6

「え…っ…本当?」


 稽古に行く事にOKをもらった俺は。

 早速、世貴子にそれを報告した。


「ああ。」


「センって、ビックリしちゃうくらい…思い立ったらすぐの人なのね。」


「俺も驚きだな。自分がそんな人間だったなんて。」


 本当に。

 今まで、色々考え過ぎて行動に移せなかったクセに。

 なぜか…今の俺は頭に描いた事はすぐに実践。

 …自分でも不思議だ。



「ほんとに?元々は違うの?」


「元々はどちらかと言うと、優柔不断寄りだったと思う。」


「意外…いつも即決、有言実行、ってイメージしかないけど。」


 夕暮れの公園。

 世貴子は短い髪の毛をかきあげながら、笑った。



「手紙?」


 俺が親父からの手紙を手にしてると、世貴子がそれを見て小さく。


「…彼女から?」


 なんてつぶやいてる。


「いないよ。」


「本当ー?」


「本当。これは親父から。」


「お父さん?」


「わけありで、一度も会ったことないんだ。」


「……」


 ふいに、世貴子の瞳が曇る。


「あ、別に気にしてないぜ?」


「…ごめんね、立ち入ったこと聞いちゃったみたいで…」


「世貴子ならいいさ。」


 本心だった。

 世貴子は…なぜか俺にとって心地いい。



「世貴子は、彼氏いんの?」


「いたら、ここに来ません。」


「あ、それもそっか…この前抱きしめた時も、大騒ぎだったもんな。」


「…いつも、あんなことしてるの?女の子に…」


 世貴子は、赤い顔。


「しないよ。」


「……」


「どうやら、一目惚れ。」


 世貴子の髪の毛をクシャクシャしながら言うと。


「…さらっと言うのね。」


 世貴子は唇を尖らせてる。


 確か…織の時もこんなふうにさらっと言ってしまった。

 一目惚ればかりだな…



「でもね、一目惚れはかなわないって、ジンクス知ってる?」


「…え?」


「女の子の間では、そういうことになってるの。」


 世貴子の言葉に、思わず俺は黙る。


「…セン?」


「なるほどな…前も一目惚れだった…」


「…かなわなかったの?」


 俺は世貴子から離れると、空を見上げて。


「高二の時知り合って…誕生日がさ、一緒だったんだ。七夕生まれ。」


 って少し、ため息。


「ロマンチックじゃない。」


「でも、彦星と織り姫よりタチが悪いよ。」


「…会えなかったの?」


「…毎年、天の川が見えなくてね。」


「……」


「あ、でも今は友達として会ってる。いい関係っていうかー…満足してるよ。」


「最近まで、好きだった?」


「…正直に?」


「うん。」


「…好きだった。でも、この間結婚したしー…ちゃんと笑って祝福出来るあたり、俺もちゃんと吹っ切れたんだなって。」


 できるだけ明るく言うと。


「…あたしとも、かなわないかも…」


 世貴子が、うつむいて言った。


「…好きな奴がいる?」


「……」


 世貴子は立ち上がって俺に背中を向けると。


「…今ので、すごく嫉妬しちゃった。」


 って小さく言った。


「あたし、こんなやきもち妬いちゃうのよ?センきっとイヤになっちゃうと思う。」


 ポカンとして見てしまった。

 やきもち。


「お・大人気ないと思ったでしょ?でも、これがあたしなんだもの…」


「やきもちって、つまりー…じゃ、世貴子は俺を好きってとっていいわけ?」


「そっ…」


 世貴子は振り向いて真っ赤になると。


「おかしい?歳上だし、普通の女だし、きっとセンを満足させてあげれるようなとこ一つもないけど、あたし…」


 世貴子の腕を取って、口唇を重ねる。

 俺の胸で震えてる世貴子の手を、愛しく思った。



「…俺、ずっと自分で自分を窮屈にして生きて来た。」


「……」


「でも…世貴子とこうしてると、すごく…なんて言うか…」


「……」


「ホッとするんだ。すごく…解き放たれた気分になって…何でも出来てしまえるんじゃないかって。」


「セン…」


 世貴子が驚いた顔で、俺を見上げる。


「本当の俺って、情けないぐらい弱くて頼りがいのない男かもしれない。でも…世貴子がいてくれたら…強い男になれる気がするんだ。」


「…あたしに…そんな力なんて…」


「好きだよ。」


「……」


「世貴子は?」


「……」


 世貴子は唇を噛みしめてうつむいた後、照れくさそうに俺を見上げて。


「…好き…」


 そう言って…背伸びをした。

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