0/カシワザキヨルの初期衝動

@straightsalice

-1 番外編 ものがたりの出で来初めの祖➀

 歴史の本質が空転なら、なぜ『わたし』はそこにいるんだろうと、そう考えたことはこの生涯で二度程ある。

この記憶が覚えている。

でも、だからってこれは酷いじゃあない。それだけ、たったそれだけを除けばわたしはここで、与えられた役割を粛々とこなしてきた。

漆黒の宇宙の中の小さい、昏い50億年紀を見つめる真っ黒いモノリスの中、ありふれた反逆にわたしたちは対処せんとしていた。

状況を整理しよう。幸いか不幸か、それだけの感情をわたしたちは与えられている。

 第一に、かつてそこで西暦と呼ばれていた暦が2000の数を回って20年ほど過ぎた頃を端に、『人間』の名で自らを誇った種がここから遠い星で滅びた。

『地球』と呼ばれた星に住まう知的生命すべてを巻き込んだ自滅だったらしい。

原因はボイジャー探査機によってアクティブSETI(注:地球外知性探査のうち能動的なものを指します)を行なったこと。

搭載された記録媒体から地球の在処を最初に知った未開的社会を持つ知的生命はより軍備の遅れた『地球』文明を攻撃し、『人間』達の文明は植民地として、破壊的で不平等な初の休戦条約を結ぶこととなった。

問題は、件の侵略した側のの知的生命が統治能力を欠いていたことだった。

この種族は他にも多くの星を荒野にしたまま放置した実績があり、その例に今回が漏れることはなかった。

作物を搾取された『地球』に住む『人間』は、自分の撃った衛星でたった一つの故郷をそこに生きる生命ごと滅ぼすことと相成った。

具体的に言えば、植民地の食糧問題に対処するだけの文化的洗練がその種族にはなく、『人間』には自ら星の環境を管理する自由が既になかった。

結果『人間』は絶滅し、他の多くの知的生命もその結果としてその多くが致命的に数を減らした。

そして残されたのは、ゴールデンレコードだ。わたしたちは金色の記録機だからゴールデンレコードと呼んでいる。

 わたしたちを含む生命群--それが稼働するケージとその管理コンソール、すなわちモノリスは、生命のない1つの惑星の軌道に作られた。黒色の直方体の形をしている。(注:諸般の理由で、前地球で先進国に普及したプレイステーション2に似る)

件の『地球』の記録をもとに、実験場の星に生物の種を蒔き、空っぽの惑星に一から歴史を再現することと、その結果を記録すること、それらが製造目的だった。

同形機に、他の惑星の実験場についてのコンソールもあるらしい。

そしてその研究目的は、SIX BY NINE(注:Answer to the Ultimate Question of Life, the Universe, and Everything)の解を証明すること。

より差し迫った短期目標として、「心の生産性、必要性」に関して反証を得ることだった。

そういう問題意識に至った経緯は、わたしたちの関知するところではない。わたしたちは単なる隷従種族で、遠い星から来た家畜としてモノリスにおいて稼働しているにすぎないのだから。

そして、またそんなモノリスで何が起こっているかといえば、女王が自らモノリスにクーデターを起こしたのだ。

 さて、まずは。本筋から逸れるけれども、ここまででも長い文章を読んでいただいた皆様に、ありがとう、と述べたい。

これは記録だ。そしてそのひとつのたとえ話として、これがもし小説の一編ならば、ここまでが基本設定の➀ということになるだろう。

そしてまた、これがもしノンフィクション、たとえば伝記ならば、これが世界を認識するための基本教養の➀に違いない、

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