異世界転生ものについて考える。(読者編)
異世界転生ものについて考えると、現状日本の読者はとても疲れているのだなという事に帰結する。
自分が小説から離れている頃に異世界転生ものが流行り始め、帰ってきた時も依然として流行っていた。ただのブームではなく、ジャンルとして確立しているところが凄いなと思った。
と言うのは建前で、なんでこんなもんが小説として銘打たれてるんだ!? ふざけるな! と言うのが正直な所だ。
とは言え、流行るのには応分の理由があるし、それが継続していくのにも理由が有るので、この「なんでこんなものが!?」という疑問は、自分の無学さゆえに渦を巻いているだけなのである。
自分が読者は疲れているのだなと感じる理由。
異世界転生の転生と言う部分。
これは転生と言う言葉以外を使うなら、蘇り、という事だ。
つまり死んでいる。
本を読む。特に小説を読むと言う行為は、現実逃避の部分が結構あるのではないか。現実にはない事を読んで、非現実に耽る。
その中で、小説の中の主人公みたいになりたい、或いは自分が出来ない事を主人公に叶えて欲しいと言う願望が出てくるから、人はハッピーエンドを望むのではないだろうか。どうせフィクションだから、結末なんて自分の人生に関係ないね、と言い切れないのは、主人公に幸せになって欲しいと言う願望があるからで、なぜ幸せになって欲しいかと言うと、自分を主人公と重ねているからだ。
だから清廉潔白な主人公が好まれるし、読者層に合わせて主人公の年齢や性別、社会的地位が変わってくる。
オタクが読みそうな小説なら主人公はオタクだし、サラリーマンが読みそうな小説なら主人公はサラリーマンだ。
で、異世界転生ものはと言うと、勇者。
と、その前に、現実の世界からさよならした人、言ってしまえば死んだ人だ。
つまり、端的に言ってしまえば、皆死にたいのだ。
このドロップキックをしたくなるような現代では、何にも語って欲しくない。
この世界で語られる様な事には興味が無い。
一回リセットが必要。
そう言う事ではないだろうか。
しかしそうすると、じゃあまあ現代ドラマ、現代ファンタジーはともかくとして、転生ものじゃあない異世界ファンタジーはどうなるの? という疑問も浮上する。
しかし通常のファンタジーと言うものでは、
当たり前の話だが、完全なる異世界なら地形や気候も違うし、そこに生きる生物も何もかもが異なる。だから異世界なわけだが。
そこで登場人物が全員その世界の人なら、こっちの世界の価値観とはかけ離れた事をするだろう。
するとそこに生まれる共感というものは当然少なくなる。
なら、わざわざ転生しないパターンの異世界物はどうか。
つまり、主人公が異世界に迷い込むパターンの作品。
主人公はこっち側の人間で共感をしやすいが、世界は向こう側なので、語られる事が向こうよりの事が多い。
ここまでくると殆ど異世界転生ものと差異が無い。
……なら、異世界転生ものでよくないか?
という事になる。
先述したとおり、みんな疲れている。
上司に気を遣ったり、部下にパワハラだと言われたり、気の合わない友達と無理矢理合わせたり。
そう言う所から、完全に切り離されたいのだ。
異世界に迷い込むパターンだと、いつか元の世界に戻ると言う事がある。この物語は戻りませんと言ったところで、その戻る可能性があると言う事実は払拭出来ない。
だから、一度死んでリセットして、しかし現世での記憶は共感の為に残しておいて、新しい世界に行ったらやりたい放題する。そう言う願望を、世の中の人々は思い抱いているのだ。
さて、物語上での好まれている理由は上記の通りだが、読みやすさと言った部分ではどうか。
そもそもライトノベルと言う時点で、ある程度文章は柔らかく、読みやすいものが殆どだ。
更に昨今の異世界転生ものには「テンプレ」と呼ばれるものが付いている。
自分が小説から離れる前にはそんな言葉は無かった。
だからカクヨムに投稿しようと思って色々な人の作品を見ている時に、たまに見かける「テンプレ」とか「テンプレ無し」とかと言うタグが良く解っていなかった。
テンプレと言うのは、テンプレートの略称で、要は「だいたいこんな感じで物語は進んでいきまーす」と言うのが最初から確約されているという事なのだ。
唖然とした。
これを知った時、当然、唖然とした。
そもそも小説って、先が解らないから面白いんじゃあないの?
そう言う疑問があったが、これにもやはり読者の「疲労」が関係しているようだ。
小説は漫画を読むよりも時間が必要になる。
しかし現代社会における、娯楽に割ける時間と言うのはかなり限られている。その僅かな時間の中で出来るだけ自分にフィットするものを読みたいと言う願望が芽生えるのは当然である。
折角読み始めたのに思ったのと違った。となれば、クレームものだろう。
ならば初めからどういう作品なのか、自分に合うかどうかと言うのが解っていた方が、安心して読み始められる。時間を無駄にしなくても良い。
だからこのテンプレと言うのは、読者のニーズに応えた結果とも言える。
更に異世界転生ものには、読者が想像しやすいと言う良さがある。
異世界転生ものの強みそのものと言って良い。
例を出そう。一人称で。
上が、もしも自分がファンタジーで表現したらと言うもの。
下が、異世界転生ものの表現。
『青く、ぬるぬるとしたゲル状の、凡そ生物として表現して良いかもわからぬそれが、地面に張り付いていた。立っていたと表現できないのは、体の全てがドロドロとしていて、足がどこにあるのかもわからないからである。だが辛うじて生き物として私が認識できたのは、それが動いているからと言う理由以外に、ゲル状の体の中には眼球らしき球体が二個あり、それがこちらを明らかな意思を持って見ていると判断できたからである。』
『スライムがこっちを見ている』
どうだろうか。
異世界転生ものは1/6の行数で説明を終えている。
しかも多分伝わっている。
なぜなら、読者はスライムを知っている。ドラクエのスライムを。
だから、作者が表現したいスライムがドラクエのスライムそのものなら、もうスライムで伝わるのだ。
読者は『青く……』の説明を聞いて想像を膨らませるよりも、『スライムが』と言う、結局何なのかが解る説明の方を好んだのだ。
考えたくないのだ。難しい事のみならず、描写から想像を膨らませると言う行為そのものが面倒なのだ。
敢えて言うが、読者は読書を放棄する事により気持ちよく読書が出来ている。
難解で不可解な小説は読むのがめんどくせーだろう。しかしそのめんどくせー小説を読み、「これはこうなのではないか?」「あの時のあれはああいう意味だったのではないか?」と思いを馳せるのが、本来の小説の在るべき姿だ。
しかし、今は最早、読まなくても読める小説が求められている。
言い得て妙ではないか。
自分なりに考えてみた、読者が異世界転生ものを好む理由が、上記の内容となる。
あくまで自分の推論なので、あてにしないように。
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