key of heat

@sakakitouru

第1話

僕がそんな事を考えるようになったのはいつからだっただろう


一人じゃないっていう事の、嬉しさと安心と色んな毎日がずっと続けばいいと思ってた。


気が付けば、だんだんと募っていった想い。

だけど、僕はそっと見ないふりをしてたよ。

だって、独りぼっちだと思っていた真っ白な運命の、この世界に。

仲間と呼べる人たちと出会えて、凄く嬉しくて。

家族だって言ってくれたあの人の事を、いつの間にか好きになっていた事。

『家族』でありたいと願う自分と、それだけに収まってくれない気持ち。

その狭間で、彼の隣で、ずっとこのまま居られたらいいのに。


だけど、気が付いてしまった。

この世界はカオステラーの影響で歪められた世界。

調律の力で物語の筋書きが戻ってしまえば。

その間の出来事や想いや、そして誰かの運命が変わるほどの事件や慟哭、そのあふれる感情の嵐の瞬間、その時に

僕がいたこと、この想いの生まれた時が存在したことは、無かったことになってしまう


だけど例え、世界がそのことを忘れてしまったとしても。

覚えてくれる人がいるのなら、この想いは無かったことにはならないんじゃないか?


戦いが、日々激しくなっていく中で、僕はそんな風に考えて

だから。

つい……というか。

言葉を零れ落とした。


「僕。タオの事、好きなんだ」


それを伝えたのは、宝島の想区を超えて、ドン・キホーテの想区に入ったばかりの時だった。

丁度シェインとレイナが女の子同士の買い物に行くからと、商店街へ向かい。

僕とタオは置いて行かれた場所から少し離れた町中の人通りの少ない木陰で女子たちの買い物が終わるのを待っていた。

快晴のなか、まだまだ時間のかかりそうな女子たちの買い物にタオは軽くあくびをしながら、木の幹に寄りかかり座っている。

僕はその樹に寄りかかるようにして、立ち、チラリと斜め下のタオを見てその言葉を投げた。

何の前触れもなく伝えたその言葉に、一瞬タオが息をのみ。

そして、聞き間違いかを確認するかのようにこちらを見ているのが分かる。

僕といえば、タオの顔を見ることも出来ずに、なんとなくつま先で足元の草をつつくような仕草で、足先の草の葉を見ていた。

鏡なんてなくても耳元まできっと赤くなっているだろうことが分かる。

じわじわと上がる、感情と体温に、その場から逃げ出したい気持ちのまま。

チラリとタオをみれば、いきなりの僕の言葉に、驚いたかのように目を丸くしていた。

そして。

えーっと……

とかいいながら頭をガリガリとかく。

「あ、あのな、坊主。確認だけどな……」

何を言いたいのか分かった僕はすかさず

「家族としてとか、仲間としてはもちろんだけど、そうじゃなくて僕はタオが好きなんだよ!」

先制しておく。

タオは困った顔で、僕を見上げたまま

そうか。

と呟いて、ううん…とうなりながら立ち上がった。

「タオ?」

まさか立ち上がるとは思ってなかったから、僕はその動きを目で追うように。

タオの顔を、今度は見上げる形になった。


「一応さ、確認させてほしいんだが」

困ったように眉を寄せて、オリーブグリーンの瞳が、僕を見つめる

こんな、まじめな話の時なのに。

もしかしたら、そういうときだからかもしれないんだけど。

気持ちの熱量に脳がスパークしてるのか、変に冷静になってて。

タオの瞳は相変わらずきれいだなあ、なんて思いながら。

「うん」

と聞き返せば。

「あのさ、坊主が俺の事好きって言ったんだよな?」

困ったような顔のタオに、僕はそのまま頷いた。

「うん、僕。タオの事が好きなんだ」

大事なことを、ちゃんと伝えておきたくて。

「あっ!でも、タオを困らせたいとか、そういうんじゃなくて!

なんていうか……。

最近、ヴィランとの闘いもだんだん激しくなってきてるでしょう?

それで、なんていうか赤ずきんの想区とかで、僕。いろいろと考えて……

なんかさ、レイナの力で、全部物語が本来のストーリーに戻っていったとき、

僕たちの関わった人達は、僕たちがいたっていうイレギュラーを、忘れてしまうって

なんか、当たり前の事なんだけど。

一緒にかかわって、悩んで選んで、それで元に戻してるはずなのに。

その悩んでる間の事が、なかったことになってしまってて、それってなんだか……

嫌だなって……そう、思って」

整理がつかないままに気持ちが口を滑る。

「ごめん、なんかちゃんと伝えられてないよね。

えっとだから……僕がタオを好きなった気持ちを伝えないままに、なくなっちゃうのは嫌だって思ったんだ!」

そこまで言って、急に体温が急上昇する

あれ?

僕。

あれ?

これって告白だよね?!


今更ながらそんなことに気が付いて、僕は急に走り出して逃げたい気持ちになった。

思わず、時計ウサギの魂にコネクトして脱兎のごとく逃げようと、栞に手を伸ばす。

しかしその手は、僕より更に素早く動いたタオの手によって掴まれ阻まれてしまった。

「ちょとまて!言いたいことだけ言って、コネクトして逃げようなんて、許さねえぞ俺は!」

何時もより低い声が耳に飛び込む

うわああ!怒ってるよ、声が!

もうタオの顔を見ることも出来なくて両眼をつぶって肩を小さくしていたら、急にふわりとしたものに包まれる。

その暖かい感触に、驚いて目をあければ、タオが逃げようとしていた僕を、正面から抱きしめていることに気が付いた。

その状況が整理できない僕は、あわあわと腕の中で暴れ。

そして、タオは怒ったような顔のまま

「あのなあ!俺だって……!!」



「何してるんですか?タオ兄」

声のほうを見れば、買い物が終わったらしいシェインとレイナが紙袋を抱えて立っていた。

慌てて離れる、僕達。

「タオ兄、新人さんいじめちゃだめですよ?顔真っ赤で泣きそうになってるじゃないですか!」

シェインはタオに人差し指を立ててお説教をし、僕は

「もう!人が折角二人の分までお昼買ってきてあげたのに!」

おふざけ禁止!とレイナに怒られる

 「ちょっと、話してただけだよ!」

両手を広げて、何もなかった事を二人に伝えながら、タオの方を見れば。

シェインに対して、分かった分かった。

と、何が分かったのかわからないままに、そんな風になだめていて。

タオの態度がいつも通りであることに安心する。

タオが、何か言いかけてたような気もするが。

とりあえず、言いたいことは伝えたし!

僕は僕のやれることをこれからもやっていこう!

自分の胸のもやもやを吐き出せて、僕はとりあえず、すっきりすることが出来た。


もしかしたら、が存在する世界。

もしかしたら、あなたと出会えなかったかもしれない

もしかしたら、僕がいたことも、思いも記憶もなくなって消えてしまう日が来るのかもしれない


思いや記憶は見えないから、だからこそ大事で尊くて

だけど、もしかしたら、が来るより先に貴方に伝えることが出来たから

これから先の運命を切り開く、一つの鍵にすることは出来ていると思う

 

だから、ねえ。

これからも、僕は君の事を好きでいる。








 そして





 「なんで、あのタイミングで帰ってくるんだよ。お嬢もシェインも……」

 

  想いを鍵にできなかった人がここに一人


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