第2131話 前後の分は想定外

~前回までのあらすじ~


 これからの待ち時間に備え、サッとトイレを済ませた出来る大人の宇部。しかしそれが思わぬ悲劇を生む!



 さて、一時間かけて入院に関する説明やら何やらが終わりまして、お次は形成外科・皮膚科へGOです。こちらも三階にあります。この段階で、一階(スタート)→三階(総合○○科)→一階(総合受付)→三階(形成外科・皮膚科)というRPGも真っ青な移動ぶり。エレベーターを利用しているとはいえ、既にちょっと疲れてきました。ですがあとはもうこの待合室でひたすら待つだけのはず。しかも今回はベンチに空きがあります。座って待てる! よし、ゆっくりカクヨム(特にヨム)するぞー。そんなことを考えながら受付票を提出します。


 さーて、座るか、とベンチに腰を下ろしかけたその時です。


受付「宇部さん、それでは各種検査ございますので、二階の中央検査室へ移動してください」

宇部「エッ(まーた移動かよ)」

受付「尿検査、採血、それから心電図ですね。それらが終わったらまた移動してレントゲンです。すべて終わったらまたこちらに戻って来てください。こちら、院内地図です」

宇部「は、ハイ……(数分前に尿全部出し切って来たんだが…?)」


 あの時のトイレ――!!!!


 すでにツーアウトの宇部さん、ここで無事死亡です。


 旦那にアイコンタクトをすると、彼はわかってるよ、みたいな顔でふんわり微笑んでくれました。いや微笑まれても。


 廊下を歩きながら「どうしよう。出るかな」とつい弱音がこぼれます。せめて30分前に済ませたとかならまだワンチャンありますが、マジで3分前とかですから。


旦那「いや、絞り出せば案外出るって、大丈夫大丈夫!」


 経験者なのか、なぜか力強い返答。そういうものなのかしら。


 その言葉を信じて、いざ中央検査室。

 とりあえず時間稼ぎのため、先に採血と心電図です。この間、少しでも体内の水分が膀胱に集まらねぇかなと、なんとなーくその場で弾んでみたりします。なんかほら振動を与えることで、ドモホルンリンクルのアレみたいな感じで膀胱の中にポタポタ溜まっていかないかなって。


 これでほら、ここでもだいぶ待たされたりしたらイケるんじゃないかな? って思ったんですよ。とにかくこういう病院って待たされるものですから。なのにこういう時に限ってサクサク進むの何なの!!


 とにもかくにももう出すっきゃねぇ。追い込まれました。でもやるしかない。最後の一滴まで絞り出すしかないのです。どうしてこんなにもネタの方から襲い掛かって来るんだ。エッセイ職人としての宿命を感じつつ、キリリと顔を作って、旦那に「絞り出して来ます」と宣言し、いざトイレへ。


 それ専用のトイレですから、中に採取した尿を置くスペースも設けられています。そして、個室の壁には必要量がどれくらいかとか、前後の尿は入れないように、なんて説明まで貼り出されています。


 前後の尿?


 前後の尿は捨てろって何?

 こちとら一滴も無駄に出来ないんだが?!


 見れば、必要な量は25㎖のようです。いま数字で言われてもピンとこないかもですが、検尿カップの底から1cmとかでしょうか。ほんとわずかな量です。まぁこれくらいなら頑張れば出るかも! と思っていたのですが、前後の尿のことまでは想定外でした。


 体感的に、25㎖はイケる気がしました。でも、もしかしたら、30くらいならどうにかなるかもしれません。


 ですが、ということは、まず2.5㎖出して一旦止め、そこから25㎖を採取。残りの2.5㎖を出すということになります。そんなのもう職人技の域。私そんな尿職人じゃないんだけど。けれどやるしかないのです。皆さんはご存知かどうかわかりませんが、宇部さんは真面目なのです。真面目というか、融通が利かないタイプ。これをやってください、と指示を出されたら、もうそれをするっきゃねぇって考えるタイプの人間なのです。


 やるしかありません。

 それにもしかしたら、実はもう50㎖くらい溜まってる可能性だってあります。たぶんないけど。


 為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり

 やってみせ 言って聞かせて させてみせ ほめてやらねば 人は動かじ

 勝って兜の緒を締めよ


 何かよくわかりませんが、その時私の頭の中にはそんな言葉達が浮かんでいました。とにかく自分を鼓舞していたんだと思います。そんなことより集中すべきは股間なんですけど。何やってんでしょうね。


 とにもかくにも私はやりました。

 果たしてこれを本当に尿としてカウントして良いんだろうか、みたいな量を前後に出し、それでいて且つ、25㎖と思しき量を確保することが出来ました。尚、たぶんマジで30㎖くらいしか膀胱内には溜まってなかったと思います。危なかった。


 さぁ、医者せんせいに会う前にまさかの二話になりました。これがエッセイ職人の力ですね。自分でもちょっと己の才能が怖いです。

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