不良少女と真面目少女と 後編

「あなた、髪を染めるのは校則違反でしょ。次見かけたら、風紀委員長に報告するわよ」


 ふと、学校を歩いていると、御舟をみかけた。あいつ風紀委員だったのか? またもご苦労なことだ……。

 っていうか、私以外にもあんなふうに注意してるなんて、本当にお節介なやつだな。まぁ、注意されてる方はかなり派手な金髪に染めているから、御舟に注意されずとも速攻で先生に注意されそうだけど。


「はぁ? それあんたに言われることじゃないんですけど。なにいいこぶってんの。うざ」

「いいこぶってるとか関係ないわ。ルールを守ってと言ってるの」

「ルール、ねぇ。今どき流行んないよ髪を染めるなとか。とにかくうぜーからさっさと消えな」

 白熱してるなぁ……。ギャラリーもでき始めてるし。とにかく騒ぎが大きくならないうちに止めにはいるか。

「なぜ私が消えなくてはならないの、あなたが……」

「はいはいストップ。ごめんねー。ちょっと用事あるから……」

「ちょ、ちょっと望月さん、私はまだ……」

「いいからちょっとこっちこい……。あ、えーとごめんね。気を悪くしないでねー、それじゃ」


 強引に御舟の手を掴んでその場から退散していく。どう考えても余計なことだ。あれだけ派手なら御舟から注意することはない。先生の方から勝手に指導がはいるだろ。

「あの、いい加減手を離して。痛いわ」

「おっと、悪い。まぁでも、あんなのお前が注意する必要ないだろ? 先生から注意されるんだし、余計なことだ」

 はぁ、御舟のお節介が移ったかな。放っておけばよかったかもしれない。だけど、見過ごすと、後味が悪そうだから仕方がない。

「余計なって……。これも仕事よ。風紀委員なんだから」

 私と違って真面目すぎる……。これが御舟のやりたいことなんだとしても、わざわざ自分から問題を増やしにいくことはないだろう……。

 何事もほどほどが重要だ。まぁ、何事もほどほどにした結果が私みたいな無気力人間を作り出してしまったわけだけど。

「あのなぁ、少しは肩の力抜いたほうが良い。あんな派手な金髪すぐ注意されるに決まってる。御舟がわざわざ相手にすることはないだろ」

「それでも私は、自分の仕事を……!」

「いや、やめとけ。仕事とかいっても所詮学生だろ? 適当にこなしておけば……」

 それは、少しまずい言葉選びだったのかもしれない。御舟は私の言葉を遮って、聞いたこともないぐらい大きな声で怒鳴った。

「所詮とか適当とか、いい加減なことばかり! 私のことは放っておいて」

「あ、おい。待てって……」

 

 

 結局、私は御舟のことを探していた。

 まぁ、御舟にとっては悪いことを言ったのかもしれないな。そりゃそうだろう。自分の一生懸命にやってることを所詮とか適当とか、デリカシーがなさすぎる。

 そこんところを謝らないと流石に後味が悪い。

 思えばこんなに何かを気にしたことかないな。人生のなかで一番本気かもしれない。誰かに対してアドバイスとか。

 そりゃそうか。誰かにアドバイスできるほど大した人生を送ってきたわけでもない。

 それでも私は御舟には、あまり辛い思いをしてほしくなかった。

 真面目で、したいこともないとか言ってるのに委員とかやって、私なんかにはできないことをやってるんだ。そんなやつが、余計な問題で余計な苦労を抱える必要はない。


「お前、何やってるんだ?」

 だから、あいつの邪魔をするやつを許したくなかった。

「あ?」

 さっきの派手な金髪女が、御舟の下駄箱になにかしていた。いや、捨てようとしてるのか上履きを。

 もう放課後だし、外に行ってしまったのかと思って、ここに来たけどつまんないものを見ちゃったな。まぁ、上履きがあるってことは、予想的中したけど。

「こすいなー、お前。ちょっと注意されたからって上履きに悪戯とか、小学生かよ」

「あんたにはかんけーないっしょ。調子に乗ってそうだからちょっとお灸を据えようと思っただけだし」


「お灸ねぇ……。それで、私のツレに手を出したらどうなるか、分かってんのかな?」

 人相の悪さには自信がある。女同士だし、目つきを人生最大に悪くして、ドスをきかせてそれっぽい言葉でも言ったらビビってくんないかな……。

「あ、いや……」

「次はないから。次見かけたら、二度と学校に来れなくさせてやるから。だから、それ、早く元の場所に戻せよ」

「は、はいぃ……」

 思ったより情けない声を出して、そーっと下駄箱に上履きを戻してそいつは逃げていった。

 おお、マジか。こんなうまくいくもんなのかな……。こいつもけっこうヤバそうだったから、ヤんのか? みたいな展開になったら困ると思ったけど、助かった。

 正直のこのあとのことなんも考えてないから、絡まれたら終わってたな……。



「見つけたぞ、御舟」

 あたりはもう暗くなりかけていた。学校から歩いて10分ぐらい。私が御舟に連れ戻された場所だった。

「望月さん。どうしてこんなところに……」

「それは私の台詞。ここ、よく私がサボって歩いてた道なんだけど?」

 大通りから少し歩いたところにある河川敷。平日にはあんまり人が居なくて、過ごしやすい場所だ。

 結局アテなんかなんもなくて歩いていたら、結局ここに来てしまった。まぁ、見つけられたのはよかったけど。

「ここ、私の通学路なの。あと5分ぐらいで家に着くのよ」

「ああ、そうなんだ……。まぁ、それはいいや。さっきのこと、その、謝りたくて」

「いえ、私の方こそ怒鳴ってしまって悪かったわ」

「いいんだよ、御舟は自信を持ってれば。別に間違ったことしてるわけじゃない」

「だけど、確かにさっきみたいに過剰になってしまうこともあるわ。冷静になってみれば、あれは余計な問題を生み出しただけだったかもしれない。それでも、つい、ね。私ってこういうところがいつまでも治らないの」

「治らなくていいんじゃないか? そういうところがなかったら御舟と知り合うこともなかったし……」

「そう、かしら。ふふ、あなたにしては前向きな考えね」

「あなたにしては、は余計だ」


「また、助けてくれる?」

 不意に、そう聞かれて心臓が跳ねた。

 その声はどこかやっぱりどこか自信なさげで、弱々しい。なんだよ、私が嫌だと言うかもって心配してるのか。

「当然だ。私のやりたいこと、お前のおかげ見つかったしな」

「ありがとう、望月さん……。いえ、比奈」

「ん、ああ、私のほうこそ、美佳」

「それで、あなたのやりたいことってなんなの?」

「あーいや、それは秘密」

 美佳のそばで、美佳を支えていたい、なんてそんなこと面と向かって言えるわけない。それが、私の生きる意味かもしれないなんて、そんなことちょっと大げさすぎるかな……?

 今はもう少し、この気持ちは隠しておこう。彼女に相応しい人間になれたその時にまた……。

 


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不良少女と真面目少女と ごんべい @gonnbei

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