8-12 『灼熱の戦姫』との暫しの別れ

 最終野営地に到着する頃にはナシルさんは種族レベル21、メリルは20まで上がっていた。

 これで中級魔法も覚えられるだろう。初級魔法の習得もまだなんだが、メリルならすぐだ。


 種族レベルが上がり基礎ステータスも上がっているので、ここから8kmほど二人には走ってもらうとするかな。


「2人ともここから次の野営地まで走ってくるように。俺たちが先行していて、魔獣を狩り終えたすぐ後になるわけだから安全なのだけど、念のためフェイには護衛に付いてもらう」




 野営地に到着し、テントを張り終えたら、俺以外の冒険者は剥ぎ取りに向かう。


 馬の世話をするのに数名残ってもらうつもりだったが、ガラさんのところの御者2名が俺たち冒険者の馬の世話も見てくれるそうだ。今回イリスさんに言われたので、御者の人にも声掛けをして仲良くなっている。ガラさんに内緒で、お礼にこっそり金貨1枚握らせた。


 本当なら剥ぎ取り解体は、ナビーに任せれば必要ないのだが、不平不満を少しでも減らすために他の冒険者にも稼ぎを分け与えているのだ。それと、【自動解体】がバレるといろいろ面倒そうなので、彼らに依頼して、ある程度ごまかすためのものだ。俺にお金が必要ならこんなことはしないのだけど、使い道がないほど懐は潤っている。それなら、気のいい奴らと皆、笑顔で街に到着したいと思ったのだ。稼げれば着いた街で冒険者も楽しめるからね。



「じゃあ、皆さんに剥ぎ取りを頼みます。小川の対岸に行きますので、そこで魔獣を出します」


「解体したものはどうすればいい?」

「フェイが帰ってくるまでは、サリエさんが大容量の【亜空間倉庫】持ちなので彼女に渡してください」


 小川に出て対岸の広場になってる場所で魔獣を出す。追尾組が狩った分の解体もあるので結構な数になる。先に俺たちの分の解体を行ってくれるそうだ。


 俺たちの分は、47匹にした。したと言うのは、実際俺が午後から狩った魔獣の数は200匹近くあるからだ。


「ちょっと量が多くなったので、1人金貨2枚払いますね」

「おお! いいのか? いい臨時収入になるな」


「ん! 私もいい?」

「サリエさん、お財布の中身すっからかんでしょうから是非参加してください」



 野営地に土魔法でテーブルとイスを錬成する。この商隊は23人居るが、8人掛けを4つ作った。好きな場所に座ればいい。だが1つは『灼熱の戦姫』と俺たち用に10人掛けにしてある。


 串焼き用の魔道コンロを2台設置。テーブルには鍋用の魔道コンロを各テーブル2台ずつ8台用意してある。そして隅の方に土魔法で錬成した特製の大土鍋を設置、直径5mもある。


 外の準備が終わると、ログハウスの中で料理の下準備に入る。面倒な作業はナビーの調理工房にお願いして下ごしらえを頼む。


 ナシル親子が到着したので、レモン水を出してやり、剥ぎ取り場に向かわせた。





 午後6時に皆が剥ぎ取りから帰ってきたので、金貨2枚を皆に配り夕餉が始まる。


「皆さんお疲れ様! 今日の夕飯は蟹づくしです!」


 本日の夕飯メニュー

 ・カニしゃぶ

 ・焼きガニ

 ・茹でガニ

 ・カニ刺し

 ・カニのにぎり

 ・カニの茶わん蒸し

 ・ミックスジュース

 ・各種アイス・プリン


 各テーブルに備え付けたしゃぶしゃぶ用の鍋にだし汁と野菜を投入して火をつける。しゃぶしゃぶ用に解体済みの生のカニを皿に盛ったものを出し、カニのにぎりを並べる。


 サリエさんを中央に呼び、解体前のカニを一匹出して足を切断してもらう。1mサイズに切断された足を串焼きコンロに網を引き焼きガニにする。本体の体の方は隅に設置したでかい土鍋で茹でるのだ。重力魔法で浮かせてそっと鍋に放り込む。


 既にガラさんがエールを配って飲み始めている。


「皆さん、テーブルの鍋にこうやってしゃぶしゃぶとカニ肉を5秒ほどくぐらせて、このポン酢タレにつけて食べるのです。野菜も食べてくださいね。減ったらどんどん追加しますので。にぎり寿司はこの醤油という黒いタレをちょっと付けて食べると美味しいですよ」


 しゃぶしゃぶを食べている間にカニが次々と焼きあがる。香ばしい匂いが立ち込め、皆、お待ちかねだ。


「うめ~! リョウマ君ありがとう! カニなんか初めて食ったよ!」

「うまいって聞いてたけど、これほど旨いとはな……」


 例のごとくナシル親子は泣きながら食ってる。


 茹でガニもちょっと大きいので1時間ほど茹でてみた。

 宴会場の中央に取り出して甲羅を剥がしてみる。

 カニ味噌の濃厚な匂いが漂う。匂いだけで分かる、これ絶対旨いだろ!


 甲羅の周りにある身と一緒にカニ味噌を味わう。旨い! めちゃくちゃ旨い!


 ある程度俺の腹が膨れたあたりでハティにミルクをあげる。

 フェイがやりたいと言うので任せたが、あっと言う間に飲んでしまった。 


『……マスター、これなら少し果汁を与えても良さそうですね』

『まだ早いだろう。生まれたてだぞ』


『……ハティを普通の犬と同じに考えちゃダメです。その子は神獣の子ですよ。成長速度も異常に速いですし、お腹も丈夫です。ミックスジュースを薄めたものを用意しましたので与えてみてください』


 100㏄くらいの量の砂糖なしのミックスジュースをお試しで飲ませてみることにした。


「お兄ちゃん、私もやりたい!」


 今度はメリルがハティに飲ませてあげたいようなのでフェイと代わってもらう。


 ミルクより美味しそうに飲んでいる。ケポッとゲップをして満足そうに眠りに就いた。

 赤ちゃんなのでよく眠る。


 午後8時、少し早いが宴会から抜け出す。


「すみませんが、俺たちは先に抜けますね」


 皆が引き留めようとするが、お前らのお目当てはフェイとナシルさんだろうが!と思いつつ理由を話す。


「俺たち4人、レベルアップ痛がもうすぐなので、先に休ませてもらいます」

「「「ああ~、そういえば魔法撃ちまくってたもんな~」」」


 皆も納得いったようで解放される。

 4人で風呂に入り、ナシル親子のマッサージを行う。今日一日で20kmほど走らせたので疲れが出ているようだ。

 フェイもナビーにこき使われてかなり疲労が溜まっていた。


 フェイと俺も2レベル上がっている。


 痛みが来る前に【痛覚無効】を掛けた。


「痛みを無くす魔法をかけたので、心配要りませんよ。ほら、痛くないでしょ?」


 ナシルさんとメリルのほっぺを摘まんで見せた。


「ふぉうんとだゃ、いたくにゃい」

「これで痛みが消える時間まで凌ぎますね」


「リョウマ君って規格外ですよね」

「ナシルさん、色々含めて秘密ですよ?」


「ええ、分かっています」


 本日の魔法講義はお休みだ。

 メリルとコリンさん、サーシャさんとソシアさんが残念そうにしていたので、早朝に練習をする約束をして眠りについた。


 『灼熱の戦姫』組は実質明日でお別れだ。




 早朝、視線を感じて目が覚めた。


 視線の先にはハティがこっちを見ていた。目が合うとこれでもかというくらい尻尾を振って顔を舐めてきた。

 こいつ、もう目が開いてる! つたないがヨタヨタと歩いてもいる。


 どうやら俺が起きるまで、じ~と見つめて待っていたようだ。起こさないように待つなんて、フェイより賢いじゃないか。フェイには指をガジガジされて何度起こされたことか。


 ハティの様子が少し変だな~と思って見ていたら、ナビーがアドバイスをしてくれた。


『……マスターおはようございます。どうやらハティはうんちのようです』

『早く言え!』


 慌てて外に連れ出すと、プリプリとうんちをした。おしっこも出たようなので暫くは安心だ。

 便は少し緩いが、赤ちゃんはこんなものだとナビーが言うので大丈夫だろう。


 【クリーン】を掛けて、体を綺麗にする。


 ヨタヨタと時々こけながら俺の後ろを付いてくるハティの姿は超可愛い!


 皆より一足先にミルクをあげることにした。

 いくら俺の魔素を得ているからと言っても、何も与えないのは可哀想だからね。

 食事は大事な娯楽なのだ。必要ないからと奪っていいものではない。


 外でハティをヨタヨタと歩かせていると『灼熱の戦姫』の魔法組が起きてきた。


 まだ日も出てないのにお早い事で……


「「リョウマ君おはよう」」

「ん、おはよう」

「リョウマおはよう。早いのね」 


「皆さんおはようございます。昨日早く寝たので、随分早く目が覚めました。この子と遊んでたので退屈はしてませんでしたけどね」 


「あら? その子、目がもう開いてるのね? それに歩いてる! なんかヨチヨチ可愛いね」

「朝、視線を感じて目覚めたら、この子がじ~と見てたんですよ。もう可愛い過ぎでしょ」



 ハティを皆で愛でた後、少し離れた場所で約束通り皆の魔法の熟練度を調べてあげる。


「コリンさん良かったですね。もうすぐ上級魔法も覚えられますよ」

「はい! 才能がないのかと思っていました」


「少し種族レベルが皆より低いので、ソシアとレベル上げを頑張った方が良いかもです。それからどんどん魔法を撃って熟練度を上げた方が効率がいいですよ」


「分かりました。他に何か注意することはありますか?」

「信仰値と貢献度を上げて、より祝福を得ることかな? それが一番スキル習得が早くなるからね」


「ん! また倉庫の容量が増えてた! リョウマに感謝!」

「へ~、その調子だと時間停止の亜空間倉庫を予定より早く手に入れそうですね」


「ん! 頑張る!」


 その後ナシル親子も合流して、魔法の基礎練習を行った。

 5:30にはフェイも起きてきて、クロちゃんの世話をやっていた。




 朝食を終え、ガラさんの挨拶で出発だ。


「順調に行けば夕刻4時頃には到着するはずだ。最後まで気を抜かず行こう。では出発!」


 何事もなく、3:30分頃にバナムに到着した。


「多少のトラブルはあったが、無事怪我人なく到着できた。色々思うところはあるだろうが、彼の事はできるだけ内密で頼む。理由は言わなくても分かると思う。依頼報酬はそのままギルドに行くと受け取れるようにしてある。ではご苦労であった、解散!」


 俺は一度ガラ商会に行く必要がある。荷物を預かっているためだ。

 魔獣もいくつか買いたいそうなのでそれも引き渡さなければいけない。




 少し寂しいが、『灼熱の戦姫』とはここでお別れだ。


「皆さん、お世話になりました」


「リョウマ君、また会ってくれますよね?」

「逃がさないわよ! 私の武器も作ってもらうんだからね!」


「ん! バナムに戻ったら連絡して!」


「サーシャさんの武器依頼もありますしね。何よりフェイがあなたたちのことを気に入ってるので、神殿の帰りに必ず声を掛けますね。今度はダンジョン制覇でも行きましょう」



「「「ダンジョン制覇!」」」

「ん! ダンジョン制覇行きたい!」

「リョウマ! 約束よ! 絶対連れてってね!」



 名残り惜しいが、ここで一旦お別れだ。寂しそうにしているフェイを引き連れてガラ商会に向かった。

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