8-11 ナシル親子のパワーレベリング

 休憩地点に到着し、皆に冷たいみかん水のようなものを出してやる。遠慮しないようピッチャーで出してあげたので皆がぶ飲みしていた。


 ナシル親子には特別製の回復剤入りのスタミナドリンクを出してあげる。これを飲んでおけば、次の休憩エリアの手前5kmから、また走らせても大丈夫だろう。着実にスタミナが付いてきているが、まだまだ一般レベルだ。



 クロの世話だが、サリエさんが一緒に世話をしてくれると言ってくれたので今回はお願いした。

 お礼も兼ねて、馬に出す水にも俺の特製回復剤を混ぜてあげたので馬も超元気だ。


 休憩も終え出発したのだが、ちょこちょこ雑魚い魔獣が街道に出てくる。

 前回通った時は騎士が全狩りしながら通った後だった為、ほとんど魔獣は出なかったのだが、あれから日数が経っているので森の中から出てきた魔獣も増えたのだろう。


 ナシルさんとメリルを忘れないうちにPTに入れておく。

 夕飯は豪勢にしようと思っているので、まだ魔獣に手出しはしない。食事中にレベルアップ痛で楽しめないのは可哀想だからね。昼食後から狩り始めようと思っている。


 昼食の休憩地点到着15分前にフェイも帰ってきた。

 ナビーに散々使われたのかお疲れ気味だ。


「フェイ、疲れてるようだな? 沢山狩ったのか?」

「兄様、ナビーが酷いのです! 木を100本伐採するまで返さないって。それまでお昼ご飯抜きだってフェイを脅しました! ちょっと文句言ったら、『仕事しろこの穀潰し!』って言いました!」


『……働かざる者、食うべからずですよ』


 大分ナビーに酷使されたみたいだな。


「まぁ、事実だからしょうがないよな。【クリスタルプレート】出せ、俺のインベントリに転移させて移し替えるぞ」


「はい兄様、きのこも一杯採ってきました!」

「ほぉ~、頑張ったじゃないか。って、ナビー、木材こんなに要るのか? 森林破壊してないか?」


『……むしろ間引いて伐採しているので、森にとっては良い環境に改善されたはずです』

『それならいいけど、こんなに沢山要るのか?』


『……拠点にするためのお屋敷を計画しています。その際に出た廃材でプリンやアイスなどの紙カップを作ろうかと思っています』


『屋敷って……ログハウスで十分だろ?』

『……もし、今後パーティーなどを組むことがあったりした場合、少し手狭かと思われます。レイドPTでも大丈夫なものを建造予定です』


『そんなもの要らないよ。今のサイズがベストだ。それに、人見知りな俺がレイドPTとかで活動するわけないだろうが』


『……ですが、火竜の魔石が手に入ったので、ブラックメタルの加工ができる鍛冶場も造れますよ?』

『別にそんなもの要らない』


『……そうだ! 数種類の温泉を楽しめる温泉施設付きのお屋敷はどうでしょう? サウナは勿論、薬湯、泡風呂、電気風呂、水風呂、打たせ湯、流れる滑り台、温水プール等どうでしょう?』


『クッ……それは流石に興味を惹かれるな……お前、ぶっちゃけ新しい施設を造りたいだけだろ? ナビー工房で遊びたいんだろ?』


『……ハイ……ダメでしょうか?』

『ああ、分かったよ。だが貴重な魔石を無駄に使うんじゃないぞ? いずれはPTメンバーの武器も創らないといけないんだ。俺たちの武器や防具もまだなんだからな』


『……あの、1個ずつぐらいは使ってもいいでしょうか?』

『ああ、その辺の管理はナビーに任せる。魔石を下手にケチって、中途半端なモノが出来るのが一番タチが悪いからな。どうせやるなら何個使っても良いから、良いものを頼む』


『……ありがとうございます! お屋敷の方は最短でも1カ月程かかりますので、忘れちゃってください。野営するなら今のサイズが丁度良いっていうマスターの意見が正しいですからね。あくまで拠点用のお屋敷です。まだ先の話です。使い分けると良いように設計しますね』


『なんか、凄く心配になってきた……』




「フェイ、お前が採ってきたきのこ、今日の夕飯時に使うな」

「兄様、お昼にきのこのバターソテーが食べたいです!」


「お前、本当にきのこ好きだな……お昼は和食の予定だったのだが、まぁ、いいだろう」


 昼食の休憩地点に到着する。親子はフェイとソシアさんの護衛付きで15分遅れて到着した。

 大分付いてこれるようになってきたがまだまだだ。


 フェイはソシアさんと一緒にクロちゃんの世話だ。


 俺はログハウスで昼食を準備する。あらかじめ作り置きの分から、少し手を加えるだけだ。


 昼食メニュー

 ・オーク肉のかつ丼

 ・キノコのバター炒め

 ・白菜の浅漬け

 ・豚汁

 ・バニラアイス


 さっさと食べた俺はハティにミルクをやる。う~! 可愛すぎる! 何だこのモコモコ!

 朝と違ってハティは随分元気になっている。

 従魔契約をして俺の魔素を取り込み、3柱の女神の加護と創造主の俺の加護が付いたのだ。

 もう命の心配はなさそうだ。


 ミルクを勢いよくゴキュゴキュと喉を鳴らして飲みきった。


 ケポッとゲップをした後、ミャーミャーと泣きながら俺に擦り寄ってくる。超可愛い!

 流石にまだ目も開いてないし、歩けるような感じではないのだが、俺が側を離れると泣いて親を呼ぶような仕草を見せてくれる。



「リョウマ君、今日のお昼も美味しかったよ! 何て食べ物なんだい?」


 俺の憩いの空間に、無遠慮にガラさんが話しかけてくる。


「メインのものがかつ丼って言います。オーク肉にパン粉をまとわせ油で揚げ、それを卵でとじたものですね。スープは俺の里の味噌という大豆から作った調味料を使ったものです。白菜は出汁と塩でちょっと漬けこんだものですね」


「いや~毎回旨いものが食べられて幸せだよ。ところで、フェイちゃん。何か良いもの、狩ってきてないかな?」


 ガラさんって、この辺はブレがないな。商人魂って言葉が似合う。


「27匹、色々狩ってきていますが、特に高額なものはなさそうですね。早めに着いたら他の冒険者に俺から剥ぎ取り依頼をだそうと思っています」


「気になるものがあったらうちに売ってくれないか?」

「良いですけど、糸系魔獣はまた売りませんからね。服を作る素材なので。後、猪一頭以外は全部売りに出しますので、気に入ったものがあるならどうぞ」


「そうか! 有難い! 3時には到着するだろうから、その時見せてくれ」


 休憩が終わり、ログハウスから出たのだが、追尾組が羨ましそうに見ている。

 自分たちは干し肉とパンだけなのに、お前ら中で旨いもん食ったんだろうなって顔だ。




「追尾組の冒険者の皆さんに、ちょっと次の拠点での剥ぎ取り依頼をしたいのですが、参加したい人はいますか?」


「報酬は幾らくれるんだ? それにもよるかな」

「剥ぎ取りの数は40匹ぐらいになるかもですが、報酬は1人金貨1枚と俺の豪華な夕食です」


「「「やる!」」」


「え~と、全員参加してくれるのですね?」

「豪華な夕飯なんだろ?」


「今晩は野営最終日ですしね。ちょっと豪華にする予定です。俺が夕飯の準備をしてる間に、皆で剥ぎ取りをしてくれればいいです。商人たちの護衛は俺一人で十分ですので、馬番に何人か残してくれればいいです」


「よし、早く出発しよう!」


 なんか金貨1枚より夕飯を楽しみにしている者が多いのは嬉しいけど、お前ら冒険者としてそれでいいのか?と思ってしまう。


 ハティは俺の服の中でスヤスヤとお眠り中だ。

 何回かぷるっと震えておしっこをされたが、赤ちゃんなので仕方ないし、特に腹も立たない。【クリーン】があるので何の問題もない。一瞬生暖かいものを被るだけだ。量も大したことはないしね。





 午後からは、親子のパワーレベリングだ。

 パワーレベリングとは、低レベルのものを高レベル者がパーティーに入れ、戦闘は一切させず経験値だけ与えて強制的にレベルを上げるようなことをいう。貴族や商人の子息などをよくこういう方法でレベル上げをするために、実際は役に立たない高レベルな傲慢貴族が誕生するのだ。




 街道に出てくる魔獣は追尾組に全部狩らせている。経験値と素材報酬を稼がせてあげるためだ。森の中に入ってまで狩ったりはしない。あくまで商人の護衛がメインなのだからね。


 俺の今のターゲットは、街道から少し入ったところにいる護衛中には本来狩らない魔獣だ。

 他の冒険者の経験値をチートで奪うのは悪いからね。

 MAPを見ながら、俺の魔法エリアに入った瞬間【ホーミング】機能を使って遠距離から首チョンするのだ。

 狩ったものは【自動拾得】機能で勝手にインベントリに収納されていく。


 馬車の中で親子は俺を見ながら涙目になっている。


「リョウマお兄ちゃん、これ以上は私たちレベルアップ痛で死んじゃうよ~」

「リョウマ君、本当にこれ以上はダメです!」


「二人とも大丈夫だって! それっ!」


 【無詠唱】でまた魔法を森に放つ。


「ヒッ! またレベルが上がった! お兄ちゃんもう許して~!」


 俺がレベリングを開始してからまだ1時間。3人は馬車の中に居たままだ。俺もフェイもこの街道付近の魔獣じゃレベルは上がらなくなってきている。さっきのでナシルさんが3レベルめ、メリルが5レベルめのレベルアップだ。

 現在ナシルさんがレベル20、メリルが17。

 メリルの種族レベルをもう少し上げないと、中級魔法を教えられないのだ。


 最初追尾組は俺が何をしているのか分からなかったようだ。

 森に魔法を撃ち込んで魔法の練習でもしていると思っていたようだが、俺の魔法発動の何発かに1回、魔獣の断末魔が森に響き渡るのだ。


「リョウマ君! まさかとは思うが、そこから魔獣を狙って撃っているのか?」


 追尾組の1人がやってきて俺に問いかけてきた。どうやら皆に言われて代表で聞きにきたようだ。


「そんな訳ないじゃないですか。あはは」

「そうだよな。いくらなんでも、見えてもいない敵を馬車に座ったまま倒せないよな。あはは」


 あ、スタンプボアが居た。

 こいつは肉が旨いし、良い経験値になるんだよな。見過ごせない。


 【無詠唱】で【ウィンダラカッター】を放つ。

 400mほど森の奥から、『プギャー!』という声がここまで聞こえてきた。大きな個体だったのか、中級魔法一発では首が落ちなかったようだ。出血死ですぐ死んだようだけどね。


『……スタンプボアは魔法耐性が高いのです。無警戒の状態だったので、運良く首の頸動脈が断たれ死亡しましたが、普通は上級魔法じゃないと倒せない個体です。あと、とくに風系の魔法は距離に比例して威力が弱まりますので、物理系の魔法の方が良いです』


 空気抵抗があるため、気体の圧縮弾の威力が落ちるのは当然か……距離がある場合は【アクアカッター】の方が良いのか。毛皮が濡れるからとあまり使っていなかったが、使い分けも要りそうだ。



「おい! リョウマ君!」

「あはは、ここまで聞こえちゃいましたね」


「ああ、聞こえたな……で? 今のはスタンプボアの声に聞こえたのだが? 君がここから魔法で倒しているのはもう分かった。だが、まさか倒したまま捨て置いているのか?」


「そんな勿体ないことはしませんよ。【自動拾得】って俺のオリジナル魔法です。ヴィーネ様の高い祝福がないとこのスキルは得られないですけどね」


「さっきの声のスタンプボアはどうなったのだ?」

「勿論、【自動拾得】で俺の【亜空間倉庫】に入っていますよ。簡単に説明すると、この魔法は闇系魔法なのですが、探索魔法と連動していて、探索魔法で発見した魔獣にマーキングを入れ、魔獣が死亡後に転移魔法で【亜空間倉庫】に収納できる色々なスキルの併用魔法です」


「凄い魔法だな……」


 納得したのか、馬車から飛び降りて自分たちの馬車に戻って行った。

 結構な速度が出ているのに余裕でこの速度以上の速さで移動している。シルバーランクの冒険者だと、このぐらいはできるんだなと感心しながら、魔法を放つ。


「ヒッ! また上がった!」


「メリルはともかく、ナシルさんはさっきの彼ぐらいの体力を付けてくださいね」

「エッ!? 彼ってシルバーランクですよね? リョウマ君、オークを倒せるぐらいでいいって言ってませんでした? 言ってましたよね?」


 確かに言っていたが、いざ始めると強く鍛えたくなっちゃったんだもん。

 二人とも素直だし、神殿巫女に選ばれるぐらいだから才能もあるし、鍛えれば強くなりそうだし……まぁ、頑張れ。


「そっぽ向かないでください!」


 涙目のナシルさんは色っぽいな~と思いながら、魔法を放つのだった。

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