第1880話 不備

 旦那の前職がですね、たぶんこのエッセイでもちょいちょい書いてると思うんですけど、とにかく車に乗って、お客さんの家に行き、あれやこれや手続きをしたりする感じの仕事をしてたんですね。私も同じ職場でしたけど内勤でね。


 その中でもメインともいえる業務内容が、月謝手続き。口座振替の書類を書いてもらうってやつですね。これがね、結構大変らしくて。旦那の苦労はね、内勤の私にはわからないやつなんですけど、いや、だって、書類書いてもらうだけじゃん? って思うじゃないですか。実際、書いてもらうだけではあるんですけど、例えば、その入会手続きも評価対象になってたりするんですよ。


 私達内勤の評価項目が、その月に入会を何件獲れたか、それから退会を2件以内に抑えるとか、年に三回ある講習会への動員率、そして未入金0。


 私達内勤の指導員は所詮口約束なんですよ。

 このまま入会して一緒にお勉強しましょう(中学生に勉強を教える仕事です)も、お月謝の引き落としが〇日なので、残高の確認お願いしますね、も。講習会も参加費を振り込むまでは数字として計上されませんし。


 なので、外勤さん達が手続きしてくれないと入会は一件にならないし、未入金(残高不足など)の予防についても、その手続き時に、引き落とし口座を優先度の高いやつにしてもらうように交渉する必要があるんですね。公共料金の口座を選ぶ方が多いんですけど、それだと、電気やらガスやらで持ってかれちゃう可能性があるんですよ。というわけで、出来ればお給料の口座が良いですね。そういう感じに持っていくわけです。


「〇〇君(さん)の大事なお勉強のお月謝ですから、くれぐれも残高不足等のないよう、確実に引き落としがかかる口座のご用意をお願いします。それからその口座の印鑑をお間違えないよう」


 手続きのアポを取る時にこんなような話をするわけです。

 だけど、それだけ言っても、未入金は0にならない。私もついうっかり公共料金の口座が残高不足になったりしちゃいますしね。アレ、今月意外と電気代高かったな!? みたいな。


 それでですよ。

 まぁ、お月謝開始して数ヶ月後の残高不足はもうどうしようもないんですけど、問題は銀行へ書類提出直後の不備です。


 私は結婚後は指導員ではなく事務になったんですけども、その、外勤さんが持って来た口座振替書類を銀行に発送すると、高確率で数件戻って来るんですよ。


 書類不備です。


 記入漏れについては完全にこっちに非がありますし、いくらでも防げます。その場でチェックしなかったのが悪いってことでね。これはそんなにありません。やらかすとめちゃくちゃ怒られます。


 問題はこれ。

 

 印鑑相違。


 その名の通り、印鑑が間違ってた、っていう。書類不備の99.9%がこれです。こんなのね、防ぎようがないのよ。手続き前に実際に確認しに行ってもらえたら良いんですけどね、親御さんも過信してるから。えっ、絶対これだし、って。自信満々で間違えるのよ。えっ、違うんですか? じゃあどれ? とか聞いてきますからね。いやいや俺らにわかるかよ。


 さて、時は流れて現在。

 皆さんもご存知の通り、旦那は(私も)仕事を辞め、生まれ故郷に戻ってきました。それで、家の外構関係の仕事をしています。もうすっかり口座振替がどうだとか、それ系の書類と縁遠くなったんですけど、ここへ来て、ついにあれの時期が来たのです。


 息子の修学旅行です。

 旅行代金を支払うための口座振替書類を書くことになったのです。実に長い長い前振りですね。


 で、その書類を学校から貰って来た時、旦那は、それはそれは頼もしいことを言ってきました。


旦那「この俺に限って書類不備なんてありえない。完璧な書類を作成して、バシッと決めてやる」


 たまらなくカッケェ。

 頼りになりすぎる。

 マジで痺れる。


 そしてその宣言通りに彼はバシッと決めてくれました。印鑑だって間違えようがありません。我が家にはそんなにたくさんの口座なんてそもそもないのです。完璧すぎる書類を指定の封筒に入れ、息子のランドセルにイン! よっしゃばっちり! 修学旅行、楽しみだね!


 その翌日。


先生「お父さん、こちらの書類なんですけども、まず先に銀行に出していただいてからの提出になります」


 !?


 記入漏れと印鑑相違ばかりに気を取られ、一番肝心な提出方法を間違えたっていうね。アラフォードジっ子おじさんが最高に可愛すぎる。

 

 それとびっくりしたんですけど、あと20話で1900話ですって奥さん。もう何とコラボしたらいいのかしら。

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