令和6年5月

第1898話 ある人生とない人生

 1900話の足音が聞こえてきましたね?

 すごいなぁ、ほんとあっという間じゃんねぇ。


 というわけで、そわそわしつつも全然1900話と関係ない話をします。


 私、先日ちょっとした決断を迫られたんですね。なんか深刻そうな感じで書きましたけど、大丈夫です。この私がこんな感じで書き始めた話で、本当にのっぴきならないようなドシリアスなことがありましたか? ないでしょう? だいたいね、私はそもそも大袈裟すぎるのです。いまはほら、こうやってエッセイとか小説とか書いてるからね? 多少盛り上げるために誇張表現はしますけど、でももともと大袈裟な人間なのです。


 だからね、もうほんと、私的には「いま人生の岐路に立ってんな」みたいなことがあったわけなんですけど、全然そんなことないから。そんな、『全然そんなことない話』をしに来ました。


 海苔がね、尽きちゃって。


 いきなり何の話だって思ったでしょう?

 お前いま人生の岐路がどうだとか言ってたじゃねぇかって思ったでしょう?

 でもごめんなさいね、海苔の話なんです。


 まぁ聞いてください。


 宇部家は基本的に『海苔』を常備してません。

 特に理由はありません。

 何となくです。

 何となく、海苔は良いかな? みたいなのがあるのです。パックとかかさばるしな、ってのが有力かもしれませんね。もしかしたら。


 ですが、そんな宇部家でも海苔を買うことはあります。


 節分です。

 宇部家の節分は恵方巻ではなく、手巻き寿司と決まっています。その時に、海苔を買うのです。手巻き寿司用のじゃなくて、あのでっかいやつ。それを四等分にして、一口サイズの手巻き寿司にするのです。いや、一口ではないか。子ども達に口を酸っぱくして言っているのです。海苔を侮るな、と。油断して一口で行ったら詰まるからな、と。具なんてはみ出したって良い、危ないから絶対に一口で食うな、と。


 脱線してしまいましたが、そう、それで、海苔がちょっと余ったのです。四等分した、私の手くらいの大きさの海苔が数枚余ったのです。


 来年に持ち越すわけにもいかないので、職場に持参するおにぎりに巻くことにしました。私のお昼ご飯は基本的におにぎりです。節約というよりはダイエットですね。ついつい菓子パンとかカップ麺になっちゃいますから。だったらいっそおにぎりよ。最近ではもち麦を混ぜたおにぎりになりました。混ぜ込みわかめのふりかけのおにぎりです。おかかが好き。


 で、やっぱり海苔があると違いますね。

 さすがに海苔一枚巻いたところで腹持ちとかその辺は変わりませんけど、風味がね。なんかちゃんとしたものを食ってる感が出ます。良いじゃん、海苔。


 そう思っておりました。

 

 けれど、いつかはなくなるのです。

 そもそもこれは手巻き寿司の残りの海苔なのです。

 残っているから使っているのです。

 

 ですが私は海苔を巻いたおにぎりの味を知ってしまったのです。

 まぁ厳密には実家にいた頃のおにぎりは常に海苔が巻かれてたんですけど。

 

 でも二十年以上のブランクがありましたから。海苔有りのおにぎりからかけ離れた生活をしてましたから、これまで。


 どうする。

 海苔、買う?


 そうです、人生の岐路はここです。

 

 海苔のある人生か、ない人生か。


 たかが海苔一枚です。わかってます。悩むほどのことじゃない。わかってます。ですが、なんかついつい深刻に考えてしまうのです。私は今後も海苔を巻いて良いのか? そんな贅沢をして良いのだろうか、と。というのも、海苔、案外高いのです。意外と高かったのです。


 困った時は旦那に相談です。


宇部「良夫さん、私いま、人生の岐路に立ってるんだけど」


 何せ大袈裟な人間ですから、普通にこう言います。すると彼は、ガタッと席を立ち「どうした!?」とやって来ました。ふーん、で流さないのがウチの良夫さんです。


宇部「節分の時に買った海苔が余ってて、もったいないからおにぎりに巻いてたんだけど、もうすぐなくなるんだよね。買うべきか、買わざるべきか、って」


 並の夫なら「馬鹿じゃねぇの」と吐き捨てるところです。ですが、そう、皆さんもご存知の通りのハズバンドです。


 眼鏡を無駄にくいくいさせながら「ほう?」と乗ってきました。


旦那「それじゃあまず、海苔のランニングコストと、それによって得られる松清子の幸せについて考えてみようか」

宇部「すげぇ。なんかデータキャラみたいなの出て来た!」


 ランニングコスト!

 どう考えても私の口から生涯飛び出さないであろう言葉です。いつ使う言葉なのか正直なところさっぱりわかりません。何せ私は馬鹿なのでね!


 その後もなんか賢そうな経済用語とかがバンバン出て来ました。旦那は大学で経済を学んできた人間です。カッコいい。ですが、残念ながら覚えきれませんでした。旦那との会話は録音しないと駄目だな。


 とにもかくにもコストがどうだとかなんだとかそんな話をし、最終的に――、


旦那「買っちゃえ!」


 という鶴の一声により、海苔の継続が決定しました。


 というだけの話でした。

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