第1921話 産みの苦しみ

 先日、娘がね、学校をお休みしたんです。

 することになったのです。やんごとない事情で。


 それは、日曜の夕方のことでした。

 仕事を終えた私を迎えに来てくれた旦那がですね、こう言ったわけです。


「いま娘ちゃんが、ばあちゃん家で頑張ってる」


 頑張ってる、と言われたら、何を想像しますか?

 宇部家ではもう『1つ』です。あれしかありません。


 Bです。


 娘ちゃんは私に似てしまったせいか、Bを秘めがちなのです。

 それが今回もまーた少々厄介なことになっているのです。


 どうやら、いつものように帰宅時間になり、ついでにママのお迎えに行こうか、という段になって、娘が「出そう」と言い出したため、やむなく娘を実家に残し、息子だけ連れ帰ったというわけなのでした。


 それでですよ。

 まぁ、実家で出して帰って来るだろう、と思っていたのですが、甘かった。出なかったのです。


 出なかったらどうなるか。

 腹の中のBはさらにまた硬度を増していきます。より一層強固に、そして大きくなっていくのです。実際に大きくなるのかはわかりませんが、後に出て来たブツのサイズを見ると(見たのかよ)、どう考えてもこいつは成長しているとしか思えません。


 さて、一晩明けて。


 朝の5時です。

 うんうんと唸る娘の声で目が覚めました。

 隣にいるはずの旦那がいません。どうやら彼は一足先に娘のもとに駆けつけていた模様。さすがです。ごめんな、私呑気に寝てて。


 そこからバトンタッチしまして、扉大開放のトイレにしゃがみ込み、娘のいきみを見守ります。絵的には完全に立ち会い出産です。


「娘ちゃん! 痛い時は息をフーって吐くんだよ!」


 母のアドバイスもラマーズ法です。

 ですが皆さん、こんな偉そうにアドバイスしておりますが、私がこのラマーズ法を使用したのは、帝王切開で出産した後。後陣痛やら術後の痛みを逃がした時です。


 お前これ使って産んでないやんけ! と脳内で厳しいツッコミが入ります。


 ですが、私もいつまでも立ち会ってはいられません。朝ご飯を作らなければならないのです。本当はお魚を焼こうと(ただしレンジで)したのですが、娘はBが出ないことには食べられそうもない、とのことだったので、お魚は明日に回すことにし、玉子焼きとおにぎりにしました。これなら万が一「やっぱり食べたい」となった時に、まぁ……何なら……トイレの中でも食べられるというかね。汚いって思われたかもですけど、いや、踏ん張るにも空腹だとね? かといって尻にB挟んだ状態で食卓にはつけないでしょう?


 というわけで、用意だけはしました。

 私もパパっとそれらを食べ、再びトイレで立ち会いです。もうマジで泣きながら頑張ってますし、どう考えてもこの状態で学校になんて行けません。学校にはお休みの連絡をすることにしました。心配したお姑さんも駆けつけて立ち会い、朝イチで病院に連れて行くか? などという話まで持ち上がりました。うおおおお、さぁさ皆さんお立ち会いぃぃぃぃ!!


 お姑さんは一旦帰宅し、私は色々励ましながら立ち会っていたのですが、しゃがんでる体勢が和式スタイルを想起させてアレだったのでしょう、私の方にBの波動が。


「ごめん、娘ちゃん。お母さんちょっと上のトイレ行ってくる」


 何でこういう時に限って、良い感じのBが出ちまうんだ私は。

 娘が出ねぇって苦しんでる時に何で母親の私が呑気に良い感じのB出してんだよ。よくわからない怒りが込み上げてきます。ですが、なんか、あの、子どもが熱を出したりしてる時に言いがちなあの台詞、


「代われるものなら代わってやりたい」


 これについては、ぐっとこらえました。これだけは言っちゃいけない。そう思ったのです。


 何せこの場合、代わるのはきっと、腸内のBだろうな、と思ったからです。いや、普通に嫌でしょ。Bトレードとか。そういうことじゃないじゃん。普通のBを労せず出しながら、そんなことを考えます。ごめんな娘ちゃん、お母さんって、本当にシリアス向きじゃないのかもしれない。


 格闘すること、数時間。

 娘ちゃんを苦しめていたBが排泄されました。


 それはそれは立派なブツでした。何をどう考えたってあの身体に収まっていたとは思えないサイズ感でした。自分でも毎回不思議なんですよね。えっ、尻の穴ってそこまで広がる? って。いや、まぁ広がるから出て来るんですけど。にわかには信じがたい大きさ。実は通過した時はそんなに大きくはないんだけど、トイレの水に浸かると三倍くらいに膨れ上がるんだよとか、そういう説を信じたい。


 いやもう、こんなのが詰まってたら苦しいわな。


 で、風邪とかじゃないから。

 Bが詰まってただけだから。

 そりゃあ出さえすりゃあもう元気なのよ。あとはもうどこも痛くないんだもん。


 フルスロットルで元気いっぱいな娘を見て、良かったと胸を撫で下ろすと共に、ちっくしょう、お前これ全然学校行けたじゃねぇかと思いながら過ごしました。

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