第1843話 本日は地獄なり(予定)

 皆さん行きつけのお店ってあります? まぁ、ありますよね。そりゃそうか。いきなり変なこと聞いちゃったな。ほんとすみません。


 まぁこの場合の『行きつけのお店』っていうのは、こじゃれたバーとか、赤ちょうちんの居酒屋とか、新作が出る度に買いに行く服屋さんとか、そういうのではないです。あの、ほんともう生活に密着してるやつです。スーパーとか、ドラッグストアとか、そういうやつです。


 それでですよ。

 

 ある遅番の日のことです。

 動画を垂れ流しながら呑気にエアロバイクをキコキコしておりますと、仕事に行った旦那からLINEが来たのです。おやつの時間のようです。旦那の仕事は肉体労働ですので、お昼休憩の他にも10時と15時に休憩があったりします。休憩しないと死んでしまうから。


 そのLINEの内容なんですけど。


『〇〇(店名)、今日休みだって』


 何だって?!


 恐らく棚卸でしょう。事実上の死刑宣告です。


 どういうことかと言いますと、その『〇〇(店名)』、いわゆる同業他社なのです。同業他社は他にもあるんですけど、ウチの店のそこそこ近くにあるお店なのです。つまりは、その店を行きつけにしているお客さんがこっちに流れて来るのです。


 お客さんが増えて嬉しいだろって?


 あのですね、お客さんが増えて喜ぶのは正社員です。正社員というか、たぶん店長とかその辺です。何せ、お客さんが増えたからといって、我々のお給料には一切反映されないのです。数年前までは一年の売上に応じて、我々パートにもちょっとしたボーナス的なものが支給されたのですが、なくなったのです。なくなったというか、一律いくら、みたいな感じになって、それがもう「いまどき高校生の小遣いでもそりゃあねぇだろ」って額になったのです。やってらんねぇ。


 だから、もうはっきり言っちゃいますと、混めば混むほど割に合わねぇよ、なのです。


 しかも。

 しかもですよ。

 その流れてくるお客さんって、当たり前ですけど、


「本当は○○に行くつもりだったけど、お休みだったからこっちに来た」


 なんですよね。

 だから、その○○で買うつもりだった商品を探しに来るわけです。これがね? 大手メーカーのワイパーのシートとか、洗濯洗剤とかなら良いんですよ。それならウチにもあります。問題は、その○○のPB(プライベートブランド)商品。空袋とか持ってきてくれますからね。「これどこ?」って。空袋を持ってくること自体はものすごく助かります。バーコード部分が残ってればなお最高です。でも。でもですよ。思いっきり、その店のロゴが入ってたりするんですよね。ねぇよ、さすがにそれは。KAOとかP&Gならまだしもさぁ。気付こう?


 でもまだそれも可愛い方です。ウチのPB商品を勧めるだけですから。洗剤は香りの好みもあるでしょうから勧めにくいですけど、ワイパーのシートとかペットシーツとかなら全然勧められますから。


 問題は、私の管轄縄張り、資材館です。

 ここの商品をお求めになるということは、高確率で職人さんです。もうこれは経験に基づく偏見なんですけど、職人さんは、癖強の方が多いです。類似品をご提案するのですが、こだわりが強かったり、本当にそれじゃないと駄目だったりするのです。そんでたいてい「△△(ウチの店)は駄目だな。やっぱ○○じゃないと!」と言って帰っていくのです。


 職人さんとまではいかずとも、困るのが塗料。

 ペンキが足りなくなっちゃってさ、買いに行ったら○○お休みで、この色なんだけど、みたいな感じで写真を見せて来るお客様も多いです。まだ黒ならギリ何とかなったかもしれません。ですが茶色系は鬼門。ダークブラウン、チョコレート、こげ茶など、茶色でも色々種類があるのです。しかもメーカーによって微妙に色の差はありますし、何なら同じメーカーでもシリーズが違うやつだと中に入っているなんやらかんやらの関係で微妙に違ったりします! あっ、ちなみに白も油断出来ません。マジですんげぇ種類あるから! 白って200色あんねんで!


 でもいま塗りたい! そりゃそうです。だっていま塗ってるんだから! 塗ってる途中でご来店してるから!


 とりあえずそこまで説明して、自己責任でお買い上げいただきます。あとはもう知らん。クレームは今日棚卸で店を閉めてる○○に言ってくれ!

 

 あと1時間くらいしたら出勤なんですけど、早番の人からかけられる言葉はもう想像がつきます。


「今日○○休みです。資材館の方、地獄ですよ」

「助かった。宇部さん来た。あとは頼みます」


 毎回こうです。

 何せ資材館を担当してるパート、私くらいしかいないから。

 地獄確定です。


 行ってきます。

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