第5話

 老人は四人に気がついて、

「皆さん、この方をご存知でしたか」

 と大きな声で叫びながら、すたすたとプールの向こう側に杖を突かずに歩いて行った。

 老人は、四人一人一人挨拶して回ると、テーブルにつき、何やら楽しそうに話をし始めた。

 

 道雄はその様子を長椅子からプール越しにじっと見守っていた。


「私の妻は今、実家に帰っているはずだが、何の為に、ここにいるのだろうか。やはり、矢嶋の事が忘れられなかったのか。

 モハメッドが生きているとなると、今回の入札は失敗に終るだろう」


 道雄が、とりとめなく考えていると、傍らに置いてあった携帯電話のベルがけたたましく道雄の耳元で鳴り響いた。

 

 道雄は急いで起き上がり電話に出た。


「リーです。休み明けの準備はすべて整いました」

「わかった」


 道雄は電話を切り、長椅子から立ち上がった。

 

 プールの向こう側には誰もいなかった。

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