1-5 龍馬、地上に降臨する

 ユグドラシルの転移が始まり、バリバリバリッという激しい放電とともに、3m程の巨大な氷柱が空間を割って少女たちのいる前の頭上から出てこようとしている。


 青白い紫電を放ちながらゆっくりと出てきていた氷柱は、空中の裂け目から完全に抜け落ち、少女たちが『禊』をしていた泉にバシャーン! と盛大な水しぶきを上げ水中に落下する。


 氷塊は空中から落ちた勢いで一度深く沈んだ後、ゆっくりと水面に浮かび上がってきた。


「「キャ~~!」」


 少女たちの悲鳴と大きな放電音、それを聞きつけた警護の姫騎士たちも慌てて駆けつけてきて場は騒然となる。


「フィリア様! 何事ですか!?」


 駆けつけた騎士は抜剣しながら大声で尋ねるが、フィリアと呼ばれた女の子はポカーンと口を開けた状態で泉に浮かんだきた氷の塊を見ていた。


 浮かび上がった氷柱はとても透明で透きとおっており、氷の中には少年らしき人物が閉じ込められていた。


「…………」

「…………」


 氷の中の少年と女の子の目が合った……。

 氷塊が浮かび上がった所の一番近くに居たのがこの見た目10歳位の女の子『フィリア様』なのだが、問題はそこじゃない。


 そう、ここは沐浴場で少女たちはここ『水の神殿』の巫女であり、毎朝行っているお祈り前の『禊』中……つまり全裸であった。


 巫女たちは有り得ない出来事に状況がさっぱり理解できず混乱していた。

 通常なら目の前にいきなり『氷付けの怪しい男の子』が現れれば、前を隠す、もしくは逃げ出す、という行動をとるだろうが、全く反応できていない。


 ただその場で立ちすくんで、浮いている氷の中の少年をぽかーんと見ているだけだ。


 いつもは優秀な姫騎士たちですら『巫女と少年の間に割って入り、巫女を守る』という護衛騎士としてやらなければいけない防衛行動も忘れ呆けていた……護衛騎士としては失格である。



 実はこの時、氷の中の少年はかなり危険な状態であった。

 氷の中じゃ呼吸ができないのだから当然だ……すぐに酸欠で気を失った。

 本来女神謹製のこの体なら20分ほどは余裕で無呼吸でいられるのだが、裸の美少女を目にして慌ててしまい、溜めていた空気を吐き出してしまったのだ。


 一瞬シーンと静まりかえった場に更に事は起こる。


 再度バリバリッという放電音と眩い虹色の光とともに、先程氷柱が落ちてきた裂け目の辺りから光り輝く幼女が顕現する。


 そして第一声。


「皆、なにを呆けているのですか! 早くその御方をお助けしなさい!」


 この時降臨した存在が、この世界を統べる三柱の女神の一人である『女神アリア』と理解できた者は自信なさげではあるがフィリアのみであった。ほんの三日前に女神アリアから『近いうちに使徒を送ります』と神託を受けたばかりだったので気付けたのだが……。


「え? そのお声はアリア様!?……でもそのお姿は?」


 フィリアはいつも温厚で優しい口調で神託をくださるアリア様のさっきの強い口調と、随分以前に見た古い記憶の中のアリア様と、今、目の前に降臨されたアリア様のあまりにも違う姿に更に混乱するのだった。


 女神たちは時々巫女や神官に神託を下すことはあるが、滅多に下界へ降臨することはない。

 実際、前回の女神降臨も200年ほど前の話である。余程の事が起こったのであろう。 



「早くなさい!」


 女神アリアは言霊をのせ、かなり強めの口調で巫女たちに叫んだ。


 女神が言霊を乗せた発言とか……これはもう命令だ。 


 女神アリアの叱咤に巫女たちは一瞬ビクッとなるが、言霊の効力で皆我にかえり、慌てて氷柱を泉の浅瀬まで風魔法で引き寄せる。呆けていた姫騎士たちも鎧を着たまま腰まで水に浸かり、剣を突き立てて少年の頭部付近の氷を砕きはじめた。






 ―――目が覚めた俺はベッドに寝ていた。


 ゆっくり起き上がると、部屋の端に備え付けてある勉強机の椅子からこっちを見ている女の子と目が合った。氷柱の中から目が合った女の子だ。


 銀髪に近い淡いブルーの色をしたストレートの髪がお尻の下辺りまで伸びている。見た目10歳前後の愛らしい顔をしているのだが、とても落ち着いた表情で、その雰囲気は見た目に反してとても神秘的だ。身長130cmあるだろうか? 体重も30kgないかもしれない。ベルルと大差ない感じだ。


 その小柄な女の子がトコトコこちらに歩いてきて声を掛けてきた。


「おおー、やっと目覚めたか。体におかしなところはないか? 気分はどうじゃ?」


 可愛らしい声で心配そうに尋ねてくるのだが、うん? なんか違和感が? なんだろうと思っていたら。


「どうした? 妾の言葉が解らぬか? 其方に何かあったら妾はアリア様に怒られてしまうのじゃがのう」


 違和感判明、この世界の標準語は古い感じの言葉使いなのか?……弱ったな、俺は知らないぞ。


「あー、聞こえているじょ。ちょっとボーっと寝ぼけてたけど、もう大丈夫じゃじょ。体もどこも悪くなさそうだのう」


「其方……おかしな言葉を使うのぅ? まぁ、体に異常がなくてよかったの。中々起きぬから、凄く心配したのじゃぞ? それに申し訳ないことをした。神託で一人送ると言われておったのじゃが、まさか朝の禊の時間と思っておらなんだ。ここは男子禁制でな、というより本来男は結界で入れん。そこに年頃の男の子が送られてくるとは予想外でな……妾以外の者も驚きすぎて対応ができなんだ。無事で何よりじゃ。三日も目覚めないから皆、本当に心配したのじゃぞ」


 そうか、俺三日も寝てたんだ。自分を見てみると病衣のような白い服を着ている。ベッドで寝かされて看病してくれたようだ。腰回りには当て布がされている。誰かが下の世話もしてくれたんだろうな―――と、ちょっと凹みつつ、ちゃんとお礼は言わないといけないと思い女の子に尋ねた。


「俺、三日も寝てたんだね。君にも世話になったようだ。ありがとう」


「妾は見ておっただけじゃ。ここには年頃の若い娘しかおらぬので、妾が下の世話をすると言ったのじゃが、皆に反対されてしもうたわ。この手の話は世話したほうもされたほうも恥ずかしいじゃろうから、その辺は知らん顔をしておいてくれるかの?」


 俺は顔を真っ赤にしながら取り敢えず頷いておいた。


 下の世話のことなんか何も言ってないのに、俺の視線で気にしたのを敏感に感じ取ったようで、アドバイスまでしてくれた。


 ここの巫女さんの躾がいいんだろうな~と、この時は思っていた。


「女神ベルル様から目覚めた後の指示がきておる。腹が減っておるじゃろうが其方の体には何も入っておらぬ故、白湯から少しずつ慣らしてくれとのことじゃ。其方の体は特別だから2・3日程で通常食に戻して良いとのことじゃが、どういうことかの? 妾にだけは教えても良いそうじゃが、許可をもらってないから其方に聞けと教えてくれなんだ。アリア様のあの時の取り乱しようや、男の身でこの神域内に入っているのも気になって仕方がない。理由を妾に教えてくれぬか?」


「ベルルが君にだけは話していいって言ったのかい?」


「これ! ベルル様じゃ! 女神様を呼び捨てなど罰があたるぞ。まぁ、優しい御三方ゆえ罰などないじゃろうが、ここにいる限り不敬は妾が許さぬ、次はちゃんと様を付けて呼ぶのじゃぞ」


 こつんと痛くない程度に頭を指で小突かれて可愛く怒られた。

 そうだな、神殿に居るような巫女さんだ、女神たちを敬愛している最たる者たちだよな。

 俺からすれば、あの3人の女神たちは俺が創りだした子供みたいなものなので、これまで普通にため口で喋っていたのだ。今後人前では気を付けるようにしよう。


「まぁよい……ちょっと待っておれ。白湯じゃが食事の用意を頼んでくる。用を足したければ、すぐそこの扉を開けばよい。15分程後に皆を集めて紹介する故、少し待っておれ。妾も其方もお互いにまだ名すら名のってないからな」



 ケラケラと可愛く笑いながら部屋の外に歩いて行く知的で古風なしゃべり方をする女の子の背中を見送る。


 尿意を感じトイレに向かったのだが、そこで毛がないことに気付く……つるぺただった。年齢は15歳と言っていたが、そういう次元ではない。

 陰毛どころか、脇毛も腕や足の産毛すらないのだ……つるつる、すべすべだった。

 まぁ、毛深いより良いか……ベッドに腰掛け、皆がくる間、『俺設定』を再度思い出すことにする。



 この六千の間に少し俺の設定と変わった点を教えてくれたので、元の設定の記憶とのすり合わせだ。


 この水の神殿は水竜を祭っているのだが他の神殿と違う点がある。

 これは当時の『俺設定』に由来するのだが、それを説明するにはまずこの世界の地理の勉強からになってしまう。


 まずこの世界には大きな大陸が一つある。

 あと大陸の東に沢山の島からなる諸島国家があり、それ以外は無人の島しかない。


 この大陸は東西南北を基点に地図にするとしたらひしがたをしており、中央に南北に走る大きな山脈がある。赤道にあたる場所はひしがたの下三分目といった所だ。位置的にひしがたの中央付近は四季もある。


 俺設定ではこのひしがたの大陸を種族別で綺麗に四等分にしたはずなのだが、女神が言っていた経過の為のずれというのだろう、六千年の間に俺の設定とは少し地図が変わっていた。


 俺の初期の設定では北東:人国A、南東:獣国、南西:人国B、北西:魔国としていたのだが、魔国は北北西にほんの少し領土を残し、魔人たちは世界に散ってひっそりと隠れ住んでいるようだ。


 南東にあった獣国はほぼ南に位置し、東の大国が北の魔族領の一部と南の獣人族の一部を侵略し勢力を伸ばした感じになっている。滅んだ国や新たにた建国した国もあるようだ。詳しくはもっと誰かに聞かないと分からないが東と西で人族の大国同士がもっか冷戦中らしい。




 さて肝心の神殿だが、大陸の中央を走る山脈のやや北寄りの山の七合目辺りに大きな湖があって、そこに泉が湧いている。俺はこの泉を巡り戦争が起きないように、神で管理するために湖の側に神殿を建ててそこに大きな結界を張ったのだ。


 この神殿の湖は山脈の万年雪が溶け、地下から大量に湧き上がることで蓄えられる。この湖から世界に水の恵みを供給している。この世界で一番重要な場所だ。


 その為、女神三人と竜神での二重結界が張られ、世界でもっとも強固な神域として知られることになった。この神域はどこの誰であろうと不可侵で、例え大国の王族だろうと中に入ることは許されない。中に入れるのは神託を受け祝福を得た巫女と姫騎士のみであり、男子禁制と不可侵というルールは地図が変わっても六千年間しっかり守られたようだ。


 まぁ、どうやっても一般人は結界で弾かれて入れないんだけどね。


 この水神殿は二重に張られた強い結界のせいで他の竜神のいる神殿の神域より中に入れる条件が厳しくなっている。具体的にあげると『信仰値』というものがあり、信徒の神に対する信仰度合いを測る基準があるのだが、この数値が80以上ないとこの水神殿の中に入るための祝福はもらえない。


 他の神殿の巫女は70あれば祝福を得られるのだが、この信仰値のたった10の差がとても大変なのだった。


 神殿にはランクがあり入場規制の数値となる信仰値によって格付けされる。

 最たる場所がこの水の神殿で、最低入場規制値が80と異常に高いのだ。


 次のランクに位置するのが水竜以外の神竜の本殿にあたる神殿がそれに該当する。最低入場規制値は70となっている。


 王都や街、辺境の町の中央に建てられ、主に結界としての機能を求められた神殿は聖域と呼ばれ、神域の下位にあたる結界を張ることができる。最低入場制限は50以上。ちなみにこの信仰値50以上は犯罪歴のまったくない証ともいわれ、その者の信頼にも繋がる。神々が保証してくれるのだから効果は絶大である。


 信仰値で入れないとか神が差別するのか?というのは間違いで、神域や聖域の結界は強力だが、村や町、ましてや王都などの規模の大きさの結界は張れないのだ。せいぜいが神殿を囲える程度の大きさである。


 実は神殿が守っているのは、神殿内にある対魔物用の大規模結界が張れる水晶なのだ。この水晶で張る結界には入場規制はないが『魔獣やアンテッドは入れない』という特性がある、しかも王都規模を囲えるほどの大結界が張れるのだ。この水晶を悪意のあるものに手出しできないようにしたものが、信仰値を利用した入場規制なのだ。


 最後に、どの王都や小さな村や町の中にも点在する参拝用神殿。

 誰でも入れ、日々の参拝や結婚式や祭事などにも利用されている神殿である。



 要約すると、悪意ある者や戦争などでMPK(モンスターを使い、人を殺す)させない為に

  1、聖域クラスの神殿を建てる(信仰値50規制があるので犯罪者は入れない)

  2、聖域内に対魔用水晶結界を設置(王都規模の広範囲な結界が張れる)

  3、対魔用結界内に一般用参拝神殿を建て、通常こちらを利用する


 この手順で悪意ある者から守れるのだが、開拓地や小さな村に聖域クラスの神殿は普通建てられない。

 最初は参拝神殿を建て、水晶結界を張るのが一般的だ。

 そこを開拓し、人口を増やし、村から町に発展できれば聖域クラスに建て替えるのが通例のようだ。


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 お読みくださりありがとうございます。


 うわーwこの5話ダメダメですね……初めて書いた処女作なので下手なのは仕方がないですが、何故か3人称を使ってるし、クソつまらない世界観をず~~~~~と語っちゃってますよw


 私の作品は基本主人公視点の1人称で日記風に時系列的に進んでいきます。最後の1行にちょこっと3人称を使うぐらいです。なので、いつかこの5話は大改稿いたします。


 あ~~でもいつになることやらw

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