第5話
ーー私はハァッとベッドの上で溜め息をひとつ吐いて、ジト目で隣でおろおろと涙を流す彼を睨む。
「なんであなたが泣いてるのよ?」
「だってだってさぁ、君が無事で良かったなって、本当に頑張ったなって」
「いや、頑張ったよ。びっくりするくらい痛かったよ? でもそこまであなたが泣く必要ある?」
泣いてくれるのはありがたいけど、ずっと歳上のくせにいつまでも経っても泣き虫が治らない人だなぁ。父親になるんだからしっかりして欲しい。いや、私が母親としてしっかりする必要があるんだ。
「な、なんだい? そのなにか企んでそうな目は」
「企んでるよう。しっかり教育してあげるから覚悟しといて~」
ふっふっふっと不適に笑うと彼はまたおろおろとしだし、やがて病室をノックする音に慌てて彼は素早く席を立った。
「ふぅ、しょうがないひと」
私は彼の大きな背中を見送り、外の景色を見た。
母親になった今日の天気は雨。少し残念ではあるけれど、この病室から見える景色は雨でも綺麗だからよしとしよう。あの子が大きくなったらこの景色を聞かせてあげよう。いや……もしかしたらその前にあの子はーー
コンコンと扉を叩く音に私は目を向けた。
ーーもしかして、本当に?
「お待たせ~、ボクたちのベイビーが来ましたよ~」
扉を開けてやって来たのは破顔した彼の暑苦しくも眩しい笑顔だった。
そんなわけは無いかと頭を振って私は彼の助けを借りてまだ少しだけ気だるい体を起こした。
「目はボク似のブルーだけど、顔はキミ似のキュートちゃんだよ」
「もう、感想は私が抱いた後にね」
女性看護師さんが優しく抱いた私たちの赤ちゃんを私の腕へと渡してくれる。寝息を立てる可愛らしい小さな寝顔に愛しく微笑み彼女に声を掛ける。
「はじめましてメル。また会えたね」
寝ているはずの小さなメルの手が私の指を握った。
私とメル もりくぼの小隊 @rasu-toru
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