2_Cloudy
「今日は雨降りそうだな……」
朝起きて空を見て思った。
傘を持っていくべきだろうか。
いや、何だかんだで振らないのでは?
天気予報は当てにならない。
俺はどうすればいい。
そんな葛藤を玄関前でしていた。
「うーす」
「おー、健吾おはよー!」
教室に入り席へ向かった。
もう隣の席には銀髪の少女が座っている。
「よお、元気か?」
そういって頭を力強く撫でた。
「んーーーやめて…」
「ははは、ほら今日のパンだ」
そういって俺は鞄からメロンパンを出した。
最近のこいつのお気に入りだ。
「ありがとう、プリンは?」
「また今度な」
こいつは小柄のくせに思った以上に大食いだ。
最初はパンを与えていると昼飯が食べれないのではと
クラスの女子からクレームが来たことがある。
だが、思った以上に大食いの彼女の様子を見て
最近はこの交流という名の餌付けが許されている。
毎回プリンを要求されるのだが、好きなのか?
「くそ、やっぱ雨か」
今日は部活が休みだ。
やることもないからさっさと帰ろうと思ったらこれだ。
俺は学校から少し離れた公園で雨宿りをしていた。
傘を持ってくるべきだったな。
「……どうしたの?」
「ん?」
俺の後ろにメルがいた。
こんな公園にいるなんて珍しいものだ。
「いや、傘持ってくるの忘れちまってな」
「ないの?」
俺はメルに振り返り、手ぶらの両手を見せた。
「……………一緒に入る?」
「はははは!サンキューな!」
そういって俺はメルの頭をなでた。
本当に小動物みたいなやつだ。
「俺は大丈夫だ。
夏の雨は好きなんだ」
「でも濡れるよ?」
「そうなんだよな。
雨は好きなんだが、濡れるはなー」
俺の言っている意味が分からないのだろう。
メルが首をかしげていた。
「ははは!この時期の雨は好きなんだ。
でもだ、それと濡れるのが好きってのとは違うだろう?」
「……そうかも?」
「そうなんだよ、でも大丈夫だ。
走ればすぐに家に着く。
雨も止みそうに無いからそろそろ行くよ。
メルは気をつけて帰れよ」
そうだ。
今思えば、あの時は照れくさくて
一緒に帰ろうって言ってくれたのに断っちまったな。
私にとって歌はすべてだ。
好きな歌手もいっぱいいる。
色々な歌を聴いて、
たくさんの音楽を聴いて、
自分でも歌を作ってみたいと思った。
日本に来て、なれない環境であったけど、
がんばって言葉も覚えた。
初めて教室に入り、異国の地で、
知らない人達に囲まれて、
私は頭が真っ白になっていた。
教室を歩き、皆が私を見ている。
私はまっすぐ前を歩けている?
何かへんなところはない?
そんな不安ばかりが胸に押し寄せてきた。
「おう、宜しくな」
怖い。
すごく体が大きく、目つきが悪い。
この人の隣か。
ますます不安がいっぱいになってきた。
「……うん」
なんとか返事は出来たと思う。
でもこの人の目を見る事ができなかった。
「なんだ、腹でも痛いのか?」
「……違う」
行き成り何を言っているのだろうか。
「そうか、腹が減ってるんだな。
よし俺のパンをやるよ」
本当に何を言っているのだろうか。
でも貰ったパンはすごくおいしかった。
チャイムがなり、休み時間ごとにたくさんの人が
私の周りに来た。
たくさんの質問をされて、緊張しながら何とか
答えられたと思う。
放課後になると気づいたら尾崎君は帰っていた。
部活があるらしい。
なんども剣道部に入っていてかなり強いということだ。
時間が経ち。
私も日本になれてきた。
ずっと出来ていなかった音楽制作に少しずつ
時間を避けるようになってきた。
「ほら、今日のパンだ」
尾崎君は毎朝パンを私にくれる。
このパンがとても美味しいのだ。
どこで売っているのだろうか。
「ありがとう、プリンは?」
「また今度な」
このやり取りもずっと続いている。
でも尾崎君はプリンを買ってくれた事はない。
いつか一緒に食べたいとも思う。
放課後、無人の教室で歌うことが日課になってきた。
歌といってもまだ歌詞が決まっていない。
メロディだけを口ずさんでいる。
しばらくそんなことをやっていたら、
放課後のかえるときも尾崎君と一緒にいるようになった。
尾崎君は少し変わっている。
夏の雨が好きらしい。
でも濡れるのは嫌いらしい。
私は人付き合いが得意ではないが、
彼とは不思議と一緒にいても苦しくは無い。
そうだ。
今ならよい歌詞が出来るかもしれない。
家に帰り、すぐに書きとめよう。
完成したら尾崎君に最初に聞いてもらうんだ。
先ほど気をつけて帰れといわれたことも忘れ、
私は夢中になって走った。
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