26.自己問答

たまに自分が片目で物を見ていることを忘れる事がある

いやいや 常にずっと覚えている事などないのだから言い換えねばなるまい そう考えて言い直す

私は たまに自分が片目で物を見ているのだと思い出す事がある と

はっきり言えば そんな事はどうでも良い事の様に思われる が

私にとっては少しばかり重大な事なのだ だからこう自分に問いかける

人が両の目で世界を見ているというのに どうして自分はそうじゃない? と

物言わぬ目は 私の片目はある過程を経て独立した いつしか物を片目で見る様になった

この出来事は私に考えるという事を覚えさせ 憶見について考えさせた

私の持する事実と 他者の持する事実を比較させた

まずは自分だけが片目で物を見ているのではないという 当然辿るべき考えは

果して本当に「当然」なのか これは一つの可能性にすら過ぎない事なのではないか と

では自分だけが片目で物を見ていると仮定し また考えを拡げてみる

自分の片目で見る世界と 人が両の目で見る世界とで何か特別違いがあるのか と

恐らく いや 恐れずに絶対と言い切るとしよう 何も特別違いはない と


こうして二つの事実は 比較考察するに値しない事だとはっきりした が

何か忘れている事があるな 思い出さなければならない事があるな そう思い巡らす

人は自身が両の目で物を見ている事に 少しでも疑問を差し挟んだであろうか と

物が見えている事には 少少の疑問を感じはするかもしれない が

自身が両の目で物を見ている事には 少しも疑問を感じないものかもしれないな そう考え至る が

まだ何か忘れている事があるな 思い出さなければならない事があるな と

私はいつ いや 一体何故何があって 一体どの様な出来事や思考を辿って

自分が片目で物を見ている事に 少少の疑問を差し挟んだのだろうか と

人が両の目で物を見ているという事実を

そんな 人にとっては当然な事を

少少も疑問にすら感じなかったであろう事を

この私が知る術などなかった筈なのに どうして私は自分自身でその事に気付いたのだろうか

そう一旦は考える が 何か違うとも思い悩む

片目で物を見ている事実には先ほど 何の意味もないのだ と

人が両の目で世界を見ているという事実と比較し さらには考察する意味もないのだ と

それらの事に自分自身で気付き 考えの中に幾らかの憶見を差し挟みながらではあっても

私は「絶対」を使ってまで 何も特別違いはない そう言い切った

それなのに なぜまた新たに疑問を差し挟もうとする? と

今度は目を閉じ 無意味な自己問答に身を投じるとしよう

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