6-4 吸引漁法!鰻丼の誘惑

 どんどん先に進んだが、未だに牛と巨大ナマズは見つかっていない。

 湿地帯なので、時々沼に足止めされてしまって進み具合は良くないのだ。


「ん、この沼浅いけど大きい。ぬかるんでいるから300mほど迂回する」


 沼自体は100mほどの大きさなのだが、遠浅に水が張ってぬかるんでいる為に300mほどの迂回がいるそうだ。

 こんな事がしばしばあるので中々奥地に進めないでいる。

 気を付けなきゃ、底無しっぽいのもあるので安易に踏み込めないしね。


『……マスター、その沼にバイトフィッシュとウナギとテナガエビが沢山います。どれも美味しい食材だそうです』


『おお、鰻か! かば焼き食べたい。テナガエビも美味しいよな。バイトフィッシュって魔獣なのか?』

『……いえ、ピラニアのような白身の普通の魚です。意外と美味しいそうです』


『ピラニアって時点で普通とは言えないと思うけど、美味しいなら欲しいな。白身なら揚げ物にも良いし』


「ちょい待って! この沼に食材があるようなのですが、バイトフィッシュとウナギとテナガエビですが、どうやって捕らえるか誰か知っていますか?」


「ん、網か釣り、罠。テナガエビはエールに合う、美味しい」


「でも、なにも持ってきてないわね……今回は諦めるしかないかな」

「ん、残念だけど仕方ない」


「うーん、鰻丼食べたい……」


「「「うなどんってなに!?」」」

「兄様! うなどん食べたいです!」


「お前……鰻丼が何か知らないだろ!」

「でも、兄様が食べたいって思うほど美味しいのですよね?」


「そうだな……ベスト10入りにしていいくらいの旨さだな」

「「「リョウマ君! 食べたい!」」」



 あ~~クソッ!

 あの暴力的なまでの甘い香ばしい醤油が焦げたつ香りを思い出してしまった。

 頭の中は鰻丼のことで一杯だ……食べたい!


 俺の【並列思考】【高速思考】が食欲に促され唸りを上げた!


「よし、皆こっちに集まって。【レビテト】雷を落とすからちょっと水から離れて浮いとくね。ここで浮いて待ってて」


 ふよふよと空中を移動し、沼に近づいて等間隔に【サンダガボール】を10発ほど落とした。見事にバイトフィッシュは浮いてきたが、俺の高速思考はこれで終わりじゃない。【ウインドバリア】を自分にではなく前方に独立して30mほどの大きさに展開。中の空気を真空にして沼の中心付近につけ、下部に穴をあけた。水は一気にバリア内に吸い上げられる。


 30mのバリアじゃ足らなかったか……更にもう5個同じものを作り、沼の水を完全に吸い上げた。藻や草や泥なんかもお構いなしだ。


 たっぷり魚と水の入った6つのバリアを乾燥した所に撒いて魚を拾うと思った人は外れだ。それだと時間も手間もかかる。正解はそのままインベントリに確保して、工房内で自動分別するのがベストだ。いらない物は塵処理工房で処分すればいい。


 動物のような大きい生物は収納できないが、魔獣ではない昆虫や魚、植物のようなモノは生きていてもインベントリに収納できるのだ。



 鰻丼が食べたいがために、悪魔のような吸引漁法を編み出してしまった。


 後ろを振り返ったら、皆が呆けていた……無視だな。


『ナビー、どのくらい獲れた?』

『……マスターやり過ぎです。沼が1つ死にました。生態系が元に戻るのに5年程ですので別にいいのですが。水は返してあげてください。卵が死んでしまいます。1mほどの大型魚が40匹ほど混じってますが、これも美味しいそうなので確保します。バイトフィッシュが4864匹・テナガエビが2387匹・ウナギが28匹・レインボーフィッシュが41匹。これ以外に38種の生物がいますが、食べるほどの食材ではないので廃棄します』


『大型魚がレインボーフィッシュって言うんだな? 鰻少ないな、夜行性だから穴に潜ってるのかな?』

『……そうです。殆どが雷の影響を受けず穴の中ですね。吸い上げきれずに沼に残ってる分もいるようです』


 ウナギやモクズガニは罠を仕掛けた方が良さそうだ。

 ウナギ筒とカニカゴでも作るかな。


『……このまま水ごと持ち帰れば完全に沼が一つ死にますが、水を放流すれば卵が結構入ってるので雨季に増水すればまた他からもいろんな生き物が入ってきますので早く復元できそうです』


『そうなのか? それは良かった。俺のやり過ぎで絶滅種が出たとか嫌だしな』

『……それはないと思いますが、何時か有り得そうで怖いですね。このバイトフィッシュは湿地帯でしか取れませんし、レインボーフィッシュは結構希少なようですので高く売れるようです。水は沼に戻してください』


 ナビーの指示どおり、インベントリから水を一気に放出した。よしミッション完了だ。




 時間ももうすぐ3時を過ぎる、牛とナマズは残念だがそろそろ狩りも終了かな。


「あんた……本当にやる事なす事、おかしいわ……」

「ソシアさん、だんだん俺に対する言葉遣いが荒くなってきてません? 最初会った頃はナナっぽくて可愛いかなって思ってたのに猫被ってたんだね」


「ソシアでいいわ。さんは要らない。今度からソシアって呼んで頂戴。分かった?」

「いや、年上の女性を呼び捨てはちょっと勘弁してください」


「フィリア様をフィリアって言ってるくせに何言ってんのよ! 3歳しか違わないのよ、ソシアだからね!」

「分かったよ、ソシア……」


 ソシアさんはちょっと顔を赤らめてなんか嬉しそうだ。あ、これはまた魅力値測定不能が発動したのでは……。


「ん! サリエ!」

「サリエさんはいくら何でも無理ですから! 勘弁してください!」


「んむぅー! リョウマのアホ!」

「アホとか、子供ですか!」




「時間ももうあまりないので、そろそろ引き返しますか? マチルダさんどうします?」

「そうね……今からなら、6時には渡してくれた場所に戻れそうね」


『……マスター、ログハウスタイプBが出来あがりました。カメの魔石が予想以上に良質だったので全部屋空調完備にしました。全員中のベッドで眠れますよ。折角ここまで来たのですから、牛さん狩って帰ったらどうですか? 稼ぎも泣いて喜んでくれるほど稼いでないですよ?』


『泣かせるほど稼ぐつもりはないのだけど。そうだな全員中で寝れるならそれもいいかもな。牛は絶対欲しいし……よし一泊するか。立地的に浸水とかのない、比較的安全な場所まで誘導してくれるか?』


『……了解です、マスター』

『あ、その前に中見せてもらうな。ナビーの改造がどんなのか楽しみだ』


「『灼熱の戦姫』の皆さんは、今日湿原で泊りもOKなんですよね?」


「ん! 問題ない! むしろ私はキャンプしたい!」

「私もこんなチャンス滅多にないから、経験値とお金をもう少し欲しいかな。リョウマがいれば安心そうだし」


「とうとう呼び捨てになっちゃいましたか……」

「嫌? 嫌だったらこれまでどおりリョウマ君って言うけど」


「いいですよ、サリエさんは早々にリョウマでしたしね。皆さんもリョウマと呼び捨てで構いませんので」


「リョウマ君、ちょっと待っててね。じゃあ、いつものように私にメールして」

「マチルダさん? 何やってるんですか?」


「うちのクランでは、いつもと違う行動を決める際に、話し合いかメールでやるの。挙手だと1人だけ意見が違ったりすると不信感や猜疑心にまで発展したりする可能性があるので、大事なことは話し合いで、ちょっとした今回のようなものはメールで決めるの。既に2人が泊まり希望なので、帰りたい人は理由があるならメールに添えてもらうの。私がそれを見て独自の判断で後は決めているわ。大事な用だと判断した場合は例え5:1でも帰るし、逆に下らない用件なら強制的にパーティーの為に残ってもらうわ」


「それはいいですね。挙手は一番ダメなパターンですからね。憎まれ役はリーダー1人で背負っちゃうのですね。ちなみに言い忘れてましたけど。新型ログハウスが完成したので、全員ベッドで眠れますので、寝床と食事は保証します。それと明日は俺たち兄妹の狩りをお見せしますね。今のままだと大した稼ぎではないので、明日はちょっとフェイと2人で無双します」


「もうメールの確認はいいわ……皆の目がキラキラしてるんだもの。全員参加でいいのね?」


「「「勿論!」」」


「だそうなので、リョウマ君よろしくね?」


「了解です。俺だけ先にログハウスの中の整理と確認だけしてきます。フェイ、その間の護衛は任せるな」

「フェイもまだ見てないから見たいけど、任されました」



 インベントリからログハウスを召喚する。

 本当はただ取り出してるだけだが、出す時に魔方陣のようなサークルで出す場所の指定が出来るので、その魔方陣が本当に召喚魔法で呼んでいるかのように見えるのだ。青ならその場所に取り出し可能、赤ならその場所は取出し不可、単純な判定だが解りやすい。



 外からの見た目はかなり小さくなっている。

 でも、馬小屋が外に付いたので、召喚時に使う広さは逆に少し増えたかもしれない。

 トータル的には少しだけ大きくなった程度だ。このサイズなら、ダンジョン内でも通路以外のほとんどの場所で使えるだろう。


 さて、中はどんなかな?



『あの、ナビーさん? 俺の設計の原型がないのではないですか? どういうことですか?』

『………………………………凄く頑張りました』


『いつもより……の間が長かったね? でも、俺の設計よりずっといい。ちゃんと望みの物もあるし、お風呂はどうかな……凄いな、うん満足だ! ナビーありがとうな、気に入ったよ』


『……良かったです。ちょっとやり過ぎで怒られるかと心配していました』

『やり過ぎ感はあるけど、快適になったのは間違いないからね。素直に礼を言っとくよ』



 さて……立地のいい場所に移動して、皆を招待しますかね。

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