第4話更年期だから
なにもかもつまらないのは、更年期のせいだとシンナーが好きだった友人は言った。
『もっともっと稼いで、あたしみたいに恵まれなかった子たちが集まって学べる学校みたいなところを作りたいんだよね』
良く言うよ・・・。
私は内心思ってしまう。
彼女は、自分の息子と娘の子育てを、ベビーシッターにさせていたのに。
どうして他人の子のためには、学校まで作ろうとするの?
こういうの、欺瞞っていうのだ。
酒を飲まない彼女と長時間話すのは、苦痛だ。
酒を飲む女は、夕暮れにコーヒーのおかわりなんか、絶対にしたくないのだ。
『あの頃、実は、義父にエッチなこと、されてたんだよね。
母親の再婚って、実はそういうリスクがあるのね。あの時は、どうしてもママに言えなくてさ・・・』
友人は三杯目のコーヒーを飲みながら涙を流しているけれど、私の心は白けきる。
どうして人はこうやって、記憶を自分の好みの方向へ書きかえるのか。
私はちゃんと覚えている。
『ほんとうのパパに抱っこされたことないから、いつも抱っこしてもらうの』
って言っていたじゃないか。
『パパができて、本当にラッキー』
エッチなことなんて、嘘じゃないだろうか。
やはり、会うのではなかった。
この子は、本当に私をイライラさせる天性の何かを持っているのだ。
もう二度と会わない、と思ったのは、
こう言われたから。
『ねぇ、恵子の夢は何?これからどうなりたいか、それを考えたら、
つまらないなんて一秒も思わないよ』
許せないと思った。
そうだ。
私は三十数年前、シンナーを吸って、踊ってるこの女が、
心底、醜い、と思ったのだった・・・。
夢なんて、元アウトローたちのつじつま合わせなんじゃないのか。
クッキーやおせんべい一枚、そして肌着まで手づくりにこだわって
良い子で生きてきた52才にはもう、
そんな力、残っていやしないんだ。
私はもう作り笑いをすることもできなかった。
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