その3~女剣士ゲットだぜ?
さて、ステータス値からも自分単体の力はかなりショボいと再認識したので、手駒になりそうな人材がいないかしらん、と武術系クラスの模擬演習を見学しに来ている。
演習場は観客席を備えたすり鉢型の、元の世界で言えば小ぢんまりとした陸上競技場のような作りをしている。
うちのクラスは多分関係ないが、実戦向けギフト持ちたちを使って闘技会のようなイベントを行うことも想定しているのだろう。
噂に聞いていた通り、人間業とは思えない動きが眼前で展開している。俺のような貧弱な半端者は鼻息ひとつで半殺しにされそうな恐ろしい連中である。正直超怖えぇ。
だが、そんな人間離れした集団の中でも序列があって、今後の就職、あるいは自己顕示、またはアイデンティティにも大きく関わってくる。
プロの相撲取り相手ではそれが幕下序の口といえど一般人が逆立ちしても勝てない、とはいえプロの中では明白な序列が存在し『一段違えば虫けら同然、一枚違えば家来のごとし』みたいな感じと言ったら大袈裟だろうか。
そして相撲と同様、この超人をかき集めた中にも万年幕下、みたいな存在はいる。
俺のような素人目にはいい線行ってるように見えるけど、次第に押し負けて膝をつく、みたいなパターンを繰り返している女剣士。彼女が息切れして今にも倒れそうなのと対象的に、対戦相手は物足りなさそうに次の相手を探している。これが格の差という奴か。
そもそもあの細身に似合わぬ巨大な両手剣、得物のチョイス自体が間違っているのではなかろうか。
「あの子も半端にギフトなんか持って、逆にかわいそうよねぇ」
「そうよねぇ、かと言って余所に行ったらズル扱いだし、ここ以外に行き場は無いのよね」
「ほんとほんと、顔はいいのにねぇ、もうギフトなんか無かった方がマシだったろうに」
「おう、俺の女になれよ、どうせお前の能力じゃ半端者のままだぜ、だったら俺が守ってやるからさ、優秀な子孫を残そうじゃないか」
「貴女、わたくしの妹分にしてさしあげてもよろしくてよ、顔だけは良いのだから夜の対戦相手になってあげるわ、せいぜい良い声で鳴いて頂戴」
などと、散々な言われようである。
そして、まさに弱みに付け込むにピッタリの人材である。
わはは、ひどい奴だな俺も。まぁ、たぶん魔王だからな、それも自然な話だ。
管理者権限で閲覧不可にしてある方のギフト、魔王の祝福。その能力は配下にした者の能力を倍以上に引き上げる、つまりは強力なバフ効果だな。パーティじゃなくて配下、というのが使い勝手が悪いと同時に実に魔王らしくもある。
まあ、配下どころか友達も居なかった俺は実際に使ったことは無いのだけれども、俺の直感が告げている、こいつは使えると。自分ではなるべく働きたくもないし努力もしたくない俺にピッタリだと。
元の性格なのか、それとも自称魔王といろいろシェアした結果影響を受けてしまった結果なのかはわからん。
男の話したことが真実ならばという前提ではあるが、魔王という立場を放り投げて、能力すら譲渡して異世界へ物見遊山に行くような奴だ。あまり責任感とか初志貫徹とか友情努力勝利熱血とかいう単語とは縁遠いフリーダムな人物であることは想像に難くない。
つまりあの邂逅は偶然ではなく、なんとなく波長、いわゆるバイブスが同調したから起こった必然だったのではないかな。と思っている。
もしかしたら奴も魔王のくせに童貞だったのかも知れない。うん、奴と俺の一番の共通点はそこに違いない。
しかしだ、クハハハ、残念だったな自称魔王、お前との心の絆もこれまでだ。さよなら童貞人生、こんにちはヤリチン生。そのための第一歩はまずあの姫、縦ロールことアナスタシア・サクラメンテをこます或いはこまされるところから始まるんだ。やっぱり最初の一回は思い出深く、大事に大事に最高の体験じゃなくちゃ。
そうするためにもまず足場を固める必要がある。よっしゃ、やる気出てきたぜぇ。
序列最下位が雑務をするのは世界が違っても変わらぬことのようだ。
実習授業も終わり、誰もいない修練場の中央で、トンボがけをしている件の女生徒。明るい栗色の髪を後ろで束ねた長身痩躯、元の世界ならバレー部とかに居そうな少女だ。野暮ったい芋ジャージのような練習着がより哀愁を誘う。それと身長の割には貧相な胸部装甲が。
しかしこんな姿を見たら男子生徒どもが我先にと手伝いに来ていても良さそうなところだが誰もいない、何か手伝ってはいけない掟のようなものがあるのだろうか、体育会系特有の。
そんな暗黙のルールなど知ったことではない文化部系の俺なので、見学用ベンチを立って彼女に近づく。
「やぁやぁ、修練場の整備をひとりに押しつけるなんて、武術系クラスの連中は人情が薄いのかしらん」
「これが秩序というものだ。構わないでくれ」
顔も上げずに素っ気なく応えられても構わず続ける。
「その他クラスならこんなこともなくて、ある意味ラッキーだったかな」
「ふん、得体の知れない穀潰しの7組が気軽に話しかけるな」
ピンからキリまでうちのクラスの評価は一様な模様。だがそんなことは気にしない。ここはグイグイ押していく。
「ところでアンタ……強くなりたくないか?」
作業が止まり、ようやく顔を上げる女生徒。第一印象が肝要、満面の営業スマイルを投げかける。
「な、なんだ突然、その悪魔の誘惑のような笑みは!」
第一印象大失敗である。おかしいなぁ、天使の微笑みとも称されている(かもしれない)俺の渾身の営業スマイルが悪魔の誘惑とは。
気を取り直して、
「ここだけの話なんですけどね、僕のギフトは他人の能力を増幅させるという奴でね。今の境遇から抜け出せるかもしれませんよ?」
バレたら問題で閲覧不可とか言っておきながら速攻でバラしてるのはどうかと思うだろう。名前さえ知られなきゃセーフなのよ。
「他人の力で得る力にどんな意味があるのだ」
「他人の力て言いますけどね、あなたも誰かに剣の稽古をしてもらったのでしょう。他の奴らだってそうだ、技術ってのは多くのひとびとが積み上げてきたものを引き継いだものでしょう、ひとりで出来ることなんかタカが知れているんじゃないですかね」
「くっ……そんなことを言って上手く弱みに付け込んで私の身体をケダモノのように貪って、散々弄んで調教したあげくに、反応がつまらん飽きたとか言って遊郭に売り飛ばす気だろう! そうはさせるかっ」
「いや、話が飛躍しすぎでしょ、普段どんな本読んでるのよあんた」
「身体が目当てじゃない……だとっ!? やはりもっとお前のような扁平な顔じゃないと食指が動かぬか、すまんな」
「なんでやねん! 普通に美人だし汗ばんだ姿がエロいしエッチしたいわと思ったわ!」
「ひぃッ……やはり身体を……」
「つーか、そこから離れようよ。僕ぁねぇ、身辺警護が欲しいんですよ、こんな人外の巣に放り込まれて、助平云々以前に生きた心地しないわけですよ、戦闘力ゼロだし」
「ふむ、その他クラスというのも難儀なものだな。で、どうして序列最下位の私なんかに声をかけた」
「そりゃ弱みに付け込みやすいからに決まってるじゃん、安価で済むし」
「や、やはりそうなのか……力さえあれば、こんな男に弱みを付け込まれることもなかったのに……無念」
「だからね、あんたは望んでいた力を手に入れる、俺は利用させてもらう、ウィンウィンじゃないですか」
「ウィンウィンなのか? それって」
「今のままだと何も変わらないでしょ、それだったら魂を悪魔に売った気にでもなって心機一転はかるのもアリじゃないっすかね」
「本当に悪魔なのか……」
「違うけど」
「悪魔かどうかはこの際置いておくとして、確かにお前の言うとおりかもしれんな……少しでも可能性があるならば、この身体を好きなように弄ばれる屈辱も受け入れるべき、か……むむむ」
「あのさぁ、身体を弄ぶから離れようよ、マジで。俺なんかの下につくというプライド問題以外は特にデメリットは無いし、無体な要求とかしないってば」
「ふむ……もしかして私の身体は育ちすぎ? もっとこう、ちんまいのじゃないと勃たないとか? ……いや、個人の性的指向にケチを付けるほど狭量ではないから心配するな」
ニッコリ笑って肩をポン。
「ロリコンじゃねーよ!」
「違うのか? 隠さなくても気にしないぞ私は」
いや、わりと守備範囲の広い俺は少しその気はある。あるが不穏な噂が広がるのもイヤなので全力で否定しておく。
「で、最終確認だがどうする? 今のままの境遇に甘んじるか、一発逆転に賭けてみるか……このままで良いのだったら今後一切声はかけない、約束する」
「わかった、覚悟を決めた……この剣と身体をお前、いや主殿に捧げよう」
「身体はいいっつーの! 本気にしちゃうでしょ」
その瞬間、ぴきーんと回路が繋がった感覚。
なるほど、これが魔王の祝福が発動されたときの感覚か。他人の意志に依存するスキルだから試すこともできなかったし、初めての体験だ。
「初体験を奪われてしまった……」
「ん?」
「いや、独り言。それよりどう?」
「どうと言われても……何かしたのか?」
なるほど、回路の繋がる感覚は俺だけのようだ。この女が鈍すぎるという可能性もあるけど。
「何か変わったことは無い? ギフト名とか」
ゲームのようなステータスウインドウなどという便利なものは無く、確認するためにいちいち測定しなければならないステータス値とは異なり、ギフトの名称は所有者の頭に刷り込まれる。
「む……ギフトの名前が肉壁剣士から守護剣豪に変わっている! まさか剣豪なんて……」
「え、ちょっと待ってなにその肉壁剣士というのは」
「文字通り、肉壁として味方の盾となるギフトだが」
「それってもはやギフトとか関係ないよね? そのへんのオッサンでもいいよね? 人知を超えた肉壁ってなんなの? オッサン10人分くらいなの?」
「確かに言われてみればそうかも知れないな。ははっ、私はオッサン10人分だったのか……どうして私は必死になって訓練していたんだろうか……くっ、この耐え難い醜態、殺せ!」
なーんか無理矢理な論法でくっころ言いたいだけなんちゃうかと思わないでもない。あえてツッコまずに黙っていると、
「ちょっとちょっと主殿ぉ~、ノリ悪いですぞ。そこは『くっころ言いたいだけなんちゃうか』ぺしーん! ってするところじゃないですか」
「あ、やっぱツッコミ待ちだったのね」
「ええもう、上でも下でも前でも後ろでもオールタイムツッコミ待ちですよ私」
脳内の妖精が警鐘を鳴らす。これはからかわれているんだと、マジに受け止めちゃダメだと。
ふふん、そんじょそこらの童貞とは年季が違うからな、そんな見え透いた罠には乗らないぜ。
「と、とりあえず試してみるか……おい、そこの強そうな奴」
「あ? ワシのことか」
たまたま目に留まったいかにも強そうな、筋骨隆々モヒカン頭の男に声をかける。
この時代設定的にモヒカン刈り、つまりネイティブアメリカンモホーク族伝統の髪型ってどうなのよって気もする。アメリカ大陸に相当する異文化が発達した地域がどこかにあるのだろうか。
まぁそんなことより見た感じ強い、ムキムキだ。この女剣士の、いや俺のバフ能力がどこまでのものか試すにはもってこいだ。
「そうお前」
「ひとのことをお前呼ばわりするとは誰やお前」
「お前だってお前言ってるじゃねーか」
「んむ、確かにそうだな。で、何か用か?」
「ああ、ちょっと俺のこと半殺しにしてくれないか?」
「……あ、主殿、そういう趣味であったか」
「ちげーよ、あんたが守るんだよ」
「は?」
「は? 彼女のことを知ってて言ってるのかお前」
女剣士とモヒカンがハモる。よほどありえない提案らしい。
「またお前言いやがったな。もちろん、よく知ってて言ってる」
実はまだ名前すら知らんが。
「よく知ってる? 今日初めて話したはずなのに……以前からストーキングしていた? ふむ、それはそれでやぶさかでもないが」
「ちげーよ! つーかいちいちツッコミ入れられてたら話が進まないだろ」
「主殿は突っ込まれる方もなかなかイケるのだな、私と同じだな、ふふふ」
「同じじゃねーし、意味わかんないし!」
なんか今更ながらスカウトする人間を間違えたような気がしないでもないが、取れるものは取っておかなきゃ。多少難のある性格には目をつぶろう。魔王は懐が深いのである。
「とにかく、だ。この女剣士が守るから遠慮なく半殺しにしていいぞ」
「ふむ、まぁ、本気でやったら全殺しになってしまうから、多少手は抜かせてもらうぞ。ワシも神聖な学舎で無益な殺生はしたくないからに」
神聖というか猛獣調教施設だろうけどな。
「さあ守れ、我が剣よ」
「もちろん全力は出すが、大丈夫であろうか……その、言いたくは無いがその男は序列一桁の化け物だぞ。本来私なんか挑戦権すら無いのだぞ」
「大丈夫だって、あんたならできる。あんたを信じる俺を信じろ!」
「くさっ、何だその台詞は、はは、はははは」
「言ってみたかったんだよ!」
「あはははは、ははは」
ツボに入ったのか笑いが止まらない。いまいち読めんなぁ、この女。
「漫才の練習ならワシ、帰ってもいい?」
「いやいやいや、ごめん、帰らないで、お願いします」
「では……いざ参る」
ムキムキモヒカンがその身長に見合った痛そうな槍を構えると、あたりの空気が緊張に包まれる。完全ド素人の俺ですらヤバいと思えるほどなのだから、見る人が見れば相当なものなのであろう。
テスト相手としては申し分ない。
背中をイヤな汗が伝うがここはやせ我慢のしどころだ、女剣士を信じ、腕組みして仁王立ちする。
瞬間、頬の横を風圧が通りすぎる。
全く見えなかったがモヒカンが槍を振るい、女剣士が無事それをいなしたようだ。
ニヤリ、半信半疑が確信に変わった。魔王の祝福は使える。
「反応出来る、だと?」
彼女自身も驚いているらしい。
おほほ、さすが俺のバフ効果。正直俺ごときの目では追いきれないが、なんだかすごい勢いで攻撃してくるモヒカンの攻撃を全て受け流している。身体の細さとミスマッチであるように思われた巨大な両手剣を、全身を使った遠心力で踊るように振り回し、今は見事にハマっていた。
「ぬう、掠りもしないとは……ワシびっくり」
と、モヒカンの動きがわずかに止まった瞬間、女剣士は色気を出して攻撃に転じた。
「隙あり!」
……へにゃ。
あまりのショボさに張りつめた空気が一気に溶解する。
「ないわー、なんでそんな見事な剣捌きなのに攻撃は小学生のチャンバラ以下なの?」
「くっ……これが私の実力なのだ……この屈辱……殺せ! または好きなように身体を弄べ!」
がっくりと膝を突いてうなだれている。いやほんと、なんで負けたら即身体を弄ばれるって発想に直結するの? アホなの? 脱ぎ麻雀なの?
とまれテストは合格だ、勝てはしないが絶対に負けないというのは良い、俺好みである。
「うぬ、引き分けであるな、ワシの攻撃もまた全部防がれたわけであるし。まさかワシのギフト“一気通貫”が効かぬ相手が存在するとは! わっはっは、面白い、面白いぞ!」
この男、顔は怖いがさっぱりした性格の持ち主らしい。人外の戦略兵器の中にもこんなまともな奴がいたとは……というのは完全に俺の偏見なのだが。
「協力感謝するぜ、ワシさん」
「ワシではない、クリスティーン・カスタニェラである」
「え、ワシじゃないって、そんなひといたの?」
「いや、ワシがクリスティーン・カスタニェラそのひとである」
「ああ、名前ね、てっきりワシってのが名前だと」
「そんなわけあるかっ!」
クリスなんとか……顔に似合わねぇ可愛い名前だなおい。
んなこといったら自分もこのモンゴロイド顔でマルコ・リュミナエリは無いわな。
故に名前に関するツッコミはやめておこうと心に誓った。
そんなわけで人外相手にも通用する盾を手に入れた。まだ攻撃力が皆無なところが問題ではあるが、当面の安全は確保できたと言えよう。
とりあえず姫さんに面通ししておく。
「リュミナエリさん、誰ですのその方は……ま、まさかガ、ガールフレンド? とか?」
「いえ全然そんなんじゃありませんッ!」
そんな大声で否定しなくても……しかも即答で。
「ご、護衛を雇ったんですわ武術クラスでいい人材を見つけたもんで。はい自己紹介して」
「お初にお目にかかります主殿の主殿、不祥この私リディア・ブリーズホームが身命を賭してお護りいたします!」
あ、そういう名前だったのね。名前を聞くのすら忘れていた。
しかし誰もいない家でひとりでモソモソとパンを食ってるような名前だな。
「そ、そうですか。初めましてリディアさん。わたくし、アナスタシア・サクラメントと申しまして、そこのリュミナエリさんの主家筋の長女でございます」
「はっ! 高名なサクラメント家に御仕えできて光栄至極でございます」
「高名だなんてそんな……昔の栄光にすがっているだけの旧家なだけで」
いや、謙遜しちゃダメだろそこは。もっとおほほするところだろ。
「折角のお申し出なんですけどリュミナエリさん、護衛を雇う必要なんてあるのでしょうか? わたくし、刺客のひとりやふたり来たところで全然平気なのですが」
うん、多分大丈夫だろう、でも俺がダメなんだよぉぉぉ。
「ここは人外の集う超危険地帯、何が起こるかわかりません。油断して誘拐なんてことになったらお家の一大事です、備えるに越したことは無いでしょう。この者はあの“一気通貫”の攻撃すら跳ね返したほど、その実力は間違いありません。だよな? リディア」
「ええ、自分でも驚きましたが守るぶんにはなんとか……勝てはしませんでしたが」
「本当ですか? “一気通貫”といえばカスタニェラ家三男の持つ必殺のギフト、それを防ぐなんて……」
お? あのモヒカンも結構有名なんだな。
「ちょっとよろしいですか」
「なんざんしょ?」
姫さんに引っ張られて廊下の隅に。ああっ、顔が近いっ、なんか良い匂いするぅ。
「あのぉ、あのような方を雇うとなったらそれ相応のお給金が必要ですわよね?」
「ああ、その点に関しては問題ありません。ちょっとした取り引きで無給の配下にしましたから」
なんと言っても序列最下位だからな。ははは、買い叩けたぜ。
「まさか、不正とか……い、いかがわしいことで強要してるとかじゃありませんわよね?」
「見損なっては困りますよ、主家の顔に泥を塗るような真似をするようなことはしませんてば」
「……わかりました、信じましょう。ごめんなさいね、帝都の社交界はその……油断のならない方々が多くて」
「ご心労お察ししますわ、マジで」
実際、権力利権を巡って権謀術数渦巻くのはどこの世界でもあるのだろう。ましてや国の中枢近く、しかも追い立てられている側となりゃ慎重になるのも無理はない。
「お話はお済みでしょうか、主殿と……アナスタシア様」
リディアのもとに戻ると直立不動のまま待っていた。うちの主家ってそんなに偉いのか? 末端の末端ではまるでそういうことがわからぬ。あとで聞いておこう。
「リディアさん、そう畏まらずにわたくしのことはアナと呼んでくださいまし」
「了解しました……アナ殿」
しかしリディアは騎士然とした振舞いだよなぁ、敬礼も慣れたものでビシッと決まってる。
俺もそろそろ姫さんリュミナエリさんという呼び方から一歩進みたいものであるが、こういう時代劇的なノリも嫌いではないので焦らず関係を築くことにしよう。
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