第11話 コスプレについての二、三の考察

「昨日もこうやってベッドで見つめ合ってたよね」

 と微笑む立夏に、

「うん」と、樹も笑顔で応える。

「・・・本当に良かった。樹と友達になれて」

「私も」

「ボクね、朝起きたら学校へ行く前に稽古して、帰って来てからもず~っと稽古してるからテレビも見ないしゲームもやらないんだ」

「え!?スゴい。そんなに稽古してるの?だからあんなに強いんだ」

「うん。だけど学校ではみんなと話しが合わなくて、別にイジメられたとかはなかったんだけど、友達ができなくて・・・」

「でも、その力と技で私を助けてくれた。立夏さんは命の恩人だよ」

 そう言いながら、樹は立夏の手を‶ぎゅっ″と握った。

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい。でもそうやって考えると双葉とコスプレ解放区と唯ちゃんに感謝しなきゃね」

「え?」

「コスプレ解放区ってイベントがあって、双葉と唯ちゃんがミカヅキを推してくれたからロスタイムを見始めたけど、そうじゃなかったら見ていなかったから、もしそうなら樹とも話しが合わなかったかもしれないし」

「そっか」

「ねぇ、樹はコスプレしたことあるの?」

「え?うん、まぁ」

「え!?どんなやつ?」

 立夏は寝返りを打つように身体を起こしたかと思うと、そのまま樹の身体に覆い被さり、上から押さえ込むようにして彼女の顔を超至近距離から見つめていた。

「写真があるけど見る?」さすがに近すぎると思いながら樹がそう訊ねると、

「うん、見たい」と、立夏は屈託のない笑顔を見せていた。

「ごめん、スマホ取って」

 彼女の指が示す先を見ると、平積みにされた本の上に置かれたスマホがあった。

「うん」

 そういいながら、立夏が身体を反らすように腕を伸ばしていく。

 すると、樹の胸に重くて大きな2つの‶なにか″がし掛かってきた。

(え!?)

 不思議に思い胸元を見た彼女の目に飛び込んできたのは、そのボリュームでこちらを押しつぶすように圧し掛かる、立夏の大きな2つの胸の膨らみだった。

 たっぷり果肉の詰まった‶たわわ″なそれが、ブラからはみ出んばかりにこちらを圧し潰し、対する樹のそれが、若々しい張りと弾力でを押し返そうとする。

 その結果、膨らみの先端にある桜色の突起同士が生地越しに擦れ合うたびに、くすぐったいような、気持ちいいような、も言われぬ感触と感覚が、から背骨を伝って脳天へと駆け抜けていく。

(なに、これ?)

 初めて知る感覚に戸惑いを隠せない樹が立夏を見ると、スマホを手にした彼女と視線があった。

「えへへ、押さえ込みで一本勝ちだね」

 どうやら立夏はスマホを取ることに意識が集中していたらしく、胸のことを気にするりさえない。

 どう話し掛けていいか分からず頬を赤く染めて口ごもる樹に対し、立夏は身体をずらし、また彼女の横に寝そべっていた。

「はい」

 そう言ってスマホを差し出す。

「ありがとう」

 樹はそれを受け取ると、寝そべったまま2人の顔の上にスマホが来るようにかざし、立夏はよく画面が見えるように彼女の顔に自分の顔を‶ぴたっ″とくっつけ、その大きな2つの胸の膨らみが、樹の二の腕を挟み込むように身体を密着させていた。

「り、立夏さん、胸・・・」

「ねぇ、早く見せて」

「う、うん」

 そうせかされ画面を操作すると、額にバンダナを巻き、上は黒のタンクトップ、下はニッカズボンに登山靴姿の樹の写真があらわれた。

 腰に巻かれた工具腰袋や工具袋には調味料の瓶が並び、工具差し、工具入れには中華包丁や巨大なお玉などの調理道具がずらりとぶら下がる。

 そんな格好の樹が、笑顔で腕を組んでいた。

「へぇ~、スゴい。ねぇ、これは何てアニメのキャラクター?」

 立夏が興味津々の様子でそう訊ねながら、更に顔と胸を密着させてくる。

「え、えっとこれは、『れんごくのアルデンテ』のアルくん」

「煉獄のアルデンテ?」

「うん、アルくんて料理人見習いの男の子がいるんだけど、ある日、車にかれそうになった子猫をかばって死んじゃって」

「え~!!」

 なろう系では鉄板の設定も、そういうのに全く免疫がない立夏は尋常じゃないぐらい驚いていた。

「で、天国に行くはずが神様の手違いで地獄に堕ちちゃって」

「え~!!」

「下級の悪魔に食べられそうになるんだけど、『どうせ死ぬなら最後に料理を作らせてくれ』って作った料理が悪魔たちに絶賛されて、そうやって色んなピンチを切り抜けながら‶ある目的″のために地獄で料理人として、そして人として成長してくってアニメだよ」

「ふ~ん。だからベルトに調理道具をぶら下げてるんだ。なんか面白そう」

「面白いよ。負けると本当に食べられちゃう文字通り命懸けのグルメデスマッチとかもあるし」

「え~!!」

「しかもこれが勝ち抜き戦で、駆け引きとかの心理戦もあって、なのになのにライバルのはずのベリアルとリリスと三角関係、いや、ヘルもあやしいから四角関係になりそうな雰囲気だし」

「そうなんだ?」

「これも録画してあるから今度一緒に見よう?」

「いいの?」と、目を丸くして驚く立夏に、

「うん」と樹が笑顔で応えると、

「ありがと~」そう言いながら彼女は樹に‶ぎゅ~っ″と抱きつき、頬を‶すりすり″していた。

「り、立夏さん」

「なに?」

「いや、あの、もう1枚あるけど見る?」

「うん、見たい」

 写真がスライドし、次にあらわれたのは、やはり黒のタンクトップに、上だけ脱いだ黄色のツナギの袖を、満載の工具からライト、安全帯、ロープまで装備した工具腰袋や工具差しが付いたベルトの下で結び、手にはゴム付きの軍手、足には作業用ブーツ。

 更にはツルハシやスコップが挿し込まれたリュックまで背負う完全装備のいで立ちでヘルメットを持ちポーズをとる樹だった。

「これは?」

「これは『迷宮のメイズ』のメイくん」

「これはどんなアニメなの?」

「これは、駅地下とか地下街を掘削から請け負う設計施工会社の主任設計技師だった主人公がバナナの皮で滑って転んで死んで・・・」

「え~!!また死んじゃうの?」

「異世界でメイくんて美少年に転生するんだけど、右も左も分からず行き倒れになったところを助けてくれたのがモンスターたちだったんだ。

 でも、その見た目は怖いけど本当は優しいモンスターたちが勇者たちのパーティーに理不尽に殺されるのを見て、彼らが自給自足で安心して暮らせる理想のダンジョンをゼロから作るために奮闘するってアニメだよ」

「へ~、それも面白そう」

「うん、面白いよ。メイくんがモンスターたちとは仲良くなっていくのに、味方のはずの人族が誰も彼のやりたいことを理解してくれなくて、逆に捕まって異端審問にかけられて死刑宣告受けたり・・・」

「え~!!」

「これも見たい?」

「うん、見たい」そう言って瞳を輝かせる立夏に、

「じゃあ、これも今度見よう」と、樹も嬉しそうに応えていた。

「ありがとう。・・・ねぇ、聞いてもいい?」

「なに?」

「この衣装とかって、全部樹が一から作ったの?」

「ううん、違うよ。作ったのもあるけど、既製品で間に合うものはもらったり買ったりしてる」

「貰った?」

「うん。例えばこの2人のコスプレで使ってるベルトはシゲさんから貰ったやつだし」

「そうなんだ」

「ヘルメットとかの工事道具一式はバイトの支給品の使いまわし」

「え~!!」

「あ、もちろんアニメの設定に合わせて手直しはしてるよ。調味料の瓶とかもバイトのみんなから空になったやつを貰ったし。

 だから自分で作ったのはメイくんのツナギとアルくんのバンダナとズボン。

 スコップやツルハシは中華包丁とかはダンボールとかで作ったんだ」

「生地とかはどこで買うの?」

「生地は、・・・あ!!明日って何か予定ある?」

 樹は突然何かを思いついたように立夏に話し掛けていた。

「え!?あ、うん。まぁヒマといえばヒマだけど・・・なに?」

「よかったら一緒に出掛けない?」

「え!?」

「○○駅の前に繊維の問屋街があるでしょ。明日、あそこでイベントがあるんだ」

「イベント?」

「うん。問屋街のエリアがレイヤーに開放されるの。屋台もたくさん並ぶし、駅裏のアニメショップも臨時店を出すし、何より生地の大安売りをするから、すっごいお得な値段で買えるんだ。

 プロの裁縫の先生が衣装の作り方を教えてくれるワークショップもあるし、コスプレを生で見る良い機会だから一緒に行こう」

「う、うん」

 目を爛々と輝かせて、立て板を流れる水のように話し続ける樹の勢いに押され、立夏はそう返事するので精一杯だった。



                            〈つづく〉










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