第1836話 覗き見妖怪
なんかね、ウチの職場、年に一度、還元されるやつがあって。
いきなりわけわからんこと言い出しだぞこのアラフォー。そう思われたかもしれませんが、まぁ聞いてください。一応フェイクを入れねばならんのかな? と中途半端に配慮した結果、フェイクの仕方が雑すぎたのです。
なんか、毎月のお給料から、労組的な部署の何らかのアレが引かれているんですよ。毎月1000円とかだったかな。もしもの時の慶弔見舞金とかに使われるとかなんとかかんとか。
ぶっちゃけ、頭の弱い宇部さんにはよくわからないのですが、何からの条件に当てはまっているパートは絶対に加入しなきゃいけないし、加入したら支払わなければいけないんですよ。まぁ、良いんですけど。
で、それが年に一度、還元されるんですね。年(推定)12000円吸い上げといて、還元されるのは3000円なんですけど。何このカラクリ。
使い方は色々制限があって、現ナマでぽんと3000円もらえるわけではなくて、例えばパート数人でお食事に行って、1人3000円以上飲み食いしたら、その3000円を補填します、とか。クリスマス時期なら3000円のホールケーキだったりとか。とにかく、現金(もちろん電子マネーも)支給は駄目。商品券も駄目。同じ使用目的の人、◯人以上集めて申請しないと駄目。
まぁいいです。
なんやかんやあって、ちょっといいご飯屋さんの2000円くらいするお弁当と、お菓子屋さんの1000円の詰め合わせになりました。下手に飲み会とかになっても困るので、もう全然これでいいよ。
で、出勤日のお昼に食べても良し、休みの日に取りに来ても良し、って感じなんですが、私はお昼の用意をするのが面倒なので、土曜の休憩中に食べることにしまして。木曜はお休みで、「明日は〇〇のお弁当と〇〇のお菓子かぁ」となんて考えながら金曜に出勤しますと。
「――それで、Aさん、色んな人に何色だったか聞いて回ってて」
「こっわ。Aさんに聞かれたら絶対に見せないとじゃないですか。それで、白いやつなら強制交換ですよね」
「そりゃそうでしょ」
こんなような会話が聞こえてきて。
何だ何だ? と思いつつ、まぁ盗み聞きというか、話をしている人達も別にヒソヒソ声でもなかったですし、何なら「何の話ですか?」って割って入ってもたぶん大丈夫そうな雰囲気だったんですが、その『Aさん』というのが、例のお局さんだったので、触らぬ神に祟りなしと思って、なんとなーく聞くだけ聞いてスルー。
どうやら、そのお菓子の詰め合わせの中に味が数種類あるやつが入っているらしく、その味は完全にランダムのようで、お局さんは白いやつがお気に入りのよう。だけれども、自分のやつには白いのが入ってなかったので、それが入っている人を探していたらしく。
まぁ、お局さんらしいな、なんてその時は思って。それだけ好きなんだな、もし万が一私のやつにそれが入ってて、「宇部さん何色だった? 白いやつなら交換してほしいんだけど」とか言われたらまぁ交換しても良いかな? くらいに思ってたんですけど。
その日のお昼。
私のお弁当は翌日なので、他の人のお弁当とお菓子が渡されるのを横目におにぎりを頬張っておりますと。
「そういえば昨日、Aさんが、お菓子の箱の中身、全部覗いてて」
新情報です。
お弁当を取りに来たパートの先輩Bさんが、そんなことを言い出しました。テーブルの上には、その日に受け取る人達の分のお弁当とお菓子が並べられています。お菓子の箱は、あの、ケーキ用の箱ってわかります? あの、持ち手があって、サイドの山みたいなやつに引っ掛けて留めるというか。そんな感じの。
一応、賞味期限の印字されたシールで封がされていますが、そのサイドのところを外せば、まぁ覗けなくもないんですよ。そこからその日のお菓子を全部覗いてたらしくて。
えっ、こわ。
朝の段階では、いろんな人にお菓子の色を聞いて回って交渉している、っていう、それくらいの話だったのです。そんなにもあのお菓子好きだったんだな、可愛いところ(?)あるじゃない、くらいの認識だったんですよ。まぁ、目をつけられたら怖いですけど、それくらいで機嫌が良くなるなら、まぁ良いか、くらいの気持ちだったんですよ。
ところが、まだ本人に渡してもいないお菓子の中身を覗き見しているとなれば話は別です。
そうまでして……?
こんな狭いコミュニティですし、噂なんてあっという間に広まるだろうに、何でそんなこと出来ちゃうのかな、ってちょっと恐ろしかったですね。何らかの妖怪かな、って。
こんな話で2月終了でございます!
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