皮膚移植について
皮膚移植です。
日常生活に役立つ豆知識とはいえない内容ですね、すみません。
広範囲熱傷の救命に不可欠な処置です。
壊死組織を取り除いたら、できるだけ早く行います。
健常な皮膚を採ってきて、熱傷面に移植します。
ケガではなくとも、大きな黒いあざ(母斑など)や赤あざ(血管腫)などを切除して、そこへ移植することもあります。
悪性腫瘍の切除後や、乳がんで皮膚ごと切除した際にも行うことがあります。
皮膚を採ってくるときに、皮膚を分厚く採るか(全層)、薄めにある程度だけ採ってくるか(分層)2通りあります。
表皮も真皮も全層そっくり厚く移植してあげる前者が、外見上も機能上も理想です。
が、切り取った場所は皮膚のない大きな傷になりますから、すぐに縫い合わせなければいけません。
したがって全層植皮の場合、皮膚はたくさん採れません。
分層植皮なら皮膚を採った部分は軟膏を塗ってなにかで覆っておけば、ちゃんと表皮が張ってくれるので(すり傷と同じです)、広い面積を採取できます。
しかも、植皮片が薄いので熱傷面に容易に生着して、すぐに皮膚機能を発揮してくれます。
薄いのでメッシュ加工もしやすく、機械で編み目状に加工して3倍〜6倍くらいに面積を増やして熱傷面に貼り付けたりします。
え?
メッシュの隙間はどうするのかって?
網目状の皮膚から、皮膚細胞たちが頑張って泳いでくれて皮膚を張ります。
潰瘍面を、ちゃんと理想的な環境にしてあげれば(湿潤、清潔、安静)。
ただし、頻繁に洗浄したりすると、植皮片がずれたり浮いたりして生着しないので、この場合は1週間くらい固定してガマンです。
ちなみにその昔、分層の皮膚の採取は、半分にした円柱状のものの表面に両面テープを貼った器具と、手動の大きなカミソリで行っていました(パジェット・デルマトーム)。
一種の職人芸です!
現在は電動の機械を使うことが多いです。
このような皮膚移植によって、致命的な体液漏出と広範囲感染を防ぐことができます。
では、人工の皮膚は役に立たないでしょうか?
豚皮、ケラチン表皮、高分子膜、人工真皮などなど。
人工表皮は受傷後早期において、一時的に有用です。
人工真皮も小範囲ではよく使用されます。
しかし、自己の皮膚でないと根本的な解決にはならないのです。
生きていないものは生着しないからです。
長期間にわたって人口皮膚を貼っていても、その下に皮膚が再生しないとならないのですが、貼りっぱなしよりも交換、洗浄した方が感染予防や壊死組織除去の点で有利です。
では、幹細胞技術や最新の細胞培養は?
残念ながら、現状では力が足りません。
あらかじめ培養して保存しておけばヤケドを負ったその時に使用できますが、手間やコストを考えると、ごく一部のセレブ向けでしかありません。
受傷した日に培養を始めていたら、出来上がって使えるようになるまでに命を落としてしまいます。
救命されてから後に使用しても、整容的にもそれほど優れていないので、あまり意味がありません。
では自己の皮膚移植は美しいのかというと、そんなこともありません。
移植したとは思えないような、まったく自然で周囲と見分けがつかないくらいの仕上がりがほしいのですが、現状では夢です。
まず、移植皮膚の境界の傷跡をなくすことができません。
形成外科的に縫合することで可能な限り細く目立たない瘢痕にしますが、ゼロにはできません。
また、移植片は大なり小なり色素沈着をします。
どんなに白い場所から採ってきてもコントラストを生じ、結果としてパッチ状になって目立ってしまいます。
また、分層植皮では拘縮を生じます。
突っ張って動かしづらいのです。
皮膚の厚みが足りないので、周囲の健常部の中では違和感を消せません。
解決できない問題点。
それは、キズアトの形成と拘縮、色素沈着、自己細胞培養技術、あるいは人工物の不完全性……。
難問だらけなのです。
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