15.赤子の手 老人の眼

口車に乗せられる事なく此処まで来た私の小指を

緊と握る赤子の小さな手を振り解く時

微かに胸に痛みが走ったような

僅かな穴が胸に開いたような気がするのは何故か

そして仮にそうだとして気にするのは何故か


口車に乗せられる事なく此処まで来た私の後ろ髪を

引いて引いて先に進むのを阻む老人の眼は白濁で 髪は白銀 顔は蒼白

皮膚は剥げ肉も削げた肘や膝から露出した骨も当然白い

そんな老人を振り払って前を向くと誰かいる

後ろに隠し切れないほど大きな鎌を持った誰かがいる


赤子は私を恨むだろうか

老人は私を憎むだろうか

無垢さを振り解くべきではなかったかもしれない

質朴さを振り払うべきではなかったかもしれない


口車に乗せられる事なく行ける処まで行こうとした私を

ほんのひと匙の悪意によって容易く殺したその誰かは

安楽椅子に揺られながら懐中時計を手に天井の皹へと目を走らせた――

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