第1863話 色々あります
前話でね、バシッとキメた! と思ったらキマらなかった接客のお話を書いたじゃないですか。今日もね、宇部さんのキマるようでキマらない、ドタバタ接客(8年目)をお届けしたい。
さて、そんな前振りで。
ある日のことです。
30代くらいの男性が、「ちょっとお聞きしたいんですけども」と声をかけてきました。
お客様「ネジの頭が潰れちゃって外せなくて。どうにか出来ませんかね」
声をかけられたのはネジ釘コーナー。餅は餅屋と言いますし、ネジのことならネジ売り場にいる店員に聞けば良いと思ったのでしょう。正解です。洗剤売り場にいる店員に聞いても、最終的には私に回ってきます。すべての道はローマに通じているのです。ならば最初からネジ売り場をウロウロしている店員に聞くのが効率的です。
さぁ私の本領発揮だぞ、と思いました。
まず最初に聞くのはこれ。
宇部「ご自宅に電動のインパクトドライバーはございますか?」
インパクトドライバーに装着する、ビス抜きビットがあるのです。潰れた頭にガツッといって、逆回転で抜くのです。
お客様「持ってないです」
ちなみに、『電動の』インパクトドライバーと聞いたのには理由があります。手動のインパクトもあるからです。見た目は普通のドライバーなんですけど、お尻の方をハンマーでぶっ叩くと先端がギュルっと回るやつがあるのです。これもインパクトドライバーです。そっちのやつでも『ネジ取りインパクト』という商品があります。やることはまぁほぼほぼ電動のやつと同じです。そちらをご紹介。
お客様「実は換気扇のところのネジなので、あまり強い衝撃は与えたくなくて」
オッケー成る程。
それを先に言ってくれ。
宇部「お客様、ネジの頭は壁に埋まってるタイプですか? それとも出てますか?」
お客様「少し出てるかな? でも、ペンチとかピンセットでどうこう出来る感じではなくて」
宇部「普通のペンチではなく、もうほんと、先っちょまでガツッと掴めるやつがあります!」
何言ってんだコイツ、みたいな顔をされました。
まぁまぁ、百聞は一見にしかず、と売り場にご案内です。見本がありますので、それを見てもらえばわかるはず。
ネジザウルス、というペンチです。ペンチのカテゴリで良いのかな。とにかくまぁ見た目はペンチなんですけど、こいつ、ネジの頭もガッツリ掴めるのです。普通のペンチでもある程度やれるんですけど、コイツの掴みっぷりは段違い。掴みにくいトラスネジ(頭そのものは大きいけど、ちょっと平たいので掴むところが薄い)でも掴める!
いかがですか! と鼻息荒く実演しました。
が。
お客様「いやでも、埋まってて」
お前さっき出てる言うたやないか。
こうなりゃ、最後の手段です。別にそんな奥の手ってわけでもないんですけど、私の中で「ほんとにこれ効くのか?」と疑わしいというか。
宇部「では、あとはもうこれしか」
数歩歩いて紹介したのは、『液体工具』と書かれた商品です。成分などはまったくわかりませんが、ネジ頭に数滴垂らしてからドライバーで回すことで、摩擦力を云々とか書いてます。なんと、イギリス空軍でも使用されているとか、なんか強気な一文も添えられており、それのインパクトが強すぎて、お客様の中には『空軍のアレ』と呼ぶ方もいます。それで通じるの私だけだからな。
イギリス空軍御用達というのが事実なら、たぶんまぁすごいのでしょう。潰れてないネジなら向かうところ敵なしらしいのです。そりゃ潰れてねぇならそうだろ、とも思いましたが、転ばぬ先の杖と言いますか、下手こいて潰してしまわぬよう、これを使って一発でキメろ! ということなのでしょう。
でもまぁ、多少潰れてる程度ならやれるらしいのです。頼む、このお客様の換気扇のところのネジが『多少』レベルであってくれ! これでどうだ! これ以上はもう無いです!
そんな強い思いを乗せてご紹介。
お客様「うーん……。まぁ、ちょっとこれでやってみます」
何かいまいちな反応ではありましたが、とりあえずこれでやってみるそうです。
そんで何が申し訳ないって、いま紹介した商品、全部別々の場所にあるんですよ。目的は同じ(潰れたネジをどうにかしたい)なんですけど、ビットは電動工具売り場だし、ネジとりインパクトとネジザウルスは工具売り場のそれぞれ離れたところ、液体工具はネジ売り場です。ネジ売り場で聞かれたんだから最初から液体工具勧めりゃ良かったわね。
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