第1446話 期待の新人

 言うほど新人ではないのですが。


 職場にですね、レジ専門で入ったお若い方がいるのです。といっても、ウチの職場も高齢化が進みまくってますから、アラフォーの私でさえまだ若い方のカテゴリです。

 

 が、彼女は30代。

 もうバリバリです。

 何がバリバリって、脳ですよ、脳! 脳が全然我々よりも若いんですよぉ!


 さて、そんな新人さん(もう一年近くいるはずなので新人でもないんだけど)です。ここではとりあえず新田あらたさん(仮名)いうことにします。


 この新田さん、とにかく一生懸命。宇部さんは一生懸命な人が好きです。一生懸命且つ、あまりグイグイと来ない人が好きです。勤務数日とかで「おー、宇部さん、ちーっす」みたいな感じで来られると、宇部さんは陰キャのビビリ野郎なのでもう駄目です。萎縮しちゃって駄目です。


 その点、この新田さんは大丈夫。何だかいつでも真剣フェイスで、「宇部さん! お時間よろしいでしょうか!」みたいな感じなのです。宇部さんはだいたいいつでもお時間は大丈夫だよ。何でも聞いてよ。自分の持ち場以外何にもわからないけど。


 そんな新田さん、一生懸命で真面目であるが故に、ちょっと面白いのです。この「狙ってない面白さ」みたいなのが宇部さんは大好きです。


 ある日のことです。

 いよいよ我が職場にも電子マネーの波がやって来ました。それに伴ってレジもガラッと変わりました。こうなりますと、もうレジに関しては全員が新人です。売り場担当よりも当然レジ専門の人の方が触れる時間が長いので、社歴の差がどれだけあろうとも、レジさんの方が新レジに関してはプロです。


 私もおっかなびっくりでレジに入ります。電子マネーが来ませんように来ませんようにと祈りながらのサブレジ(呼ばれたら入るやつ)です。


 お客さんがいなくなり、どれ、サブレジはお役御免かな、と抜けようとすると、メインレジに入っていた新田さんが、こちらを向いて「宇部さん! ちょっとお聞きしてもよろしいでしょうか!」と聞いて来るのです。


宇部「大丈夫だけど、もう新しいレジだし、どう考えても新田さんの方が先輩だよ。私、何にも教えられないと思うけど」

新田さん「いえ、あの、これなんですけど」


 そう言いながら見せて来たのは、レシートです。もちろんお客様のではなく、厳密には『ジャーナル』と呼ばれる、内容としてはお客様にお渡しするやつと同じなんだけど、店側で色々する時に使う方です。


新田さん「この部分が何かものすごく長いんです」

宇部「どういうこと?」


 ちょっと皆さんレシートを思い出してほしいんですけど。可能であればお手持ちの適当なレシートを見ていただきたいんですけど、大抵、一番上に店名があるわけじゃないですか。それで、その下にそのお店の電話番号、そんで、その下から商品の情報かな。とにかくそんな感じだと思うんですよ。何かメッセージが入るタイプもあると思うんですが。


 その、店名と電話番号の間がなぜかやたらと空白がある、と。


 通常が、



ホームセンターAKITA(仮名)

TEL ××××-××-××××



 だとすると、新田さんが見せてきたのは、



ホームセンターAKITA(仮名)


TEL ××××-××-××××



 これくらいあいていました。

 

 しかも、新田さんの話では、これくらいは序の口で、お客様に渡したレシートの中にはこれの倍以上あいていたパターンもあったというのです。


 確かに、これの倍以上あいているとするとおかしいです。考えられるのは、本来印字されているべき部分が抜けているとかでしょうか。


宇部「例えば、ウチの電話番号とか抜けてたりとか、そういうのはあった?」

新田さん「いえ! そんなことはありませんでした! お客様と一緒に確認したんです、あまりにも長いから」

宇部「(すげぇ、確認したんだ……)じゃあ、気にしなくて良いんじゃないかな。私達にはたぶんどうすることも出来ないと思うよ」


 そう返しました。

 すると、


新田さん「私! あいてるところに何か書けば良いですかね?!」

宇部「――ぐふぅっ?! か、書く?! 何を!?」


 何を書くつもりなんだ新田さん!

 あいてるスペースに謝罪文でも書くつもりか?!

 やめて、宇部さんは笑いの沸点が低い人だから!


新田「それは……考えてないですけど……」


 考えてないんかーいっ!

 特に考えてないけど、あいてるし、書かないと! って思っちゃったんでしょうね、一生懸命な人だから。何だその使命感。


 他にも新田さんは、「(レジは自動ドアの近くなので寒い)新田さん、首とか手首とか足首とか、とにかく『首』ってつくところを温めるといいよ」という先輩(私ではない)からのアドバイスに対し、「乳首もですか?!」と大真面目な顔で返すというファインプレーもあり、最近ますます目が離せません。咄嗟にそう返せるってすげぇな。

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