縫合はやさしく。
ヘタに縫うなら、縫わないで次の日に形成外科医に診せて!
化膿してなかなか傷がふさがらず苦労して、やっと治ったと思ったら、縫い糸で虚血状態だったから皮下組織(主に脂肪組織)が壊死して減少して、皮膚が深いところと癒着して凹んで突っ張って、お決まりの変形を残してしまって。
それは、非常に残念な結果です。
また、皮膚の真皮同士が正しく合っていないまま強く縫合されていると、実際は皮膚の表皮の表面同士が接しているままですから、そこは全然くっつきません。
表面の縫合糸を抜糸したら、その時点ですでに皮膚の端っこ同士は開いています。
当然、キズアトはそれ以上に幅広くなる運命。
だめです。
ちゃんと縫わないと。
真皮縫合(中縫い)という皮膚の裏側に埋め込む逆向きの縫合を施して、真皮同士を正しく合わせて。
表面は1ミリ以下ほどの幅でゆるめに合わせるだけの縫合をして。
必要なら筋膜同士を縫い合わせ、皮下組織に欠損があればその空隙をなくすように最小限の縫合をし。
そうして適切に閉じた創は、縫合直後から水道水で洗っても問題ありません。
なにせ日本の水道水はキレイなのです。
オペ室では、昔は滅菌された水で手を洗ってから手袋をはめていましたが、いまや水道水で洗っています。
お年寄りの褥瘡も、ほんとうは一日に何回もガーゼを換えてそのたびに水道水で洗うといいのです。
けれど、そんな手間はかけられないので「サランラップで密閉療法」が行われています。
それは「頻繁に洗って高濃度ショ糖軟膏療法」の次くらいに治癒に有利な方法です。
まあ、思うのです。
外科では命に関わる手術をしています。
心臓だったり肝臓だったり、いろんな場所に出来た悪性腫瘍だったり。
病巣を取り除くのに頑張ってエネルギーを使って。
その後また同じくらいの集中力と時間を費やして「皮膚を上手に縫う」という行為は、なかなか大変なのです。
それに、形成外科医が5年も6年もかけて習得した技術を、ちょっとした心がけで出来るようになるわけでもありません。
ここからは蛇足ですが。
AIの手術ロボットとか、レーザーによる縫合(最近のトピックらしい)はどうでしょうか。
上手な医者の水準に達するでしょうか。
ヘタクソな形成外科医のレベルには、ほどなく到達すると思われます。
けれど、熟練した上手な人間を駆逐するまで、あと20年以上必要でしょう。
いや、テクノロジーを利用して人間も高度化するので、そんな日は来ないような気がします。
いや。
それとも。
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