1-6 目覚めたのですが三日も寝ていたようです

 水神殿に転移して俺は三日間眠っていたようだ……原因は窒息じゃないらしい。

 ベルルの話では『魂が体に安定するまでに必要な期間』なのだそうだ。


 一度心停止して死に掛けていたようだが、ここは水系回復魔法を使える者が居る神殿内。心配の必要は最初からあまりなかったようだ。二重結界でエネルギーを余分に使うのを承知の上で、あえて女神は転移先にここを選んだのもその為だそうだ……俺の安全を最優先にする為に。


 これほど安全が確保されているにも係わらず、あの時気を失った俺を見てアリアは態々こっちに降臨して顕現したそうだ。俺が気を失いながら聞いた声はアリアのものだったと後でアウラが教えてくれた。


 礼を言いたかったのだが、エネルギーが枯渇寸前の状態で無理して顕現したアリアは3ヶ月程のスリープ状態に入ったそうだ。極力エネルギーを使わない瞑想状態とベルルが教えてくれた。


 俺の加護が起動できればもう少し早く復帰できるそうだから、早急にレベル上げを始めようと思う。


 俺の魂は眠ってる間に安定したようだが、体が安定するのに7日程様子を見たいとベルルからの指示なので、今はじっとしている。


 3日寝ていたので、残り4日ほど必要ということだ。




 目覚めて例の妾口調の幼女が部屋を出るのを見送った後、トイレを済ませてからベッドに腰掛け、あの子が皆を連れてくるのを過去設定を思い出しながら待っていた。


 部屋を出て行く時に言ってたとおり、大体15分程で戻っててきたのだが、彼女は神域内に居る全員を連れてきたのだ。巫女が8人とそれを護衛する為に配属されたエリート騎士6人。


 この神域専属の騎士様は若い女性だけということもあって、姫騎士と呼ばれ、市井の皆から尊敬されている。

 当然だな……ちゃんと巫女と同じ入場規制の信仰値をクリアした上で騎士の称号まで得ているのだ。



 先に俺から簡潔に自己紹介をし、挨拶をした。

 神殿側で最初に名乗ったのがフィリアだった……衝撃の事実とともに。


「妾がここの巫女長を務めておるフィリアじゃ。不都合があったら妾に何でも言うがよい」


 子供が巫女長?


「それから皆に伝えることがある。この者は使徒様じゃ。何か災いが起ころうとしているのかは教えてくれなんだが、大事な人物だそうなので、くれぐれも切ったりはするでないぞ」



 切るとか物騒なことを言われたが、その理由は後で分かった。

 使徒がどういう者か俺には分からなかったが、巫女様たちの態度から重要なのが理解できた。


 全員の挨拶を終え、眠ってる間の俺の世話をしてくれたのがサクラという15歳の美少女だと知った。

 こんな可愛い娘に下の世話を……と思うと恥ずかしかったが、申し訳ないという気持ちの方が強かった。

 高校の時に選択教科で取った介護福祉士の資格を持っている俺は、介護の大変さを知っている……後でちゃんと礼を言おう。


 8歳の子供も居るようだ。ナナと名乗っていた。興味津々にこっちを見ていたのが印象的だった。


 その紹介の中で俺を睨んでくる者が居た。

 姫騎士の一人……6人常駐している騎士の中でもっともフィリアを敬愛していて、俺が禊場に現れた時、真っ先に駆けつけた騎士である。この騎士様が超お怒りなのだ……何をそんなに怒っているのか?


「貴様! そんな事も解らぬのか!」


 1、男子禁制のエリアに入ってきた

 2、禊中の最中に裸で乱入した

 3、禊中の巫女様たちの裸を見た

 4、フィリア様の裸を至近距離で見つめた


 ハイ、ごめんなさい。アウトですね!

 この騎士様、特に4番が気に入らないらしく、無礼を働いた俺の首を御所望らしいです。

 姫騎士の隊長だそうで、凛とした佇まいから巫女さんたちに絶大な人気があるようだ。

 タカラジェンヌとかに居そうなタイプだな……。


 綺麗な人だが、超おっかない……フィリアが庇ってくれなかったら、マジで切られていたかもと思ったらガクブルだ。



 皆との挨拶を終え、初めての食事だったのだが、ベッドで白湯だけだった……凄いお腹空いてたのに。

 この体で始めてお腹に入れるのだから、軽いものから様子を見てほしいというベルルの指示だった。


 空腹だったが体が重く、まだ本調子じゃないようだ。


 起きたばかりだが、安静にして寝るとしよう。




 翌朝、少女たちのキャッキャと楽しげな声で目が覚めた。

 日の出からあまり時間が経ってないようだ。

 遠くからバシャバシャという水音がするので、洗濯でもしながら井戸端会議でもしているのかな。


 ここの朝は随分早いようだ。


 暫くしてサクラが容態を見にきてくれ、体調は良いというと朝食を持ってきてくれた。

 だが、やはり白湯だった。グスン……全然足りない。現在早朝7時くらいだろうか?

 いろいろ話がしたかったのだが朝は忙しいらしく、サクラはすぐに部屋から出ていった。


 皆、仕事があるそうだ。


 この時に朝のことを聞いたら、この神殿のすぐ裏に沐浴場があって、毎朝禊をするのだそうだ。

 禊とは、お祈りや神事の前に体の汚れや邪を洗い清めることだと説明してくれた。



「リョウマさん、絶対覗いちゃダメですよ。今度こそ姫騎士に首を切られちゃいますからね」と釘を刺された。


 今度こそとか言われた……どうやらあの日、泉に居た巫女たち4人の中にサクラも居たようだ。

 他の娘たちは一瞬だが顔も、大変綺麗な御体も拝見させて頂いたが、サクラは見てないや、残念。


 俺に裸体を見られたことを、貞操観念が一般人より強い巫女たちはちょっと気にしているようだ。あれは、女神たちが悪いのにな~。年頃の娘たちだから仕方ないか。見てない振りも優しさのひとつだが、機会があったらちゃんと謝ろう。


 8時ぐらいにフィリアが容態確認にきてくれた。気遣ってくれているのが嬉しかった。


 容態も悪くなさそうだからと、昼には三分粥と具を小さく刻んだスープを出してくれるそうだ。

 この世界の食事とか細かな設定までしてなかったから、普通に米があるのが嬉しい。



 フィリアにも禊場のことを聞いたら、顔を赤らめてこんなことを言う。


「妾のあられもない姿を見たのは仕方がなかったようじゃから許してやるが、覗くでないぞ」


 フィリアにもしっかり釘を刺された、ツルペタだったくせに!とは口が裂けても言えない。



 ちなみに昼食だが……美味しくはなかった。

 不味くはないのだが、味がしない……病人食だから仕方ないけどね。


 午後、昨日より随分体が楽になっているのでストレッチをしたのだが、びっくりした。


 凄く体が柔らかかったのだ……立ったまま足を開脚していったら、痛みも無くペタンと腰が付くまで開いた。

 前屈しても、頭がペッタり足に付くほど曲げても痛くない。


 柔らかい体は怪我をしにくいから柔軟は大事だよね。


 凄く退屈だが、ここは男子禁制の少女たちの園……下手に部屋から出てうろつくのも躊躇われて、腹筋・背筋・腕立て伏せ……暇つぶしに筋トレしまくった。


 3時頃にフィリアがナナちゃんを連れて様子を見にきたのだが……。

 フンカフンカやってるのを見つかり『無茶をするでない、馬鹿者が!』と拳骨をくらってしまった。

 『退屈だ!』と抗議したら、もうそのくらい動けるならナナとこの辺の案内をしてやると、外に出してもらえた。


 案内してもらって分かったのだが、ここの神殿は思っていたよりずっと大きかった。

 まず食堂にびっくり! 10人掛けの長テーブルが3列もあり、かなり広い。

 今は1列しか使われてないとフィリアは寂しそうに言ってた。


 年に1回世界中の神殿で巫女になれる者たちに神託が下るのだが、ここの巫女は条件が厳しく、いつも15人前後しか居ないらしい……今は8人と特に少ないそうだ。


 部屋数も25部屋もあって、今、俺が居る部屋は一番大きいタイプで12畳ほどもある。

 巫女が多い時にはここは2人部屋になる予定だそうだが、フィリアが巫女になってからそこまで巫女が増えたことはないそうだ。この大部屋タイプが5部屋と、4畳半ぐらいの小部屋が20部屋、今は8人しか居ないから、皆、個室が与えられているようだ。


 神殿の大きさに比べ小さく感じたのが祭壇場。教会のようなイメージを持ってたので少し以外だった。

 そういえばここって一般人は入れない神域だった……それほど広さは要らないか。

 朝の水神様へのお祈り以外は皆、好きな時間に利用するようだ。


 裏の勝手口から階段を少し上ったところに例の沐浴場がある。

 神殿より下なら神殿内の窓から見れたのに……とかは思ってないよ。ほんとだよ。


「リョウマよ、決して覗くでないぞ。カリナに首を落とされるぞ」


 沐浴場まで案内され、再度フィリアに忠告された……俺、信用ないな。

 女神たちがあの場に転移させたのにな~。


 冬は雪が降るそうなので、毎朝水浴びとか寒くないのかと聞いたら、30度くらいの温泉のようだ。

 もっと温度が高ければ、浴場にも引き入れるのにと残念がっていた……確かにお風呂にするには温すぎる。

 温水プールの温度がこのぐらいだったと思う。


 あ! そういえば俺がそういう設定にしたんだった……確か、冬寒いと可哀想かなって理由だった気が。

 どうせなら、42度ぐらいの温泉にすれば快適だったのに……。



 沐浴場から神殿を右に廻り込むように移動すると、別の建物が見えた。ここが姫騎士の宿舎らしい。

 俺の部屋の反対側の位置に建ってるから窓から見えなかったんだな。

 俺の視界に入れないようにしたのかな? 日当たりのいい部屋を与えてくれた思ってたけど、裏事情もありそうだ。


 騎士舎のちょっと行った先に、この神域に入るための門があった。結界の中に姫騎士が2名、結界の外に20代前半位の男性騎士が2名立っていた。姫騎士は結界内の警護に、騎士は周辺警護と門番として居るのだそうだ。

 騎士たちはこの門から300m程下ったところにある騎士舎で20名ほどで待機しているそうだ。


 祝福がないと入れない強力な結界があるのに、護衛なんかいるのかなと思ったが、時々不審者が訪れてきたり結界石に影響されない程のスライムのような下級魔獣が紛れ込むことがあるそうだ。


 それと、騎士舎が来客時の貴賓館の役割もあるようで、国王が来訪時はここで接客するようになっている。

 フィリアに面会にきても、神域内には例え各国の国王でも男は入れないからだ。

 



 使徒である俺が降臨したことは、結界外部にはまだ秘密にしてある。

 女神様からの要請があったようで、姫騎士たちは男性騎士たちには知らせていないらしい。普通、年頃の女の子なら有ること無いこと噂話がしたいだろうに、ちゃんと秘密が守られている。


 俺たちは男性騎士に見つかる前に部屋に帰ったのだった。




 日が翳り夕食時間になるとサクラが粥を届けてくれた。

 この時、食事をしながらこの世界のことを色々教えてもらえたのだが、サクラからも質問があった。


「ごめんなさい、巫女の何人かが勝手にリョウマ様のステータスを魔法で覗こうとしたようですが、何故だか見れなかったらしく、私に何故見れないのかそれとなく聞いてほしいと言われて……」


 それとなくと言ってるのに、申し訳なさそうにストレートに聞いてきた。


「なるほどね……一応神に選ばれた使徒なので、言えないことや秘密もあるから詮索はごめんって言っておいてくれるかな。でもステータスを見れない理由くらいは別に教えても問題ないので答えるね。女神様の加護で保護されてて、勝手に覗いて、俺の情報を他の人に見られないようになってるんだよ」


「リョウマ様って本当に使徒様なんですね。皆にあまり詮索しないように伝えておきます」


 食べ終えて1時間ぐらいサクラは話し相手になってくれた。


 ステータス画面はアウラの祝福らしい……俺はベルルかと思ってたので意外だった。

 約100年程前にアウラが神託を下して広めたようだ。

 それまでは自分のステータスを確認するには神殿やギルドに設置してある、ユグドラシルと繋がっている水晶で確認するしかなかったらしく、パーティーとかも組めなかったみたいだ。


 パーティーが組めない=経験値の均等会得ができない。

 さぞかし昔は回復職は大変だっただろうと思う……なにせ、止めを刺した者にしか経験値が入らないのだ。

 戦闘職は良いが、回復職はレベルを上げるのに苦労したはずだ。 


 今ではフレンド登録すれば、メール機能や会話機能までできるようだ。


 凄く便利な割には、アウラを主神として崇めなくても、少し感謝のお祈りをすればタブレット機能の祝福を下さるということであっという間に広がり、現在は殆どの者が利用しているのだそうだ。


 アウラの奴、まんまタブレットPCを転用しやがった。見た目も機能もまんまじゃないか。

 カメラ機能まで付いてて撮った画像を貼り付けてメールだと! しかもタッチパネルだし!


 アウラの奴、信仰心のエネルギー欲しさにやらかしたな。

 後で説教だ、今の文明レベルと合わないだろ?



 サクラにフレンド申請を送ってみたらすんなりOKしてくれた。

 ヤッター、フレンド登録第一号と思ってたら、フレンドリストにアリア・ベルル・アウラ・ヴィーネと既に登録があった。あいつら、いつの間に。


 サクラにこれは正式名称【クリスタルプレート】って言うんだよ。と、今後の会話のために教えた。「ステータス画面呼び出して」とか長いからね。「クリプレ出して」とかの方がかっこいい。


「あっ! もう、こんな時間」と帰ろうとするサクラに……「俺、この【クリスタルプレート】使うの初めてだから、このカメラ機能の写真ってのを一枚試しにサクラさんで撮らせてくれないかな?」と勇気を出してお願いしてみた。


 恥ずかしながらも、快くサクラは撮らせてくれた。


 サクラは東の島国からきたっていってた……おそらくは俺設定の日本人だな。でも水系の加護持ちにはとても珍しい、髪は薄いピンクでショートボブ、目はライトグリーンだ。肌は色白で顔は日本人なのに髪が黒じゃないだけでハーフっぽくみえる。15歳らしいので、こっちの俺の年齢と同い年だ。むちゃくちゃ可愛いので少し意識してしまう。


 会話してるだけでドキドキしてるし、心が躍る。



 「ごちそうさまでした」出て行くサクラにお礼を言ったら「どういたしまして」と返ってきた。


 粥はサクラが作ってくれたらしい。

 皆は先に食べ終えていて、俺だけメニューが違うから別で作ってくれたようだ。

 サクラには頭が上がらないな……有難い。



 ちなみに、米はサクラの実家からの提供だそうだ……ジャポニカ米は美味しいね。

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