時点で終了とした。
風呂に入ってマッサージをする。可哀想だが、毎日足の筋肉が炎症を起こしている。ちょっときつめの筋肉痛だ。マッサージ時に少し痛い。
「ンギャー! お兄ちゃん、昨日より痛い!」
「フェイちゃん、もっと優しく~んぎゃっ! イタタッ!」
マッサージ台の上で、今日も親子で絶叫中だ。
これをやっておかないと、次の日は動けないほど悪化するから手抜きはできない。
翌日はほぼ移動だけに充てた。
夕方5時頃、そろそろログハウスを出す場所を探そうかなと思っていたら、ナビーが声を掛けてきた。
『……マスター、11km先にキラーマンティスがいます』
『11kmか……少し遠いな。今日は一日中移動に充てたから、2人とも結構ヘロヘロになっている。更に11km走らせるのはちょっと可哀想じゃないか?』
『……キラーマンティスとそこに向かうまでにいるオークとでレベルアップします。レベルアップ後に明日村まで一気に走らせれば【身体強化】が自己アップでレベル4になり【俊足】と【脚力強化】【筋力強化】を自己習得しそうです』
『それは、美味しいな。ちょっと無理させる意味があるってわけだ……よし行かせるか』
「ナシルさん! 今日の最終目的地にキラーマンティスが居ます。それが本日の課題です! 途中にオーク2、ゴブリン3の群れが居ますがもう敵じゃないでしょう。今日はカマキリとやり合ってもらいます。おそらくそれで二人ともレベルアップします」
「リョウマお兄ちゃん! メリル、レベルアップしたい! カマキリどこにいるの?」
「はい、頑張ります。それで後どれぐらいの距離があるのでしょう?」
2人ともヘロヘロで、カマキリの居場所を気にしている。マジごめん、ちょっと距離あるんだよね~。
「オークが6km先、カマキリが11km先だけど頑張れ! 急がないとどっちも逃げちゃうよ? 全部狩れればレベルアップだ! レベルが上がったらご褒美に夕飯は好きな物をなんでも作ってあげるよ」
「うっ……11kmもあるのですか。頑張ります」
「お兄ちゃん遠いよ~、もう限界だよ~」
「分かっている。今日1日で50kmほど走ってるんだ。凄く頑張って走ったね。更に11kmは鬼の所業だよね。だが敢えて鬼になる! さぁ~行け~我が弟子どもよ! 今日の試練は明日の糧になる! 頑張るのだ!」
二人ともめっちゃ頑張って走った。逃げられると言ったのでもう全力疾走だ。時速20kmほどでオークの居る地点まで辿り着いた。1km3分ほどだ……もうこの速度はマラソン選手の世界ランカー並みだ。
「魔法も使用していいから、冷静に倒すんだぞ。オークは肉を意識しながら隙を見て急所に一撃がいいぞ」
色々アドバイスをしようと思っていたが、瞬殺だった。
メリルが足回りを凍らせて、ナシルさんが棒立ちのオークの首を凍った順番に薙いで終わりだった。
「お兄ちゃん、どうだった?」
「リョウマ君、今のは何点でしょうか?」
2人とも自信があるのだろう、点数評価を笑顔で聞いてきた。
「文句なく100点だ! メリル、足を狙ったのは特に良かったぞ。初級魔法で頭を狙っても、殺せるほどの威力は無いからな。ナシルさんも無理せず凍った相手から攻撃できていて良かったですよ。メリルの魔法の射線上もちゃんと意識して開けていたとこも高評価です!」
だが後5kmのランがある。頑張れ!
「メリル! お前はもういい! クロに乗れ! 良く頑張ったな! 偉いぞ!」
後、3kmのとこでとうとうメリルがへばった。
子供にこれ以上は無理させられない。上出来だ。もうちょいだから頑張ると言っていたが、もう足が前に出ない。ヒールを掛けてあげればまだ行けるだろうがもう十分だ。
MAPから動かないカマキリを変だな~と思っていたのだが、どうやら食事中だったようだ。
「うわ~、お兄ちゃんおっかない顔だよ! 大丈夫かな? 何か食べてるよ! 口元真っ赤だよ!」
「確かに見た目は怖いし、今まで戦った魔獣の中じゃ一番強い。だが虫系は弱点がある!」
「知ってる! 寒いと弱るんだよね?」
「そうだ。虫は大抵夏場の活動がメインだ。冬の虫とかあまり見ないだろ? カマキリも夏の虫だ。冷やすと動きが鈍くなる。最初に一気に凍らせろ! メリルはMPが無くならない程度に撃ちまくれ! ナシルさんは鎌に注意で距離感を大事に足を一本ずつ落としつつ、チャンスがあれば腹を刺したり首を狙ってもいい。関節と細い首は弱点ですが、敵も警戒していますのでそうそう狙わせてくれない。よく見て戦ってください。お腹も軟らかいので狙い目です。得られる素材は鎌と魔石だけですので、少々手荒く倒しても良いので、守りだけはしっかり気を付けましょう。良ければカウント入ります5・4・3・2・1GO!」
二人同時に足に氷魔法をぶつけ、動きを鈍らせる。だが、魔法レベルが低いので鎌で凍った足回りの氷を簡単に砕かれてしまう。
「メリル、魔法の攻撃を休めるな! 体が冷えるだけでも動きはかなり鈍ってくるんだ、どんどんいけ!」
「はい! 師匠! エイ! エイッ!」
「ナシルさん、いい感じです! そのまま最初は防御に徹して、メリルの魔法が効いてくれば徐々に動きが鈍くなってきます。今は1の型の防御です! 打ち下ろしと打ち下げがカマキリの攻撃パターンです! チャンスがあればナシルさんも魔法を撃ちこんでください。折角の即時発動できる無詠唱なのです!」
「はい! 防御に徹します!」
この戦闘でシールドは張っていない。【プロテス】という物理防御50%upの魔法だけ掛けてあげている。これはナビーの指示だが、俺がいなくなった後の事を考えての指導だ。シールドで守られて痛みを知らなければいつかミスを犯して死につながる。痛みでの警戒心は大事なのだ。
ナシルさんは2本ある素早い鎌での打ち下ろしで2回切られている。防具と【プロテス】のおかげで軽症だが、ヒールを掛けてあげたくなる。
一瞬カマキリの手が止まった合間に距離を取り、初級回復剤を素早く呷ってメリルに攻撃が行かないようにすぐ戦闘に戻る。メリルのMPはまだ余裕で残っている。
メリルの魔法が15発程当たった頃には、かなりカマキリは鈍っていた。
魔法で目を狙って一瞬怯んだ隙にナシルさんが見事に首を落とした。
「やったー! お兄ちゃん、お母さんと2人だけでカマキリを倒せたよ!」
「リョウマ君、やりました!」
親子で手を取り合ってピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる。
何この親子! めっちゃ可愛いんですけど! ナシルさんが飛び跳ねる度に、ボヨンボヨンとある部分が凄い事になっているのですが!
「おめでとう! 悪くなかったよ」
『ナビー、撮ったか?』
『……はい! 完璧ですマスター! 音はどうしましょう?』
『今回お前に任せる。巫女たち用にあまりグロくならないように頼む』
『……了解です。さっきのオークとセットで加工しますね』
「でも2回切られてしまいました」
「冒険者登録をして1週間程度のアイアンランクの冒険者2名で挑んだんですよ。2回軽く掠った程度で済んだことの方が驚きですよ。ガラさんの護衛依頼中にも何度かカマキリが出たでしょ? 『装備が~っ!』って前衛職が騒いでいたの覚えています?」
「はい、『修理代が~!』って盾職の方が涙目で言っていました」
「それほどカマキリの鎌攻撃は素早いのです。それを如何に軽症で躱しつつ被害を少なくして倒すのかが初心者冒険者の課題なんですよ。倒せても回復剤と装備の修理代とで大赤字ってのも良くある事です。取り敢えず防具を直しておきますね」
「リョウマ君、ありがとう」
「じゃあ、カマキリは相手にしないで無視したらいいのに」
「メリル、虫が相手を選んでくれたらいいけどな。見つかった時点で、あいつらは攻撃性が高くて食べ物にどん欲だから見逃してくれないぞ。それに、スライムやゴブリンばかり相手にしていても強くなれないし、レベルも上がらないからな」
「そっか、さっきのは何点くれる?」
「90点ってところかな。メリルはもっとどんどん魔法を撃ちこんで良かったんだ。素材としては鎌と魔石だけなんだからね。それと攻撃箇所をもっと精査精察して狙うといい」
「精査精察して狙う?」
「えーとだな。良く観察して、詳しく調べろってことだ。最初は足ばっかり狙ってただろ? 頭も狙えと言ったら今度は頭ばかり狙ってたしな。あいつが足の氷を砕くのに鎌を足元に振り下ろしたタイミングを狙って頭に攻撃をするとかじゃないと、正面から攻撃しても鎌で弾かれたりして当たらなかっただろ? 攻撃パターンや特徴を知ってれば、それに合わせて魔法も当てやすくなる。頭はほとんどの生き物は弱点の塊だからな。さっきのように目に当たれば視界を奪えてかなり優位に倒せるからな」
「もっと観察して、考えて攻撃しろってこと?」
「その通りだ。年季の入った冒険者はそういうのに詳しいから、話を聞くだけでも勉強になるぞ」
流石に今日は70kmほど走ったので辛そうだ。
「もうすぐ日も沈む。今日は剣と魔法の訓練はお休みだ。約束通り何でも好きなものを作って食べさせてやるぞ? 50m先に広場があるから、そこで今晩は野営だ。フェイ、先に行って日暮れまでに周囲1kmの区間にいる危険になりそうな魔獣を間引いておいてくれ」
「はい、兄様! 先に行ってるね!」
「うわ~! フェイお姉ちゃん、まだまだ元気だね……」
「『灼熱の戦姫』のメンバーも、ソシアさん以外はこのぐらい平気だぞ」
「ソシアお姉ちゃんはダメなの?」
「ソシアさんは学園を卒業してまだ半年だからね。でも距離が短ければ、この倍近いスピードで付いてこれるぞ」
「倍!? やっぱり、ソシアお姉ちゃんも凄いんだね!」
親子のリクエストはすき焼きだった。カニと悩んでいたが、肉が勝ったようだ。
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