第3話
卒業式の前日、道雄は矢嶋と寮で飲んでいたが、いきなり車で海に誘った。
道雄の車で近くの海岸に行き、二人は潮風に吹かれて崖に立った。道雄はその崖が自殺の名所である事を知って、矢嶋をわざわざ誘ったのであった。矢嶋もその場所は良く知っていて、順子と来たことがあると言っていた。
道雄はカッとなった。
飛び込めば確実に死ぬ場所で、死体はいつも潮の関係で二キロくらい先の砂浜に上がるので警察も世話なしであった。
矢嶋はそのがけっぷちに立って大きく手を広げ、深呼吸をした。そして道雄の将来のことをしきりにうらやむように話すのだった。
道雄は思いっ切り矢嶋の背中を後ろから押してみた。
矢嶋はまるで人形のように崖から転落し海に放り込まれた。道雄は地元の警察署に行き事情を説明した。道雄の青い顔を見ながら事情を聞いた警官は、数名を連れて現場に急行した。道雄の父親もすぐにかけつけ、警察から事情を聞いた。
矢嶋の死体は次の日、漁船によって発見され、警察の鑑識によって死因の取り調べが始まった。卒業式前日の事故とあって、学園は騒然としたが、誰一人、道雄の殺意を疑う者はいなかった。
矢嶋の死は、あっさりと事故死として片づけられた。
道雄と順子はその後結婚し、二十五年が過ぎ去った。
道雄はあまりにも矢嶋に似ている男が、プールの向こう側に立っているのでびっくりしたが、気を取り直して反対側に寝返りを打ってみた。
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