怪人DVDプレイヤー伯爵

ひとし

第1話

俺は単位が落ちない程度に早退したり可能であれば放課後まで放置、間に合いそうならホームルーム後に現場に直行して、罪もない人を改造して非雇用社員として扱き使うクソ秘密結社から権利とか愛とかを守る自主地域保全活動マンだ。

今日は特に事件にも巻き込まれず、静かに穏やかに、そして早退が重なったせいで発生した単位を落とす可能性から目を反らし、一人家路に着くところであった。

「ふふふ…今日も随分余裕だな…だがその余裕もそこまでよ」

むっ、誰だ?

「我らが宿敵、正義の味方よ!私は秘密結社からの刺客!DVDプレイヤー伯爵!」

そしてその男は物陰からひっそり姿を現した。

首から下はパリッとした白いシャツに燕尾服のようなジャケット、すらっと伸びた長い足とそれを際立たせる気品溢れるズボン。しかしその頭DVDプレイヤー。

伯爵という爵位から程遠いどこにでも売ってそうなDVDプレイヤー。

秘密結社改造飽きた?「なんかないかなー?まだやってないの無いかな?あっこれいいじゃん!まだこれ材料に使ってない!これは強そうだ!角が痛そうだし!」みたいなノリで作ったのかな?

思案していると小さいデジタル表示がopenと表示され、すーーっとディスクが出てきた。すごい。いやすごくない。

「くっくっく…驚いているようだな…そうであろうよ私は貴様を倒すために研究に研究を重ね、この姿になった…今や私はこの地上で唯一無二の知的生命体であり、同時に貴様を倒せる最新にして最強の怪人となったのだ!」

なったのだ!ではない。

俺との戦闘データの何を見て研究の方向性決めた?戦闘能力どこに見出だしてる?DVDプレイヤーを用いることでメリットある戦闘って何?

唯一無二の要素も何も第一印象が映画館の違法行為を注意する某イメージキャラクターみたいな即視感あるよ。もういるよそういうキャラ。でも、確かにお前みたいに頭部をDVDプレイヤーにしようとは誰も思わない。そういった意味では冒険した甲斐あって前衛的で(悪い意味で)圧倒的な存在感が(悪い意味で)ある。良かったなDVDプレイヤー伯爵(何が?)。我輩はDVDプレイヤー伯爵である。名前はまだない。

「何故か戦う気すら起きていないようだな…ならこの内蔵してるDVDを良く見てみろ」

そういえばディスク入ってたな。何のディスク?カラス避けとかに使う円盤?

いや、良く見たらピンク色のデカイゴシック調の文字が。それにサイズの合ってないベージュのセーターを着た物憂げな表情を浮かべた見覚えがある女性のプリント…まさか!

「くく…はは…はははは!そうだこれは貴様が大事に秘蔵している大人気素人シリーズ"ご免なさいあなた、私、もう叔父のデカイ盆栽の前でしか"シリーズvol'4だ!」

はーーーーーーーーーーーー?????

マジか?????

おい嘘だろ止めろ秘蔵しなおせ捻り出しておくな。

あと、そこそこ声張ってタイトル言うな。ご近所に聞こえたらどうすんだ。これからの近所付き合いが気まずくなるだろうが。

てか、こいつ何でそんな見た目お笑いポンコツそうなのにやることはそこそこエグいの…?

「このシリーズは人気があってな2年前に旧作落ちしたが今でも週4で必ずレンタルするシリーズの中でも特に人気の作品だ!!」

回転状況とか言わなくていい。俺は先週レンタル落ちのをamaz○nで買っただけだ。あとレンタル情報のソースどっから取ってんだ?そしてご近所さん何事かと玄関から出てきちゃったじゃないか。ガッツリ聞こえてるだろうが。ワザとだな?

おい、何さっきからディスクを出したりしまったりしてんだ。やめろ腹立つな。

殺す、お前を殺す。

さっさと始末して家に帰りたい。そう思うと俺は俺の人権と沽券を守るため自作のコスチュームに瞬時に着替えた。

とうとう戦いが始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怪人DVDプレイヤー伯爵 ひとし @takuhitosi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る