その4~次なる仲間は
「リュミナエリさん」
「へい、なんでございましょう、姫!」
もうなんかこうなると風車の弥七か公儀隠密の気分だな。ノリノリで縦ロールの前で膝を落とし返事をする。
「帰りますよ、迎えの馬車まで荷物を運んでくださるかしら」
「よろこんで!」
サッと縦ロールの軽いが高そうな鞄を持ち、あとに続く。こんなもん、ひとに持ってもらうほどでもないくらいなのだが、やはり下っ端取り巻きに持たせているというメンツが大事なのであろう。貴族たる者、何にも先んじてメンツ第一、わかりやすいと言えばわかりやすいし御しやすい、デュフフ。
若干周りの目が冷ややかである。幇間よろしく尻尾を振って浅ましい奴め、とでも思われているのだろうか。
否、実は縦ロールの実家サクラメンテ家、由緒は正しいが現在落ち目の土俵際、あと一つ星を落としたら負け越し確定、そんな奴に媚売っても何の得にもならんだろう、というソロバン勘定的観点からの冷ややかな視線なのである。
知るかそんなもん。金髪縦ロールの美人でナイスバディでおほほキャラ、その前にはどんなマイナス要素も些末なことでしかないのだ。
俺だけが理解者となって心に付け入る、という下心が無いわけでもない。いやぶっちゃけある。童貞としてはそういうのに弱いんだよ、とか考え始めると付け入られているのは逆に俺の方かもしれない。
前を歩く愛しの君のフリフリしたおケツを拝謁しながら、うむ安産型で非常によろしい、などと堪能していると、
「主殿、アナ殿、お二人だけでは危のうございます」
などと言って貧にゅ……スレンダーな女剣士が駆け寄ってくる。
おい、せっかくのお尻堪能タイムを邪魔すんなよゴリディア。
姫さん的にはアナスタシアだと長い&親しみを込めてリディアには愛称のアナと呼ばせているんだけど、童貞的にはますますアナルを連想してしまい、エロい。まぁリディアも耳年増のムッツリだからアナル弱そうだけどな、てゆーか全体的に弱そう、てゆーか嬉々として即堕ちしそう。少しは恥じらいを持ってくれた方が嬉しいんだけど。
「やぁ、リディアがいると安心度100パーセント増しだなぁ」
「何を言っているのだ主殿、たかが教室から校門までの距離で安心もへったくれも無かろう」
「危ないっつったのお前じゃねーのかよ!」
ムカついたので不可視の“手”を使って顔面にアイアンクローを仕掛ける。俺のギフトの使い道なんてこんなものだ。
「痛っ、いたたた」
「どうしました? リディアさん」
「ひどいんですよ主殿ってばギフトを使って私にセクハラを」
「してねーよ!」
「ギフトの悪用は御法度ですよ、ましてや家臣がそのようなことをしたら、サクラメント家はどうなってしまうのか……」
「しませんて!」
信用無いのだろうか? よくよく考えると出会ってからまだ数日しか経ってないわけで、あると思う方がどうかしてるかもな。
◆◆◆
「このウスノロめ、防壁しか張れないお前なんぞ僕がいなかったら序列最下位だぞ、便所飯だぞ、そこんとこわかってんの? ねえ? ミジメな気分で一人寂しく便所飯したいの?」
「も、申し訳ございません。便所飯だけはなにとぞ勘弁を」
そんなやりとりを眺めている。
今日は魔術系クラスの授業を見に来ている。
その他クラスって暇なんだよね。系統がバラバラだから模擬戦とかしようがないし、少しでも余所を見て何か役に立ちそうな身の振り方を考えろってスタンスだから。
基本単騎での戦闘力を求められる武術系とは異なり、相性や接近戦の弱さから魔術系は何人かのグループを組んでの行動が多く、実技演習でも数人づつに別れての模擬戦になっている。
罵倒を飛ばしている男がものすごい火力を出していて、正直勝負になってない。もうちょっと組分け考えてやってもいいと思うんだけど、仲のいい人同士で~みたいなノリで決まっているのかもしれない。
常に押しているから魔法障壁を張るディフェンス要員はすることがなく、いてもいなくても関係無いような状態だ。余ってんだからくれてもいいじゃんよ。
しかしこれまた防御系か、防御系は実力を測りにくいから思わぬ掘り出し物を期待できるのだけれども、なんか守りばっかり固めるのもなぁ。
もっとこう派手に人間兵器を従えて『なぎ払え!』的なこと言ってみたい気持ちもある。
「主殿、あの者はいかがですか? いかにも隙が大きそうですよ」
おまえが言うな、という感じだが、誰でも思うことは一緒だろう。
「いや、俺も考えたけどさぁ、守りはリディアだけでも過剰なくらいなんだよね」
「いえ、多少の魔法攻撃なら剣でも対処できますが、大規模魔法となるとどうしても魔力障壁が必要となってきます」
あ、剣でも多少は対処できるのか。すげぇな人外のスキル持ちってのは。
「ええい、役に立たないなら邪魔だけはするんじゃない、後ろの方に引っ込んでろ」
見せ場が無いなりにポイントを稼ごうと必死でチョロチョロしながら障壁を張っているが、男の言う通り、後ろに下がっていたほうが無難だろう。俺だったら何もしないで後ろで見学コースだな。
とにかく、(俺の)命あっての物種、負けないことこそ最重要という方向性に従えば悪くはない選択肢だ。あとはどうやって籠絡するか、だな。
「お断りします」
放課後、校舎裏の巨大な木の下で速攻アタックしてみたものの、見事玉砕である。
「サクラメンテ家なんてもう、評議会メンバーから降格待った無し、家臣はどんどん余所にFAして存続すら危ぶまれているところじゃないですか。おまけに言いたくはないですけど、一人娘は箸にも棒にもかからない微妙ギフト。せっかくギフト持ちで生まれたのに何を好んでそんな未来のないところに行くんですか、逆に聞きますけどー」
縦ロールのギフトはかなり有名らしい。それと主家の斜陽っぷりも。
「いやまぁ、その辺は事実ではあるのだけれど……」
「わかった、私の身体が目当てなんですね?」
「は?」
またこのパターンかよ! 俺はどんだけ飢えてるような顔してんだ。
「スカウトなんていうのはついでで、実際は私に気があるんでしょ? そうでしょ? そうに決まってるわ!」
とはいえ、そういうことにしてしまうのもいいかもしれんな、とソロバンを弾き始めたところで、
「待たれよ、主殿はそんな甲斐性のある男ではない。万年童貞の魔法使いだぞ」
話をややこしくする奴が来やがった……いや、来るんじゃないかなーと薄々予想してたけど。
「あなたは……幼年学校以来万年最下位の……えーと、名前なんだっけ?」
「リディア・ブリーズホームだ。いい加減覚えろ」
「え? 二人は知り合い?」
「地元のツレではありませんが、幼年学校は同じ学区だったんで、少々」
「へぇ、じゃあちょうどいいじゃん。見知った仲なんだし」
「そんな奴と知り合いじゃありませんー。ははは、カス同士組んだって何にもなりませんよ。いいですか? 私は最強グループになんとしてでもへばりついて出世しなければいけないんです。便所飯なんて真っ平御免なんですー!」
「便所飯か……あれはあれで気持ちが落ち着くものだぞ」
すごく経験者然とした顔で頷くリディア。まあね、実際序列最下位の下っ端でパシリだもんね。それでも心が折れた気配がまるで無かったのは根っからの変態だからなのか、メンタルが強靱なのか、表面でそう取り繕っているだけなのか、その辺はわからない。
「うわ、きんもー。便所菌がうつるから近づかないでちょうだい」
なるほど、菌という概念? 科学知識? はこの世界でも存在しているようだな。って違うそうじゃない。
「ほーらほーら、菌がうつるぞ~」
「きゃー! やめて~!」
調子に乗って追いかけるリディア。なんか楽しそうではある。
◆◆◆
第一次スカウトが玉砕した翌日、またもや魔術系クラスの授業参観をしていた。基本的に7組は余所のクラスへ見学に行くのは自由というかカリキュラム上推奨されているので、授業をサボタージュしているわけではない。
出自も頭脳も能力もバラバラな連中をまとめて授業をするのはどんな天才教員でも難しいわけで、それなら少しでも余所のクラスに出向き、自分に出来そうなことを探させる方が効率的なのである。そういう大義名分なのである。素晴らしい。
スカウト候補の防御魔法使いヨミ・シュザーンライトは今日もチームのリーダー格に罵倒されていた。
どうも要領が悪いというか、やる気と焦燥感がごちゃ混ぜになって空回りしている。そもそも火力全開で常に攻め手に回っているパーティでは魔法障壁なんぞ展開する必要もなく、ぶっちゃけお荷物でしかない。
「いいぞ、もっと失望されて俺の胸に飛び込んでこい!」
「主殿、本音が口に出てますよ、やっぱりあの娘みたいな体型が好みなんですね」
「俺は表裏のない男だからな、口に出せないような本音は無い。それと断じて幼児体型が好きなわけじゃない!」
ヒョロっと身長の高い大人びたリディアとは対象的に、小学生かと見紛うほど子供っぽい。胸囲は似たようなものなので、相対的にどちらが残念かといえば女剣士の方かもしれない。
「言い切りましたね、それじゃ私の身体をどうやって弄ぼうとしているのか教えてください!」
「弄ばねぇ、っつってんだろ!」
「ははっ、またまた~、口ではそんなつれないこと言って、ほら、怒りませんから、言ってみてくださいよ」
「……そうだな、お前のような奴はむしろ放置プレイの方が効くかもしれないな」
「なるほど恐ろしい……さすがは主殿、考えがエグいですなあ……ハァハァ」
「つーかお前も段々開けっぴろげになってきたね。恥ずかしくないの?」
「放置と見せかけてからの言葉責め! エグい! エグいですよ主殿! この鬼畜! 魔王!」
ダメだ、真面目に取り合ってたらこちらまでアホになる。
「リュミナエリさん、リディアさん、こんなところで何をしているのです? わたくしのことを放っておいて二人だけなんてずるいですわ」
「アナ殿。これはですね、主殿が二人だけでスケベしようやって言うもんですからね」
「そ、そんな不純にも大胆な……」
「言ってねーし! だいたいこんな修練場の見学席なんて人目のつくところで二人だけもスケベもないだろが。つーか姫さんもそんなアホみたいな話信じないでくださいよ」
「いえ、つい願望が現実とごちゃ混ぜになってしまいまして、てへ☆」
「てへ、じゃねーよ! このポンコツ剣士が」
「ダメですよ、お友達にポンコツなんて言っちゃ」
「ですよねー」
「ねー」
うっ、ガールズトークの独特の間合い、これは男かつ童貞の俺には難易度高いわ。
「見学ですよ見学、ほら、あの恐縮しちゃってる魔法使い」
「あら小動物みたいな可愛らしい娘ね。リュミナエリさんの好みはああいうタイプなのかしら?」
アンタまで同じこと言うか!
「違いますー。俺のタイプは高貴でナイスバディな金髪縦ロールですー」
「そんな、お世辞を言わなくてもよろしいんですのよ。もっと正直にならなきゃ」
割とマジなんだけどなー、暖簾に腕押しとはこのことか。
「こ、これが放置プレイ……」
せっかくの雰囲気に余計なことを言う女剣士の頭をどついておく。
「痛っ、こういうのも私は構わんが、余所の娘にすると訴えられるかもしれないから注意するんだぞ主殿」
構わんのか……マジで許容範囲広いな。
ほんで授業後。
「ほ、本日はお日柄も良く、お初にお目にかかりますサクラメンテさん」
今日は縦ロールを連れてきたおかげか、昨日とは打って変わってしおらしい態度である。権威に超弱いタイプだなこいつは。
「あれ、主家のこと昨日ボロクソ言ってなかったっけ?」
「言ってませんー、言ったというなら証拠を出してくださいー、ただし捏造したら訴えますからね」
さすがに先進魔法文明といえどもボイスレコーダーは無い。いやものすごく金を積めばそれらしい魔道具も買えるらしいが、そこまで用意周到ではない。
いつかは言質を取りやすいように手に入れておく必要はあるかもな。
「シュザーンライトさん、ちょっとよろしいかしら」
「よ、ヨミで結構です」
「ではヨミさん、お聞きしますけど遠征演習の班はもう決まっているのかしら?」
「それは、ええ、まあ、内定を貰っていると言いますか……」
──遠征演習。
なぜメンバー集めを急いでいるかという理由のひとつがこれである。
今から一ヶ月後には騎士学院高等部新入生オリエンテーリングおよび親睦会を兼ねた遠征演習なるイベントがあるのだ。
遠足要素だけではなく、実際に任務についたときの野営の仕方や、チーム単位での連携、そして誰にも迷惑のかからないド田舎でギフトの力を遠慮なく発揮させて学生の能力を把握するというカリキュラム運営上の目的もある。
遠征演習は班単位で行動することになっている。メンバー編成もまた実習の一環で生徒の自主性に任されている。ただの放任主義かもしれないけど。
メンバーを集められなかったあるいはスカウトされなかったボッチはボッチ同士余り物でテキトーに組まされるからそれだけは避けたい。よくわからない系その他クラスの7組は毎年その傾向強いようだ。
とはいえ俺はすでに現時点で余り物チームに入れられることはない。やったぜ、これでリア充じゃん。
頑丈な御輿の姫、影で暗躍する司令塔の俺、最強(に引き上げた)の護衛と、それなりに格好のつくメンバーになりつつある。
だが、遠征演習の目的はにはモンスター狩りも含まれている。栄光の手は便利ではあるがその握力打撃力自体は俺の腕力に依存するわけで、強靱なモンスターを素手で殴ったところでカスほどのダメージも与えられないだろう。
本来ならばオフェンス要員をなんとか確保する必要がある。あるけどまぁ可愛い子が増えるのは願ったり叶ったりで、なんの問題もないじゃんよ。正直能力はどうでもいい。
で、姫さんはその遠征演習の班編成の話を持ち出してきたのである。俺ほどではないがなかなかの策士である。さすがは海千山千の貴族社会を辛うじて生き抜いていることはある。
「確か班のリーダーがメンバーの署名を集めて提出するのですわよね。もう名前をお書きになりましたか?」
「いえ、それはまだ……近いうちに頼まれる、ハズなんですけどぉ」
「いけませんね、リーダーの方には気を持たせずに早めにハッキリしていただかないと。どこにも空きがなくなってしまってからではヨミさんも困ってしまいますものね」
「まさかそんな……ウチが余り物チームだなんて……あ、ありえません!」
なるほどキープ君ならぬキープちゃん状態ってわけだ。
うむ、こういうのは直接聞いた方が早いのではないだろうか。
「おい、そこのイケメン」
「何かな?」
周りも確認せずに即返事をするとは、自覚アリアリアリアリアリーデヴェルチだな。早くサヨナラしてぇ。
「イケメンは遠征演習の班メンバー、もう決まってるのか?」
「決まっていると言えば決まっているかな。ちなみにイケメンというのは間違いじゃあないが、僕の名前はピラート・ベネディクトというのだよ」
などという指摘はスルーして話を続ける。もちろん名前なぞ覚える気もない。
「で、この女魔法使いはメンバーなのか?」
イケメンはちらっとヨミに目をやり、少し間を置いてから、
「ああ、そうだが?」
「ピラート様!」
ああ、わかってる、他人に欲しいと言われると、大した価値も感じていないのに手放したくなくなるその感情。
ヨミは瞳をうるうるさせて感激している。悔しい! イケメン強い。
「そうですか、決まっているなら仕方ありませんわね」
「姫さんがそう仰るなら」
「まあどうしてもって言うのなら? 落ち目のサクラメント家に貸してあげてもいいんですけどね。実際、こんなクズ能力有っても無くても大差無いんですから。でも、それでは貴女のプライドが許さないでしょう、ははは」
爽やかにイヤミを言って立ち去るイケメン。だがひとこと多い、つまり隙が大きい奴ということは把握した。
ちらちらと後ろを振り返りながら小動物のようについて行くヨミ。
「気に食わんな、主殿」
「……まーな」
「妙な気は起こしてはいけませんよ、ふたりとも」
グッと感情を押し殺して俺たちに釘を刺す縦ロール。気高い! そして気高いゆえに堕ちた様も見てみたい!
「承知」
「へーい」
ダメと言われると逆に意地でも手に入れたくなるというのはこちらも同じ、もう、何が何でも引き込んでやらなくちゃな。
イケメンからフツメンが寝取るとか最高やん?
「あの、イケメンからブサメンが寝取るとか最高やん? とか思ってませんか主殿」
「お前じゃあるまいし……つーかブサメン言うな、せめてフツメンにして」
なーんで思考パターンが同レベルなのかなー。これも魔王の祝福の副作用フィードバックなのか、それとも元々似通っているのかは知らん。
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