第1855話 『はなさないで』

 これまたいろんな捉え方の出来るお題でしたね。ですが、この何のひねりもないアラフォーおばさんは、完全に『離さないで』としか脳内変換出来ませんでした。Twitterにて他のフォロワーさんが、『平仮名表記だからいろんな捉え方が出来る』みたいなことを呟いているのを見て、「ほんとだ!」って気付いたっていうね。この体たらくよ。


 さて、実生活での『はなさないで』ですけども、そんな情熱的なエピソードあったかな? とお題発表からこれの投稿数日前までずいぶんと頭を悩ませております。


 ちなみに、情熱的な、と言ったのは、いまだに脳内では『離さないで』としか変換されていないからですね。もっと『はなさないで』の可能性に気づけ。可能性の芽を詰まないで。何を言ってるんだ私は。


 ただまぁやっぱり浮かんできたのは、アレですね。


 自転車の練習。


子「お父さん離さないでね! ちゃんと後ろ持ってる!?」

父「持ってる持ってる(持ってる)」

子「ほんと!? ほんとに!?」

父「ほんとだよ、ちゃんと持ってるよ(持ってない)」

子「ほんと?!(チラッ 持ってないじゃん!(怒」

父「あっ、こら! 前見て、前!!」

子「ワァァァァァ!!!!(ドガガガガガガ」


 これですよ、これ。

 父と子の心温まるやつ。その当時はめっちゃ恨まれるけど、後に何らかの回想シーンでほっこりエピとして語られるやつ。


 私ね、これ、ない。


 そもそも私が自転車に乗れるようになったのは小四。周りの友人達はとっくの昔に補助輪無しの自転車を乗り回してブイブイ言わせておりました。ですが、私は完全徒歩。まぁ、その当時すらもそこまでアクティブな友人はいなかったというか、そもそも小さい町ですから、自転車を乗らねば行けないようなところがないのです。


 大人になったいまは、遠い近いに関わらず自転車に乗るのですが(荷物が多いから)、子ども時代はあくまでも移動手段。近いならわざわざ車庫から自転車を出すよりも、歩いた方が早いのです。松清家の車庫がちょっと特殊で、出すのがめんどかったのもありますが。


 とにもかくにも、小四なのです。

 松清ファーザーは松清マザーよりも七つも上で既にいい年でした。且つ、運動神経はほぼ0(つまり私はコッチに似た)。その上、基本的に仕事がめちゃくちゃ忙しかったので、自転車の練習に付き合ってくれるわけもないのです。


 自分でやるしかない。

 本当はどこか広いところで練習したかったのですが、さすがに小四にもなってまだ乗れないのを誰かに見られたら恥ずかしい。仕方なく、自宅の駐車スペースで練習しました。子ども用の自転車で何とかぐるぐる回れるくらいの広さです。檻の中のライオンか? ってくらいにぐるぐると回っていました。そのうちバターになんぞ。


 正直、こんなことで本当に乗れるようになるのだろうか。経験者の話によると、もういっそ急な坂道でやった方が良いとか、何度も転んでやっと乗れるようになるとか、そういうことらしいのです。それなのに、私はただただ自宅の前でぐるぐる回るだけ。


 が。


 これで良いんか、大丈夫なんか、と思いながら、ただひたすらぐるぐる回っておりますと。


 乗れるようになったのです。

 何か気付けば自分で漕いでいたのです。

 確かにペダルに足は乗せていましたけども、ちょいちょいバランスを崩しては地面に足をつけていたのです。


 そんなことを繰り返しておりましたらば、気付けば足をペダルに乗せたまま、ぐるぐると回っていたのです。


 あっ、なんか乗れた。

 えっ? 乗れたんだが?

 転ばずに乗れるようになったんだが?


 何か自分でもよくわからないうちに乗れるようになったのです。なので、父と子の「離さないでね!」「大丈夫、ちゃんと掴んでるよ!」という心温まるアレはないのです。


 で、時は流れて現在。


 宇部夫妻は冬道を歩く際には、がっちりと手を繋ぎます。理由は、片方が足を滑らせた際に、もう片方が踏ん張って耐えるため。これを宇部家では『一蓮托生モード』と呼んでいます。多少ツルッとなったりすると「良夫さぁぁぁぁん!」「松清子ぉぉぉぉ!」などと、もちろんTPOを弁えたボリュームでの演技が始まったりもします。ええ、私のKAC(『はなさないで』回)を読んでくださった方はピンと来たのではないでしょうか。そうです、あの二人のやりとりです。モデルは我々です。


 安心してください、店内ではやりません。屋外です。

 そういう問題じゃねぇか。

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