第6話

 道雄が誰もいないプールサイドのタイルを見回すと、熱帯特有の突風がアパートメントの谷間に吹き込んだ。


 プールの水が波打ち、あたりの樹木がざわめいた。


 道雄はバスローブを手に取り、自分の部屋のあるアパートメントの入口に向かって歩き出した。

 暫くして、道雄は肩ごしに少しだけプールサイドの方を振り向いてみた。


 そこには先程の四人が楽し気に話している姿があった。

 老人は道雄に気づいたらしく、手を振りながら悲しそうな目を向けて、何かをしきりに叫んだ。



 道雄の聴覚はそれを拒否した。


 そして前に向き直り、再び歩き出した。


             (完)

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プールサイド 阿部亮平 @naomi8731

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