ヤケドの治し方

ヤケド:


熱傷も擦過傷と基本的に同じです。

洗浄と軟膏。

ただし、熱傷面特有の性質があり、それらへの対処が重要です。


その1 <皮膚のバリア機能が大幅に低下している>


結果、体内から体液が多量に体外に出てしまいます。

つまり栄養に富んだ浸出液が多い。

かつ、皮膚の免疫機能が働いておらず、体外からの微生物侵入を許してしまう。

したがって、頻繁に洗浄する必要があります。

けれど、いわゆる水ぶくれができていて、それが破れていないときは、大事にそのまんまにするのが最良です。

水疱が破れないほどの比較的軽い熱傷では、それほど皮膚ダメージは大きくなく、また水疱にたまっている液体には天然の治癒促進物質が含まれているからです。

バイ菌も侵入していません。


体外に体液が漏出して止まらないのは、生命にとって致命的です。

広い範囲の熱傷を負っても、患者は1日か2日くらいは元気でしゃべっているのですが、3日目くらいに急変して亡くなります。

いくら輸液で補正しても、低タンパク血症の是正は困難で、どんな抗生物質を投与しても広範囲感染から敗血症に至るのを阻止できません。

なので、広い熱傷の症例では、すみやかな壊死組織除去と皮膚移植が必須です。


その2 <壊死組織が多く存在する、増える>


擦過傷に比べて、潰瘍面に広く一様の壊死組織が存在します。

これは2度熱傷以上の深いダメージを追った場合に顕著です。

つまり水疱がすぐ破れるくらいの、あるいは水疱など最初から作られないくらいの状態で、比較的重傷です。

しかも、ギリギリで生きていた組織も、次第に死んでいくことが少なくありません。

これをそのままにしていても、壊死組織の下で皮膚が張ることはありません。

外科的に切除してあげることが必要です。

それでこそ、生きた組織(良好な肉芽)の表面に表皮組織が泳いできてくれて、表皮が張ります。

優しくていねいな洗浄を頻繁にすることでも、ミクロレベルで壊死組織除去(デブリドマン)ができます。


その3 <病態が進行性である>


ヤケドは、ジワジワと進行します。

熱でダメージを負った細胞を、免疫細胞が攻撃するのです。

「はいはい、あなたはもうダメだから、わたしが食べて整理しちゃいますね」

というふうに。

どんどん組織が壊されていきます。

この働きは、生命維持に不可欠な新陳代謝を担っているもので、重要です。

しかし広範囲だったり重度だったりの場合、パニックに近いような反応で免疫細胞が患部に押し寄せます。


それを

「まあまあ、そう焦らずに、冷静に、ね?」

と鎮めるにはどうするか。

そうです。

クーリング。

氷袋で冷やすのです。


え?

ステロイドの軟膏を塗るほうがいいだろうって?

ノンノン。

冷やすのが最高です!

生命活動の根幹は、酵素による化学反応です!

アセチルコリンの代謝も、貪食細胞の動きも、抗体の放出も、ホルモンの分泌も、すべて酵素を介した化学反応で行っています。

酵素の活性を下げる。

これが根本です。

ヤケドしたら半日くらいひんやりクーリングです。

血管をつなげない移植片を生き延びさせるにも、仮死状態の人間を生かし続けるにも、低温にして代謝を下げることが最も効果的です。

塗る軟膏は、最初の4日間くらいはステロイド(リンデロン)や非ステロイド性抗炎症薬(アズノール)です。

昔はステロイドは1週間以上も塗布されることが多かったですが、期間が長いと治癒が遅れることが分かっています。


擦過創も熱創も、洗浄が基本です。

洗浄できない場合は、清潔に密閉ということになります。


バリアとしての皮膚の免疫機能が働かなくなっている一方で、自身のダメージに対しては最大限に反応してしまっているというところが、熱傷の悲劇的な状態です。

広範囲重症熱傷では、ダメージを負った組織の整理を免疫細胞に任せていないで、速やかに外科的に除去することで身体の反応を抑えて、かつ皮膚移植によって身体をとにかく覆う必要があるのです。


皮膚移植。

ここにも難問があります。

それは……。





次回、皮膚移植についてへ、つづく













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