7-6 初めての薬草採取

 ギルドの解体倉庫で魔獣を引き渡し、イリスさんから火蜥蜴の魔石を受け取ってギルドを後にする。

 そのままその足でナシル親子と連れだって東門から街の外に出た。


『ナビー、この辺りに薬草の群生している安全な場所はあるか?』

『……現状ナシル親子の戦力ではオークですら危険ですので、そんな場所はないと言うのが適切ですが、最下級魔獣を倒せるぐらいに鍛えるのが前提であれば、商都周辺に群生地と言っていいレベルの場所が3カ所あります。毒消し草と魔草も純度の高い物が自生していますので、中級回復剤の3級程度の品までなら作製可能だと思われます。分かりやすいようにMAPに★印を付けておきますので確認してください』


『ありがとう。って城壁のすぐ横じゃないか?』

『……そうですね。冒険者は門を出て、少し街道を進んで森や林に入るので、意外とすぐ側なのに発見されてないのでしょう。外壁の破損修理や点検に定期的に人が巡回されてますが、その者らは本当に壁しか見てないですからね』


『なるほどね。まぁ、近いにこしたことはないからいいや』




 俺は街道から少し林の中に入った所で空地を見つけてログハウスを召喚した。

 家を呼び出した俺に親子はびっくりしていたが、中に入って更に驚いていた。


「リョウマお兄ちゃん凄い! 家まで呼べちゃうんだ!」


 家の中を興味深々に見ていたが、俺はすぐにお風呂にお湯を張り親子を放り込んだ。


 体は一応清拭しているようだが【クリーン】魔法も持っていない一般家庭の者だ。実は少しばかり臭っているのだ。本当なら巫女候補に選ばれるほどのメリルなら良い匂いがしているはずなのに……許せん!


 予想はしていたが、フェイやサリエさんまで風呂に一緒に入って行ってしまった。


 ナシルさんがいなければ俺も一緒に入ったのだが、治療行為ならともかく流石にお風呂に入るのは嫌がるだろうと出てくるのを待つことにした。


 皆が風呂に入ってる間に脱衣場に忍び込み、皆の装備品や着ていた衣類を全て【インベントリ】に収納した。

 サリエさんとフェイは、ちゃんと装備品は【インベントリ】に入れて持ち歩いているようだ。


 彼女たちは40分ほどしてやっと出てきた。俺は長いときには1時間ぐらい入ってる時もあるので別に文句はないが、ただ待つだけの40分は超長く感じた。


「リョウマ君、ありがとうございます! お風呂なんて久しぶりです! でも着替えが無くなってるのはなぜでしょう?」


「古くて臭かったので処分しました。替わりに新しい服をあげるので、これを着てください。サリエさんもフェイもこっちの装備を付けるように」


「臭いって、そんなにはっきり……」


「ん、私にもくれるの?」

「ええ、一式用意してあります。自分のを着たら、ナシルさんの装備の方を手伝ってあげてもらえますか? 冒険者装備なので、着方がおそらく分からないでしょう」


「ん、了解」


「メリルは俺が着せてやるから、装備の付け方をしっかり覚えるんだぞ?」

「うん、リョウマお兄ちゃんお風呂ありがとう。凄く気持ち良かった! 髪の毛も凄くサラサラになったよ!」


「ああ、綺麗な髪だな。ナシルさんと色も同じだね。巫女になって神殿に行けばお風呂は毎日入れるからな」

「毎日入れるの? 凄い!」


 一般庶民の女の子からすれば、毎日お風呂に入れるのは凄く嬉しい事のようだ。


「順番に着ていくな。まず下着は普通にいつもどおり付けていい。そして上着のインナー、上着で1番中に着るやつな。夏なので薄手の長袖1枚だけだ」


「夏なのに長袖なの?」

「そうだぞ、薬草採取をするんだから虫に刺されたり藪の中を通る時に肌を怪我しないように、冒険者は夏でも長袖が基本だ。それから下は俺が履いている物と同じ素材の革製のパンツだ。良く伸びて動き易いぞ。膝当てはしなくていいようにその部位が少し重ねて厚くなっていて、強化のエンチャントがかかっている。そして革鎧の代わりになる革のベストだけど、各種回復剤を挿せるように作ってある。小物入れもあるし、投げナイフも左右に2本ずつ装着できるようにしてある。靴はショートブーツにした。全ての装備品に【物理防御力強化】と【魔法防御力強化】の付与を付けてある。同等品を一式買えば数千万はするから大事にするんだぞ」


「数千万って! リョウマ君、そんな高価な物いいのですか?」


「ん! これは凄い! リョウマ本当に貰っていいの?」

「ええ、その為に作ったので是非着てください。サリエさん可愛いです! とても似合ってますよ!」


「ん! ホントに凄い装備! 強化値30%も上がってる!」

「それってどれくらい凄い事なのですか?」


 冒険者でもないナシルさんがサリエさんに何気なく質問する。


「ん、全身フルプレートアーマーを着たぐらいの性能! 革の軽装備では国宝級! 億でも買えない!」

「億って、そんな装備をどうして私なんかに……」


「ナシルさんというより、メリルにですね。あなたが死んじゃうとメリルが悲しむでしょ」

「リョウマお兄ちゃんありがとう! 大事にするね! でも皆サイズぴったり?」


「マッサージで裸になって、俺に事細かく触られてるだろ? 俺が作った装備なんだから、サイズぴったりなのは当たり前だよ」


「お兄ちゃんが作ってくれたんだ? 何でもできるんだね。凄い!」


「今のメリルの装備は、サイズ的にはサリエさんとほぼ一緒なんだよな。成長期のメリルは1年しないうちに合わなくなるだろうから、その装備品はサリエさんに後であげるから大事に着るんだぞ」


「ん、複雑な気分だけど、国宝級が貰えるのは嬉しい」

「サリエさんに渡す時は、俺の【リストア】の魔法で新品状態にしてから渡しますね」


「ん、メリルは一杯食べて早く大きくなる!」

「装備が早く欲しいからって、餌付けはダメですよ!」



「それとナシルさんの武器は鋼のショートソードです。この周辺の最下級魔獣には十分な得物です。メリルにはちょっと奮発して魔法剣だ! ミスリルのショートソードに水属性のワニの魔石を組み込んで水属性の魔法の威力が増すようにしてある。【自己修復機能】と【刀身強化】、【魔法威力強化】、【魔法消費量50%減】のエンチャントも付けてあるからな」


「ん! そのショートソードはもはやレジェンド級! 私が欲しい! その子には勿体無い!」

「あはは、確かに今のメリルには宝の持ち腐れですね。まぁ、この子は神殿巫女になっていずれは名の知れた巫女になるはずです。水神殿の水巫女になる事を見込んでの水属性の魔法剣です」


「ん、そうだった! 神が見守るほどの子供なのを忘れてた」

「今はただの可愛いだけの魔法も使えないダメっ子ですからね」


 サリエさんはジッと俺の目を見つめていたが、おもむろに革袋を取り出して俺に差しだしてきた。


「なんですか? ってお金? かなり重いのですが、装備はプレゼントです。お金は要りませんよ?」

「ん! 厚かましいと思ってずっと言えなかったけど、私にも武器を作って欲しい!」


「サリエさんも俺の作った武器が欲しいのですか?」

「ん、パエルの盾の時から頼みたかった……でも、言えなかった」


「頼みたかったけど、我慢してたんですか?」

「ん、流石に厚かましいと思ってる……でも欲しい! 私の全財産!」


『……マスター、そのお金は本当にサリエの全財産です。それを渡せば1ジェニーも所持金が無くなります』

『また思い切った事をするな……意気込みが違うな』


『……以前サリエが総ミスリルの剣が欲しくてお金を貯めているっていう話をしてたのを覚えていますか? 総ミスリルの剣ではなくて、マスターの造った剣が欲しくなったようですね』


『ナビーはどう思う?』

『……マスター次第ではないでしょうか?』


『そうか……なら創ってやろうかな。サリエさんの事はかなり好きだしな。この人なら悪い事には使わないだろう』


 俺はサリエさんの全財産を受け取り【インベントリ】に仕舞った。


「ん? 受けてくれるの?」

「ちょっと悩みましたが、サリエさんなら合格です。俺の一切の手抜き無しの現行で創れる最高傑作を作ってあげます。俺の本気は神級武器になっちゃいますが、まぁ良いでしょう。何か付与の希望有りますか?」


「ん、総ミスリルが希望だったけど、それも別にいい。全部任せる!」

「じゃあ、この後、3時半ぐらいまで薬草採取の指導をして、一度ギルドで採取素材を売ってからまたここにきて創ってあげましょう」


「ん、ここで作れるの?」

「1Fのそこの鍵のかかってる部屋の奥に工房があるのですよ。鍛冶場と錬金部屋があるので、そこで武器や防具、回復剤なんかが作れます」


「ん! ログハウス凄い! 何でもできる!」


 余程嬉しいのか、サリエさんのテンションが高い。





「皆、準備はいいか? じゃあ、この回復剤を左の胸の差し込みに3本装着だ。普通は右利きだから右胸に装着して右手は剣を持ったまま左手で取り出すようになっているんだけど、俺のは敢えて左胸だ。この回復剤の容器に強化魔法が掛かっているので、心臓を狙った矢や剣などの突き刺しなんかを防いでくれる」


 皆が回復剤と毒消し剤を装着したのを見計らって、次の品を手渡す。


「それからこのペンダントを渡しておく。これには魔力を込めると自分の周囲の温度を調節できる付与魔法が掛けてある。横の目盛で温度調整ができるので、夏は涼しく冬は温かくできるようになる」


「ん! エアコン魔法の付与! 私もそれ欲しい!」

「サリエさんは【エアーコンディショナー】を自己習得してください」


「ん……頑張る……」 


「次はこのミスリル入りナイフだ。右の腰のベルトに付けるように作った。採取や剥ぎ取りに丁度いい小型サイズにしてある。それから薬草採取に一番大事なスコップだ。薬草類は根の部分に一番成分が多く含まれているので周りの土をどかせて根を傷つけないように綺麗に掘り起こして取るのがコツだ。今からこの辺で一番良い場所を教えるからちゃんと覚えながらついてくるんだ」


 皆が頷いたので、ログハウスから出る。


「じゃあ、玄関でこの新しい靴に履き替えるように。古いのは……うん、処分だな! サリエさんのはまだまだ使えそうなので自分で持って帰ってください。ナシルさんたちの分は普段履く靴も新調してあるので、【亜空間倉庫】に保管しておくように。メリルもはやく【亜空間倉庫】を拡張しないとな」


「うん、頑張るからリョウマお兄ちゃん教えてね!」


 うんうん、素直で可愛いぞ!





『ナビー、悪いが、サリエさんの剣の下地を創っておいてくれないか? 左用はミスリル70%、ブラックメタル20%鋼10%で、今サリエさんが持ってるやつより10cmほど長くしてくれ。右のメインの方は、ミスリル20%、ブラックメタル70%、鋼10%で今より5cm長く頼む』


『……下地だけでいいのですか?』

『ああ、ログハウスの工房ではブラックメタルを融解するだけの火力がないって言ってただろ? インベントリの工房でやっておいてくれ。形成と仕上げは俺の錬成魔法と併用でやるから下地だけ頼む』


『……了解しました。サリエ喜ぶでしょうね』

『そうだな、喜んでくれるような良いものを創らないとな。彼女ならブラックランクの凄い冒険者になれるだろう』



 門を出て壁伝いに北に約1km入った所にやってきた。その間1体の魔獣にも遭遇していない。


「ここから右の林に100mほど入った周辺に上質の薬草の群生場所があります。この場所が分かり易いように土魔法で石柱を造っておきますね。この獣道は人が定期的に防壁の修理や点検の為に通るのでできたものですが、壁伝いにオークやゴブリン、スライム、小動物も時々出ます。防壁の結界で比較的安全なのですが油断はしないように。今日は採取のコツと場所の把握の為に来ただけなので、魔獣が出ても戦闘はしなくていいですが、オーク3頭をナシルさん一人で楽に倒せる程度にはすぐになってもらいます」


「私にできるのでしょうか?」

「『できるのでしょうか?』ではなくて、努力して自分でできるようになるのです!」


「ん、リョウマはハーレンの街は初めてって言ってたのに、どうしてここの事知ってるの?」

「この場所は女神様が教えてくれたのです。だから皆も秘密ですよ。他の冒険者に教えたらあっという間に採り尽くされてしまうからね。昔はここを利用していた冒険者もいたようですが、ここ数十年誰も入っていない場所ですので、かなり良いらしいです」



「わー! リョウマお兄ちゃん一杯あるよ!」

「そうだな、でも、今日採るのは10束だけだぞ。一度に沢山採っちゃダメだ。平均してまばらに採ることで、次に来た時にはかえって増えているように場所を大事に管理するんだ。そうすれば長い間、同じ場所で採取ができる。踏み荒らさないように慎重に移動するんだぞ。隣り合って何本も生えてる所から間引くように採取するんだ。栄養が行き渡るようになって、成長が良くなるからな」


「リョウマお兄ちゃん、こんな感じで良い?」

「そうそう! そんな感じに根っこを傷付けないように、土は落とさないでそのままで、売る前に軽く落とせばいい。先に落としきってしまうと乾燥を早めてしまって価値や効果が落ちてしまうからな」


「一杯採れた! 10束までって言ってたけど、32束になっちゃったね」


「初回で間引きも兼ねていたからな。次回はこんなには採れないから、数カ所をローテーションで回って採取するのが良いんだよ。後2カ所同じように群生している場所があるからそこも教えるから覚えるんだよ」


「うん! リョウマ兄ちゃんありがとう! これ売ったらいくらになるのかな?」

「今、回復剤が品薄になってるそうだから、1束1万2千ジェニーにはなると思うぞ」


「リョウマ君、そんなに良い値で買ってくれるのですか?」

「ん、昔は1束5千ジェニーぐらいだったけど、今は良い値で買ってくれる。でも本来1万ほど」


「そうだね。この薬草が上質なんだよ。中級回復剤の3級が作れるほどの良質なので1万2千ぐらいになるんだ。あと、今回ギルドに売るのは10束だけだ。本当は1束も売りたくないんだけどね。ランクアップにどうしても1人5束の提出が必要だから。残りは回復剤を自作する練習に使う。1束で約15本ほど作れるからその方が儲けが多くなる。2人は魔力が多いから薬草調合も覚えられるはずだ」



 街への帰り道も魔獣に一切出遭わなかった……これなら少し鍛えておけば安心だな。


 俺たちはギルドに行き、常時依頼品である薬草採取依頼を無事クリア、販売価格は1束1万4千ジェニーだった。イリスさんは全て良品の薬草をどこで採ったのか教えてほしそうにしていたが、『教える訳ないでしょ!』と突っぱねた。


 ナシルさんに今日の稼ぎを全て渡して今日はその場で解散した。

 サリエさんの武器作製の為だ。


「ナシルさん、3日後の早朝旅に出ますので、家賃の支払いと近所の挨拶を済ませておいてください。ガラ商会の護衛依頼に同行してもらいます。その後、水神殿に向かい、メリルのお披露目を考えているので1カ月ほどの旅の予定です。急な話ですが大丈夫ですか?」


「本当に急ですね。ええ、大丈夫です。でもメリルに旅ができるでしょうか?」


「バナムまでは馬車での移動ですので問題ない筈です。バナム到着までに、種族レベル20にしますので、体力も上がるでしょう。疲れても夜には強制マッサージで回復させますしね」


「マッサージですか! あれは良いです! 分かりました。旅支度とかは良いのでしょうか?」

「特に必要ないですが、下着の替えは自分の好みで買っておいてください」


「あの……ですが、今日頂いた下着の方が街で売ってる物より格段に良い物なのですが」

「じゃあ、こちらで同じものを10枚ずつ用意しておきます。最初だけは全て面倒を見てあげますが、やる気が感じられないようなら見捨てますので必死で覚えてくださいね」


「はい、一生懸命覚えます! 私たち、とても感謝しているのですよ」

「ん、感謝より、良い採取家に早くなる。そのほうがリョウマは喜ぶ」


「そうだね……そうなってくれると嬉しい。ずっと面倒は見れないからね。正直今日のようにレベルに見合ってない過剰装備を与えたり、強制レベル上げとかは好きじゃないんだ。時間が限られているので仕方なく行うけど、その辺りは気を引き締めておいてほしい。その装備品も見る人が見れば判るから、追剥や強奪に遭わないように注意もいるからね。町中は私服でいる方が安全だから着替えるように」


「分かりました。気を付けるようにします。今日はありがとうございました。フェイちゃんもサリエちゃんもありがとうございます」


「お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとう! またね」



 再度門をくぐって壁の外に出る。街には1時間ほどで戻るので閉門には間に合うだろう。

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