My weather

カール

1_Sunny

土砂降りだ。

濡れたシャツが肌に張り付き、気持ちが悪い

たが、嫌いじゃない。


くそ暑い夏場で雨ってのは気持ちがいい。

だが、濡れたのは気持ちが悪い。


「健吾、何してる。

 風邪ひくぞ!」


「ああ、わりぃ!!」


声をかけられ俺はすぐに体育館に戻った。

全国高校剣道選抜大会予選


今から個人予選の決勝戦だ。

明日は団体戦の決勝があるが、

俺の学校はベスト8で敗退だ。

――――もう少しだった。

あの時、中堅で俺が引き分けたのがまずかった。

あれは勝てる試合だった。


(くそ、思い出すとイライラする)


だめだ、これから個人の決勝なんだ。

目の前に試合に集中しなくては。

体育館の中心に白線で四角に囲われている試合舞台

その中心に紅白の旗を持った審判員がいる。


「健吾!お前なら大丈夫だ!!」

「先輩、頼みます!」

同じ部の仲間たちが俺に激励を飛ばしてくれる。


軽く跳躍し体をほぐす。

相手は団体で優勝した高校の先鋒だ。

動きが早くすばしっこい奴だった。


「ふん、叩き潰してやるぜ」

目の前の相手を睨み付け、

礼をする。


そのまま前に歩き、互いに白線の前で止まった。

竹刀を構えながら蹲踞する。


「はじめ!!!」


「しゃあぁあああああ!!!」

「やあぁああああああ!!!」


互いに気合を入れ試合が始まった。












(暑い。なんで夏はこんなに暑いんだ)


そんな馬鹿な事を考えながら俺は自分の教室へ入った。

「健吾!!昨日勝ったんだって?おめでとう!!」

クラスメイトが俺に声をかけてくれた。

普段はまったく声をかけてこない奴らだが、

さすがに個人戦優勝ってのはインパクトがあるのか。

「おお、あんがとな!」


適当に返事をし自分の席へ座った。

外も暑かったが教室も暑い。


「雨でも降らねぇかな」

そんなことをかばんを置きながら呟いた。


「ほら、ホームルーム始まるぞ!」

前を向くと教師が出席簿を持って教室へ入ってきた。


「尾崎、昨日は凄かったな!」

「……どうも」

「知っている奴もいると思うが、

 昨日尾崎は剣道個人予選で優勝した。

 今度表彰するからな」


おおー! パチパチパチパチ


(クソ恥ずい)

毎回表彰される度にやられるのはきついな。


「そして、前から言っていた転入生を紹介するぞー!」

「おおーー!!待ってました!」

「かわいい子だと良いな」

「男子はそればっかだよね」


そういえば今日来るって言ってたな。

ってことは俺の横の席か。

そう思い、空の席になっている隣をみた。

今日の朝から何故あるのか疑問だったが、

いつの間にか用意してたのか。


「よし、入れ」


そうして教室の入り口から少女が入ってきた。

「――銀髪?」


入ってきた少女は日本人ではなかった。

長く綺麗な銀髪をなびかせ、

教壇の前に立った。


「――――メル・アイヴィーです」


教室の時間が止まったと思った。

それくらい、先程まで騒がしかった教室が静止していたのだ。


「海外からの転入生だが、日本語は達者だ。

 言葉も普通に通じるからみんなも仲良くする事。

 万が一にでもいじめを見つけたら鉄拳制裁だから注意しろー」


「アイビィーは後ろにいる短髪の大男の横の席だ」

「メル……です」

「ん?そう呼んだ方がよいのかな。

 みんなもメルって呼んでやってくれ」


「「はーーーい」」


そうしてメルは俺の席の横まで歩いてきた。

ってか大男って俺のことかよ。

そりゃ180超えてるけど…




「おう、宜しくな」

「……うん」


ん?

なんでこんな無表情なんだ。


「なんだ、腹でも痛いのか?」

「……違う」

「そうか、腹が減ってるんだな。

 よし俺のパンをやるよ」


そうして鞄から間食用のパンを出そうとした。

「おいおい、尾崎ー。

 お前が面倒見がよいのは知ってるが、

 いきなり餌付けするな」


失礼な。

腹が減っていたら授業を寝れないだろ?






放課後になった。


横にいるメルには人だかりができている。

休み時間もすごかったが放課後もこれってのは中々すごい

たしかに珍しい外人さんだしな。


さて、部活に行くか。

そうして俺は教室から出て行った。




日が落ちる。

少し紫色の夕焼けを見ながら俺は汗を流していた。

この間の大会。

個人戦は素直にうれしい。

だが団体戦で優勝する事、

それが俺の目標だ。


でも、あまり厳しい稽古をしても

みんながついてこれるわけじゃない。

「素振りを増やすか?

 いや、これ以上は意味が無いか」


筋トレもそうだが、こういったトレーニングは

ある程度はルールを定め無理やりやらせる事でも一定の効果はあるだろうが、

それ以上になると、

本人意思というは重要になってくる。

嫌々やらされる素振りと強くなる、上手くなるという気持ちを持ってやる

素振りでは同じトレーニングでも効果が違う。

だからこれ以上はやらせてもだめだ



それは分かっている。

理屈ではそうだ。


でもこのままで優勝は出来るか……?


そんな事を考え俺は制服に着替え部室を出た。




なんだ?

何か聞こえる。


「まだ誰か部活やってるのか?」

珍しいな。

これは―――――――歌?


歌詞はない。

メロディだけの歌のようだ。


綺麗なもんだな。

普段音楽なんて聞きもしないくせに

ガラにもなくそんな事を考えた。






あれから1か月が経った。

「よお、メル。

 今日もパンをやろう」


「有難う。プリンもほしい」


「また今度な」


俺はメルと話す機会が増えた。

朝の交流餌付けから始まり、

放課後は一緒に帰る仲になっていた。

いつも遅くまで残っている歌の正体は

こいつだったのだ。


なんでも歌を歌うことが好きらしく、

自分で曲を考えているが、

まだ歌詞が出来ていないらしい。


俺は音楽に詳しくはない。

だから思った事をそのまま話した。

「いい歌だ。俺はずっと部活しかやって来なかったから

 カラオケとか言った事ねぇけどさ。

 お前の歌は嫌いじゃないぜ」


「そう、ありがとう」

「おう、素直でいいな!」

そういって俺はメルの頭を撫でた。

以前は嫌がっていたが最近は諦めたのか

逃げようとするそぶりもない。


あんまり人の髪を触る事なんてないから

比べられないが、綺麗な髪だと思ったよ。



最近はずっと部活の事でナーバスになっていたが、

少し余裕が出てきたのか、周りのことも見えるようになってきた。


次の大会も近いがこれなら優勝とか行けたりしないかな。

そんな事を俺は考えていた。

















なんでだろうな。

周りがスローに動いている。

こんな時に考えることがお前の事とは。

ああ。



ちくしょう。



参ったな。



わりぃ………メル。




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