第6話 11月12日(月) てんかんセンター 1

 日曜はとにかくこぐまを優先して過ごした。

 入院になると、彼には寂しい思いをさせるだろうと分かっていたからだ。

 具体的には紅葉狩りに行った。

 いや自分でもどうかとは思うけど、そうでもしないとこのあとの上の子が、下の子を恨んだりしないか心配だったので。

 

 あとは調べられる限り情報を調べ、旦那は入院はほぼ確実に付添い必須、長引きそうと判断し、脳波検査前にしたことは、タブレットをポチる、だった。

 いやまぁ、大事だけどもよ。ありがとよ。


 そして月曜日。


 こぐまは目の脇の怪我のために。

 ちびぐまは点頭てんかんのために。


 どっちも市民病院へ(笑)。


 形成外科でこぐまを診てもらい、ちょうど卒業と言われた。

 ちびぐまはそのまま小児科へ。

 結局、専門病院にて脳波検査が行われることになったようだった。

 おそらく入院になること、そうなった場合の治療についても簡単に教えてくださった。

 そしてこの時こぐまは若干鼻風邪。ちびぐまもややお風邪。

 先生はその様子を見て、治療のとき風邪をひいているとだめなので、これ以上うつさないよう気をつけて、とアドバイスまでくださった。つくづく、ここのお医者様はやさしい。


 一旦こぐまを園に預け、専門病院の予約時間までの間に、やってなかったこぐまの病児保育の登録に走る。

 あまり書くのもあれだが、わたしは実家と折り合いも悪くほぼ連絡をとっておらず、これを書いている現在(まもなくちびぐま2歳)、まだ彼の病気を伝えてもいない、というか会わせてもいないというかそんなレベルな上、旦那のほうも家庭はゴタゴタしていたので、頼れる相手がいなかったので、この状況はかなり綱渡りだった。ぶっちゃけると一度崩れた。あとで書くかもしれない。

 とはいえ、辛うじての受け皿として、病児保育の登録だけはすませたかったのだ。


 そして、専門病院へ。


 正直、この専門病院が家からかなり近いというのは相当ラッキーでしかなかった。

 専門病院、つまり、地域のてんかんセンターだ。

 てんかんはとにかく専門医へ、というのが鉄則のようである。

 てんかん自体は実は珍しい病気でもなんでもない。が、その治療は専門性を要する、らしい。

 そして全国でもてんかんセンターはそう多くはない。

 こんな地方に、かなりしっかりとしたてんかんセンターがあって、即座にそこにたどり着けたのは本当に運が良かったのだろう。


 専門病院につくとまずは、血液検査と尿検査、となった。

 そのタイミングで、発作が起きた。

 さすがに看護師さんたちも慣れていらっしゃる。

「あー、きたね。しんどいね。大丈夫よー」

 となだめながら、院内ピッチで先生を呼んでくださる。

 はいはーい、とすぐに先生が来た。

 小柄な女医さんだ。すぐに軽く診察しながら、うん、発作だねー、もう終わるねー、と言った。確かにそのタイミングで少しずつ落ち着いてきていた。

 直接見てもらえて、少しわたしはホッとしていた。たぶん動画より、正しく伝わる。

 それから少しして、診察室へ。

 先生は挨拶をしてくださったあと、我々親にたいして、事細かに病歴などを聞いてきた。

 大変だった。

 いや、必要なんだけども。この病気、遺伝病からのなんかとかもあるらしく、そのへんの聞き取り診察は大事らしい。

 が。

 旦那は旦那であれこれいろいろ病気もち。それも家族性のものがあったので、そのへんも説明。

 そしてわたしはというと。

 まぁ前述したとおり実家と折り合いが悪い……というか、ぶっちゃけると、実母はわたしが小4の頃、浮気相手との間に子供をこさえてしまい、そのまま家出、音信不通の生死も不明。なので、母方の家系の病気とか分かるはずもなく。

 父方は父方でふつーに折り合いが悪くよく知らんという。

 しどろもどろに分かりませんを繰り返す羽目に……。

 

 えー。

 これから実家と縁を切ろうと考えてる若人。

 そのへんの病歴と、あと自分の母子手帳はなんとか探し出して手に入れとくと良いかと思います。(ピンポイントライフハック)


 結論からいうと、わたし側はよく分からん。旦那側も直接の原因となるものもなし。遺伝病からの、というのは少なそうとのこと。


 続いて、脳波検査。


 脳波検査へ行く前に、何これバニラエッセンス? みたいな匂いのするオレンジ色の催眠鎮静薬、トリクロリールシロップを飲ませる。

 とはいえ、この時点でまだ4ヶ月終わり。

 離乳食もまだ、麦茶もまだ、口にしたことがあるのはおっぱいとミルクと、あと泣きながら飲ませられたロタワクチンのみというちびぐま。

 当然、なんじゃこりゃー!いらんわー!と泣きわめく……。


 トリクロ、ベッタベタするんですよ。砂糖水みたいな……。


 親も子も看護師さんもベッタベタになりながら、なんとか飲ませて、なんとか寝かしつけ。


 そして脳波検査。 

 脳波検査室は、スマホNGです。

 寝ているちびぐまを横にして、技師さんが手際良く頭に電極をつけていきます。白いお薬?を塗って、そこに電極つけて……していったあと、包帯でぐるぐる巻きます。

 そして眠ったままの脳波をとります。

 約40分。

 寝かせたままにするため、薄暗い部屋。

 静かに、静かに。

 付添いで、寝ているちびぐまを見る。

 スマホNGで。


 めっちゃ眠い。(真顔)


 子供がこんなときに! と思われる気もしますが、眠いもんは眠い。なんやかんや調べものしまくりで寝てないし。

 かろうじてわたしは睡魔との戦いに勝ちましたが、旦那は負けてました。しゃーない。


 脳波は寝ているときと覚醒時の両方いるので、終わり際に起こして少しして終了。

 頭につけた電極を外すんですが、これもまたベッタベタする……。

 脳波検診受けたことある方は分かると思いますが、あの白いのホント取れないですよね……。

 これから脳波検診初めて受ける方は、ベタベタ対処のタオルとか、ウエットティッシュとかそのへん用意しておくといいかもです(ピンポイントライフハック2)


 そして再度診察室へ。

 入った瞬間、旦那がうわっ、と小さく声を上げた。

「ヒプスアリスミア」

 旦那の視線の先には、ディスプレイがあった。そこに脳波が表示されていたのだ。

 我々素人には分かるはずもない脳波。

 ただ、ヒプスアリスミアと呼ばれるそれはウエスト症候群の特徴で、ぱっと見「ぐちゃぐちゃ」としかいえないのが特徴だ。

 ヒプスアリスミアの語源が、リズムのない、なのだからさもありなん。

 そして次男の脳波は、素人からしてもいやおかしいだろうそれ、といいたくなるほどぐちゃぐちゃで、そりゃあしんどいよ、頭ン中そんなことになってたらさぁ……と思えるものだった。


「ご存知ですか」


 先生が言った。

 先程の先生ともうひとり女医さんがいた。

 声をかけてくれたのは、最初の先生だ。実は少し、しまったかなー?と考えた。

 素人が調べただけのものを口にすることを嫌うお医者さんは結構いる。

 いたし。急患センターのあれ。

 でもこの先生は違った。調べて……というと、なら話は早い、とばりに言葉遣いが変わった。


「そうですね、特徴的なヒプスアリスミアです。先程のお話の中で、上手だった寝返りが下手になっているのと笑わなくなっているというのがありましたから、発達の後退と考えます。それから先程の発作、シリーズ形成されてましたし、えー、一回の発作で何シリーズくらい続きます?」


 おっといきなり変わった、と一瞬戸惑いつつ、こっちのほうがやりやすいな、と思ってしまった。

 シリーズ、とは。

 たしか、同じ繰り返しの発作のことだ。何回、というには、一度の発作で何回やるのか、ということだろう。

 回数は数えてませんが、長いと五分以上です、と伝える。分かりました、とお医者さんは頷いた。

 

「シリーズ形成の発作、ヒプスアリスミア、発達の後退。通常この三つで、この病気は確定とされます。なので、ウエスト症候群ですね」


 旦那とうなずき合いながら、わたしは少し考えていた。というか内心で怒ってた。



 ほらー! 急患センターー!!

 やっぱウエストだったじゃん!!!(怒)


 

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