7-7 サリエさんの神級武器

 俺の後ろをチョコチョコとついてきているサリエさんだが、どうにも落ち着きがない。

 どんな武器を作ってくれるのか、超期待しているのが見てて分かる。


『ナビー、どんな感じだ?』

『……はい、もうすぐ2本目も出来上がります。ログハウスを召喚するのはもう少し後でお願いします。こちらの作業が終えたら、ログハウスの工房の槌と金床をブラックメタル仕様に替えて、炉に火をくべておきますので後10分ほどお待ちください』


『分かった。よろしくね』


 先ほど薬草採取前にログハウスを召喚した場所に到着した。


「さて、サリエさんの武器を打つ前に、その今持ってる剣を見せてください」


 サリエさんは首をフルフル振ってイヤイヤアピールをしている。


「気付いてないと思っているのですか?」


 サリエさんは顔を真っ赤にして俯いてしまっている。


「どうしてあんな事をしたのですか? 大体予想はできますが、自分の口で言ってください。正直に言わないと武器の話はなしですよ」


「ん、メリルとリョウマたちの前で、ちょっとかっこつけたかった。今は後悔してる」

「やはりそんな理由でしたか。見せてください」


 サリエさんは観念したのか、渋々剣を俺に手渡した。やはり少しだけだが刃が欠けている。

 いくら良い剣でも鋼の剣を切ろうとすればこうなるのは当然だ。総ミスリルやウーツ鋼、オリハルコンの剣なら欠ける事は無いだろうが、純度の低いミスリル剣ではこうなってしまうのだ。


「ん、修理代に10万ジェニーは掛かってしまう。後悔してる」

「俺が気に入らないのはお金云々ではなくて、武器の特性を理解しているのに無茶な使い方をしたのが許せないのです。俺が打った剣でもこんな使い方されたら武器が可哀想ですからね。パエルさんのように誰かを守って壊れたのなら武器や防具もその役目を果たせて本懐でしょうが、見栄やカッコつけのために壊されたんじゃ堪ったもんじゃないです。俺の居た所じゃ100年大事にされた物には付喪神といって神や精霊が宿るとされていて、特に剣は大事にされるのです」


「ん! もう絶対こんな真似はしない! 約束する!」

「信じますからね。【リストア】修理しておいてあげます。一応これも良い剣ですので、スペアとして保管しておくといいです」


「ん! リョウマありがとう」


『……マスター準備が整いました』


 ログハウスを召喚し、鍵のかかった工房に行く。


「二人はフロアで待ってるといい。ちょっと創ってくる」


「ん! 見てたらダメ?」

「フェイも兄様の武器を作るとこ見たいです!」


「じゃあ、二人とも来るか? でも静かにするんだぞ。気が散ると良い物が出来ないからね」


 中に入ったサリエさんは見回して驚愕していた。


「ん! 凄い! 家の中に立派な鍛冶場がある!」


「二人は後ろの方で見ていてください。こっから先は無言でお願いします」


 俺は炉の前の椅子に座り、すでに熱せられ真っ赤に焼けたロングナイフの原型をペンチの化け物みたいなやつで挟んで引き抜く。金床に乗せ、ブラックメタルの槌に魔力を込め、イメージどおりに仕上がるように想いを乗せてぶっ叩く。錬成魔法にイメージを乗せる俺独自の製法だ。30回ほどぶっ叩いたら再度炉に戻す。


 今度はメイン武器になるショートソードの方だ。こちらは超が付くほど硬い。50回ほど連続で叩いて再度炉に戻す。それを交互に繰り返し剣にイメージを叩き込んでいく。5回目にナイフの方がイメージの叩き込みが終える。水に浸け一気に冷やしインベントリの工房に預け、研磨を掛けてもらう。


 ショートソードの方はまだ叩かないといけない。結構な重労働だが、後ろで熱い視線が注がれている。汗だくになりながら必死で叩き続ける。


 20分ほど叩き続けてやっとこちらも研磨に回せる。研磨の終えたロングナイフを取出し、錬成魔法で仕上げに入る。その際に付与魔法でエンチャント強化も施す。最後の仕上げに剣の根元にリョウマ印を刻んで完成だ。


 一旦インベントリに仕舞って、鞘の方にも付与を施す。


 ショートソードにも同様の作業を施し完成だ。


 うーん、ヤバい物が出来てしまった。

 正直にいうと俺が欲しい……。


「サリエさん……ちょっとやりすぎたかもしれない。ヤバい物が出来てしまった」


「兄様! 早く見たいです!」

「ん! 楽しみ! 早く見たい!」


「魔剣【魔喰夜叉】と【魔切般若】と命名しました。我ながらどっちも凄いです」


 サリエさんはまずナイフの方を抜いた。


「【魔喰夜叉】は魔法を喰らいます。火・水・風・雷の4属性だけですが、剣で受けることによって魔法攻撃を吸収して無効化します。そして喰った魔法を任意のタイミングで吐かせることができるのが最大の特徴です。石や氷のような物理魔法は吸収できないので注意してください」


「【魔切般若】は魔法を切ります。全属性を切り裂きますので、上手く扱えば無敵ですね。最大の特徴は結界まで切れる事です。シールドを張られてもこれで切り裂けます。こちらは物理魔法でもなんでも切り裂けますのでどっちかと言うと俺たち兄妹向きの無双仕様ですね」


「ん! どっちも凄い! これ2本とも貰っていいの?」


「勿論です。握りもサリエさんに合わせて、以前のものよりちょっと細くしています。どちらも少しだけ刀身を長くしてあるので、慣れるまでは間合いに注意してくださいね。詳細はこんな感じです」



 【魔喰夜叉】(ミスリル70%・ブラックメタル20%・鋼10%)

  武器特性

  ・火・水・風・雷の魔法を剣で受けることにより吸収できる

  ・吸収した魔法は任意のタイミングで吐き出させることができる

  付加エンチャント

   ・魔法吸収

   ・吸収反射

   ・刀身強化

   ・重量半減



 【魔切般若】(ブラックメタル70%・ミスリル20%・・鋼10%)

  武器特性

  ・全属性の魔法を切断できる

  ・結界を切る事が出来る

  付加エンチャント

   ・魔法切断

   ・結界切断

   ・切断強化

   ・重量半減



「サリエさんは総ミスリルの剣を希望でしたが、魔法剣士じゃないのでミスリルにこだわる必要はないです。なのでブラックメタルを混ぜて神級武器を創ってあげました。刀身が黒いのはその為ですね。それと剣の方にではなくて鞘の方に自己修復機能のエンチャントを施していますので、多少の傷みなら勝手に修復されるので便利だと思いますよ。まぁ、ブラックメタル70%入りを傷つけられるとは思いませんけどね」


「ん! リョウマ……【魔喰夜叉】の方だけでもお金全然足らない! と言うより価値が付けられない! それになんでブラックメタルの加工ができるの!」


「お金の話をしだしたら、その防具ですら足らないでしょ? お金なんて今更ですから大事に使ってくれればいいですよ。製法に関しては秘密です」


「ん、リョウマありがとう! でもこれほどの物を作ってくれるとは思ってなかった。しかも代金は1本分のつもりだった。なのに本当に2本貰っていいの?」


「さっきも言いましたが、お金の話はいいです。問題は他のメンバーなんですよ。ソシアさんが特にうるさそう……パエルさんは盾を強化してあげたから問題ないでしょうけど、他の3人も黙ってないでしょうね。サーシャさんなら作ってあげてもいいんだけど、弓の材料とか良いの持ってないし……弱ったな」


「兄様! フェイも凄い武器欲しいです! カッコいいです!」

「俺たちにはまだ早い。実力もないのに武器だけ良いの持ってても恥ずかしいだけだぞ? 宝の持ち腐れとか陰で言われて、笑われるんだぞ?」


「あぅ、それは嫌ですね。兄様、もっと練習してかっこいい武器が似合うようになりましょうね!」

「そうだな、最近練習してないから今度じっくり練習しような」


「ん! 練習手伝う!」

「ありがとうサリエさん、その時は頼みます。閉門前にちょっと検証してから帰りましょう」



「フェイ、ちょっと初級魔法を火・水・風・雷の順で、最後は上級魔法で俺に撃ってみてくれるか。【シェル】いいぞ!」


「はーい、いきますね。【ファイアボール】……【アクアボール】………………【サンダガボール】」


「うーん、上級魔法の熟練レベル4までしか吸収しきれないか。まぁ、俺があげたアクセサリーを付けてるから、実質防御できたらノーダメージだな。吸収したものを吐き出すのは問題ないけど、上級魔法ならストックが1つ分しかないのが残念だ。中級なら3つストックできるけどどうだろうな……どっちがいいのか迷うな」


「ん、魔法使いじゃないのにストックして撃てるのが凄い」

「ストック中は吸収と言うより霧散させる感じになるけどね。なにかストックしておきます?」


「ん、【サンダラスピア】を3つ入れておいて欲しい」

「成程……一瞬足止めできれば、メイン武器で瞬殺できますしね。フェイ、次は【魔切般若】の検証だ。上級魔法を雷以外で撃ってくれ。石と氷も頼む」


「兄様、雷は試さなくて良いのですか?」

「残念ながら俺には雷を切るほどの腕がないからな。それ以外をゆっくり放ってくれ」


 中々良いんじゃないかな……サリエさんの腕なら無敵かも。


「よし、魔法そのものを切ってイメージどおり霧散させている。切って2つに分かれて後ろに飛んで行って後衛にダメージとかじゃ意味がないからね。切った瞬間霧散させるイメージで創ったのだけど、良い感じだろ? よし、次で最後だ。【マジックシールド】を張ってくれ」


 フェイが張ったシールドを切りつけてみる。


「凄いな……フェイの結界が1回で壊れたぞ!」

「兄様……これヤバくないですか? サリエさんが寿命で亡くなった後もこの剣は残るわけですよね? もし悪人の手に渡ったら、相当の人がこの刀の犠牲になりますよ?」


「それもそうだな……ちょっと改良するか」



 付与魔法で【個人認証】機能を付与した。これでこの剣はサリエさんと製作者の俺以外は使えなくなった。



「【リストア】どうぞサリエさん、検証も終えたので正式にあなたの物です」

「ん、ありがとうリョウマ! 大事にする!」


 サリエさんは2本の剣を胸に大事そうに抱いてポタポタと泣いている。


 サリエさんの全財産32654375ジェニーは、23歳の年齢で稼ぐには相当頑張ったであろうことは聞かなくても分かる。クラン『灼熱の戦姫』がオフの間も野良でダンジョンに行き、コツコツ稼いで貯めたお金だ。武器はそれなりの物だったが、防具はかなり安い物だった。節約して貯めたのも見てて分かる。凄く頑張って、やっと手に入れた生涯の相棒ともいうべき最終武器なのだ、感極まったのだろう。



 サリエさんが落ち着くのを待って、門が閉まる前に宿屋に帰った。


 宿屋の入口でサリエさんは少し悩んで武器を古い方に持ち替えた。


「そんな事をしても早いか遅いかの違いですよ。どうせ防具で騒がれるなら、一度に済ませた方が良いんじゃないですか?」


「ん、確かにそうかも。でもソシアがうるさそう……」


「フェイ、俺は先に風呂に入る。皆が来ても風呂に行ったって言っといてくれ」

「兄様……フェイだけ置いて逃げるのですか? さっき早いか遅いかの違いってサリエさんには言ってたじゃないですか……」


「そうだけど、ちょい時間を置くことで、多少はマシになるはずだ。後は頼むぞ」


 俺は逃げるように風呂に行ったのだが……10分後、風呂の中にまでソシアさんの声が聞こえてきた。


 風呂に1時間程ゆっくり浸かったが、2本も魔力を込め続けて剣を打ち続けたために、かなり疲れが出ている。珍しくMPを枯渇するまで使ったので、魔力酔いも出ているのか軽い目眩もする。俺はMPの回復も早いのですぐ治まるのだが、やはりこの感覚は好きになれない。魔力増量に一番いいのだが、皆が途中で投げ出して都市伝説扱いになるのも仕方ないと思ってしまう。


 流石にこれ以上は風呂場に逃げているのも限界で、のぼせてきてしまった。


 部屋に戻るとフェイが涙目で怖かったと一言訴えてきた。


「兄様、あっちの部屋で待ってるから、お風呂から上がったら来てほしいと言伝されました」


「分かった。だがその前にマッサージを頼む。かなり疲れたのか体が軋んでいる。最近剣も碌に振ってなかったから体が大分鈍ってるのかもしれないな。痛い目に合う前に鍛え直さないといけないね」


 ヘロヘロだったのでフェイにマッサージ治療をお願いした。


「【ボディースキャン】うわー本当だ! 腰から肩に掛けて疲労が出ています。魔力も右肩で少し停滞気味ですね。フェイ、ちょっと本気で頑張ります!」


「いや待て! 7割ぐらいにセーブしてくれ! お前の本気は、最近危険域に達している!」


「分かりました。ちょっと抑え気味にやりますね」


 抑え気味と言っていたが、俺は昇天させられて2時間程眠っていたらしい。


 夕飯のリミットが迫ってきたためにフェイに起こされて、今一緒にフェイと食事中だ。

 当然目の前にはソシアさんを中心に『灼熱の戦姫』のメンバーが揃っている。



 食べ終えるまでは静かにしててくれと言ったために、俺が食べ終えるのを待ち構えているのだ。


 はぁ、面倒だな……どうやって拒否しようか悩みながら食べているが、もう少しで食べ終えてしまう。


 フェイはとっくに食べ終えて、我関せずでいくつもりのようだ。

 もうすぐ食べ終えるというタイミングでプリンを出したら、ソシアさんに睨まれてしまった。

 フェイとサリエさんはクレクレモードだったので渡してあげたけどね。



 他のメンバーはプリンの誘惑に耐えて、サリエさんの装備のことを聞く気満々だ。


 はぁ、本当に面倒だ……。


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 お読みくださりありがとうございます。


 他作も読んでくれている方は、またかよ!と思われたかもしれないですが、こちらが原作ですので武器についてはお許しくださいw

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