第2090話 贈り物はありますか?
なんか良い感じのタイトルだと思ったでしょう? 全然そんなことないから。そんなことないやつだから。
まぁ聞いてください。
基本的には日中働いている宇部さんですが、週に一日だけ遅番の日があります。20時まで働くのです。17時以降はちょっとだけ時給に上乗せされますし、まぁ一日くらいならと快諾して数年経ちます。
その日は出勤直後からなんかバタバタしていました。私自身は特に忙しくなかったのですが、やたらとサービスカウンターがわちゃわちゃしていたのです。
年金支給日(高齢者がとにかく万札を出して来るため五千円札が枯渇して悲鳴を上げる日)でもありませんし、セールは前日に終わったばかり。子育て世代に支給される券も先月末で終わっています。近くにある同業他社の棚卸しでもありません。
なーんの心当たりもありません。なーんの心当たりもないのに、何でか忙しかったのです。
ようやくなんとなく落ち着き、ハー、今日もあともう少しだな、と油断していたその時です。
サービスカウンターで何やら接客をしていた、同じ売り場担当のSさんが、台車を押しながら通りがかった私に、『🥺』みたいな顔を向けてきました。これは明らかなるSOS。流行りのアレで言うと、「トントントンツーツーツートントントン」です。
宇部「どうしました、Sさん」
Sさん「助けてください、宇部さん。あの、どうやら外国の方のようで」
宇部「oh……」
しかも見るからにアジア系です。違います、差別とかじゃなくて。ワンチャン、英語ならイケる気がしたのです。しゃべれないけど、筆談ならなんとかなるかも、と。
宇部「い、イングリッシュ、イケますか……」
イケますか、じゃないのよ。せめてそこは「Can you speak English?」って言うところなのよ。
ですが、その母子(50代くらいと30代くらいの女性)、英語は駄目らしく。日本語も単語くらいしか話せない様子。せめて何か翻訳アプリでも入れてればと思ったのですが、それもなさそう。
どうにか『Bluetoothのイヤホン』ということがわかり、売り場をご案内。所詮はホームセンターですので二種類しかありません。
「中を見せろ」
ジェスチャーでそんなことを要求してきます。まぁそれくらいはOKなのですが、開けるのはもちろん我々です。が、開けさせろ、とでも言わんばかりにグイグイ来ます。どうにか死守してこちらで開け、とりあえずその開けた方のイヤホンを買うことになりました。
問題はここからです。
「贈り物はありますか」
何かそんな感じのことを言ってきました。
贈り物? ギフト? お歳暮用のギフトは確かに並び始めました。あれか? と指差すと違うと言います。何か向こうの国特有の言い回しか? それを無理やり日本語にすると『贈り物』になるとか? 私とSさんはパニックです。
ここでやっと、自スマホにGoogle翻訳を入れていることを思い出しました。以前、ミシンの下糸巻き取り機をAmazonさんで購入した際、取説が英語と中国語しかなくてどうにもならず、それでダウンロードしたのです。サンキュー、不便極まりない下糸巻き取り機!(しかもすぐ壊れた)
これさえあれば、とアプリを起動させ、「ここに向かってしゃべって! 中国語OK!」とスマホを向けました。何やらむにゃむにゃとしゃべるお母さんの方。
果たして――!?
グー翻『贈り物はありますか?』
ヘーイ! 同じやないかーいっ!
Sさん「どうですか、宇部さん」
宇部「駄目です、結局同じです」
八方塞がりです。
結局その母子が求めているのは『贈り物』。
宇部「あっ、これ(イヤホン)をラッピングしてギフトにしたいってこと!? 行け、Google翻訳!」
母親「違う」
宇部「クソッ、もうわからん!」
すると、そのお母さん「センタクセンザイ」とか言うのです。何だ? 次は洗濯洗剤をお探しか?
が、売り場を指差しても違うと首を振るのです。仕方ないので一旦洗濯洗剤は置いといて、『贈り物』の解明に戻ります。
Sさん「そういえばさっき、『安くなるか』みたいなこと言ってました」
宇部「安く……。もしかして、『これ買ったら何か特典はあるか』みたいなこと? オマケがつくか、みたいな? これでどうだ、Google翻訳!」
母親「そうです」
宇部「やってないです。そういうのは。値下げも出来ないし、なんらかのサービスもないです」
で、結局そのイヤホンだけ買って帰ったのですが、何? 中国では当たり前のやつなの?
Sさん「てことはあの『洗濯洗剤』っていうのも、私が下手に『OK(ありますよ的な意味で)』とか言ってたら、勝手に持っていかれてた可能性あるんですかね」
ドキッとしました。
ほら、日本人、わからないとOKOK言いがちだから。
脳内ではずっと「中国語しゃべれるフォロワーさん助けて」って叫んでました。ありがとうGoogle翻訳。翻訳だけ出来てもしゃーねぇな、これ。その国の文化を知らんと。
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