第1872話 もしもハンガリーさんが

 ウチの市では、月に2回、広報誌が配られます。内容としてはなんてことない、市の予算はこんな感じで使ってますよ、っていう報告だったり、市の臨時職員を募集します、〇〇お譲りしますとか、あとはドックのお知らせもあったり、図書館の開館情報、イベントの告知などなど。亡くなられた方や、その時に生まれた赤ちゃんのお名前なんかも載ってたりします。


 あと、コ□ナワクチンのお知らせが挟まってたりもしたものですから、そういうのもあってここ数年は広報誌をちゃんと読むようになりましたね。それまではドックのお知らせだけ抜き取ってポイーでした。


 で、読んでみるとですよ。稀に「おっ?」と目を引くイベントが開催されていたり、『源氏物語を原文で読みましょう』みたいな教室の先生が「この人、俺の高校の古典の先生だ!」と、旦那の恩師だったりして、色んな発見があります。


 そんなある日のこと。

 なんかその『募集』のコーナーに、『ハンガリーからの留学生を受け入れるホストファミリーを募集します』みたいなのがあったのです。一週間とか二週間くらいの短期滞在だったと思うのですが、そんな感じの。


 もちろん、誰でも受け入れられるわけではなく、色々細かい条件がありました。うっすら覚えてるのは、


・同年代の子ども(中学生とかだったはず)がいること

・毎日市役所まで送迎出来る方


 あともちろん、寝泊まり出来る部屋があるとかだったと思います。というわけで、宇部家はもちろん無理なんですけど、ちょっと想像はします。しますよね、物書きなら(偏見)。


 まずね、ハンガリーですよ、ハンガリー。私なんてハンガリーと聞いてまず思い浮かべるのは『さけるチーズ』ですからね。ほら、我々くらいの世代(アラフォー)だと、『さけるチーズ』のCMといえばブラームスの『ハンガリー舞曲第5番』ですから。このタイトルにピンとこなくとも、聞いたらわかりますから。


「あっ、『さけるチーズ』!」


 ってなりますから(断言)。


 それでですよ。

 まぁとにかくハンガリーなのです。

 なんやかんやあって、仮に宇部家でそのハンガリーの留学生を受け入れたとします。私が気になるのは『食』です。


 たぶん私のことだから、ちょっとは意識すると思うんですよ。


「ハンガリー料理とか出した方が良いのでは?」と。


 我が家とて、洋食はよく食べますけども、この『洋食』って結構曖昧というか、結局のところ、どこの国の料理なのかしら。そう思いません? なんかカタカナの料理だったら洋食なんだろうなって認識なんですけど、ナポリタンは日本発祥だったりするわけじゃないですか。でも使ってる麺はスパゲティだし、ケチャップとか使ってるし、思いっきり『洋』じゃないですか。


 しかもいま調べたら『オムライス』すらも日本発祥らしくて! 嘘だろ! あんなの『洋のもの』だろ! 『洋キャ』だろ!? 


 和食のカテゴリではないかもしれませんが、日本の料理ではあるわけです。例え、ケチャップでハートを描いてしまっても、和の心。気になって『洋食』の定義を調べてみましたが、広義では「西洋料理全般」、狭義だと「日本で独自に発展された西洋料理」とありました。そうか、じゃあナポリタンもオムライスも『洋キャ』ですわ。


 とにもかくにも、私は、そんな感じの『和食ではなさそうな料理』を作るんじゃないかな? って思うんですよ。だって納豆とか出せないでしょ。食べるかな。


 そんで、そんな感じでだましだまし(だましだましとか言うな)日々を送るわけですけど、おそらく最終日とかのタイミングでね、満を持してハンガリー料理を出すんですよ。それでその『ハンガリーさん』は故郷を思い出して涙ぐむわけですね。さんざん日本の料理に浸ってきたけれど、やはり食べたいのはこの味。遥か遠くの異国で故郷の味に出会えるとは、と。


 だって我々もそうじゃないです?


 ハンガリーにホームステイして、その土地の料理を食べていたところに、ババーンって日本食が出て来たら泣くでしょ。


 もうね、白米と味噌汁だけでも泣くよ。漬物がピクルスだったら別の意味で泣くけど。

 

 だからね、私もいっちょ「あなたが私の日本の母です」みたいに思ってもらおうっていう下心でね、ハンガリー料理を調べてみたんです。ハンガリーからの留学生なんていないのに。


 そしたら、


・グヤーシュスープ……牛肉や玉ねぎ、じゃがいも、パプリカ、スパイスを煮込んだスープ

・トルトットパプリカ……パプリカに豚ひき肉とご飯、玉ねぎやトマトソースで作った具を詰めて煮込んだ料理


 なんかパプリカの要素が多くて。

 うっ、ウチの娘ちゃんの唯一の苦手食材やないか。


 ちょっとこれ以外で何かないかしら。


・フォアグラ料理……どうやらハンガリーはフォアグラの生産量世界1位らしく、割と安価でフォアグラが手に入る模様。


 娘に我慢させてパプリカを出すか、はたまた家計に鞭打ってフォアグラを出すか。『日本の母』への道は険しい。


 まぁ、ハンガリーからの留学生なんていないんですけどね。

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