第1442話 美知子さん(仮名)

 先日、ちょこっと名前だけ登場した『美知子さん(仮名)』の話です。その時特に詳しく触れてなかったなぁって。一応ですね、どなたか反応してくださったら書こうかな? って思ってはいたんですよ。


「えっ!? 宇部夫妻にどんな修羅場が!?」みたいな。


 でも、さらっとスルーされる可能性もあるわけじゃないですか。触れたらまずいのかな? みたいなね。大人のアレで。だから少し様子を見ようかなって思ったんですけど、いかんせんネタがなくてですね。ほら、いま私、書くのに忙しいから。慢性的に書くので忙しい人ですから(多少盛りました)。なので、もう書いちゃえって。ネタらしきものがあるうちに書いちゃえって。


 ここでぐだぐたやってることからもおわかりかと思いますが、まぁ、大したことのない話ですけど、どうかお付き合いください。


 みなさんもある程度はご存知かと思いますけど、私は旦那が大好き。例え、傍から見れば、ふつーのちょいメタボ気味のおじさんだとしても、私にとっては、レオナルド・ディカプリオだろうがジョニー・デップだろうが、指先一つでダウンさせられるくらいのスーパーダーリンです。


 隙あらば背中に張り付いて匂いを嗅ぐ私ですし、旦那も旦那で、昭和の男ですから、いまどきそんなことする人いるかな? って思うんですけど、トレンディ俳優みたいな仕草で投げキッスを放ってきます。ちなみに、投げキッスに関して宇部家では、大気中に放たれたその『キッス部分』を吸い込むのが正しい受け止め方とされています。チュッと来たら、スゥッ、です。それはどうでもいい。


 そんな自他共に認める馬鹿夫婦、いやさ、馬鹿みたいに仲良しな夫婦(結婚12年)が我々です。


 さて、ある日のこと。と言ってもいまから数年前です。旦那のスマホが鳴りました。折り畳み携帯の時代なら、畳んでいるのがデフォですし、通知を知らせる窓もまぁまぁ小さいので、誰からの着信か、って見えにくかったりするものですけど、スマホはある意味見放題なんですよね。ロックとかしてれば違うのかな? よくわかりません。とにかく、ババーンと表示されていたのです。


『美知子さん(仮名)』と。


 山田美知子(仮名)とかではありません。『美知子さん(仮名)』なのです。もちろん、(仮名)の部分はありませんけど。


 下の名前だけで登録……だと……?


 名字がないだけで醸し出される距離の近さ。これが『美知子先生(仮名)』なら違うのです。保育園とかだと下の名前+先生がデフォでしたし、何なら小学校でもそうです。


 通話を終えた旦那が戻って来るなり、私は問い詰めました。これはもうあれですから、妻ですから。その権利はあるはずですから。一度言ってみたかったというのもあります。


宇部「誰よ、美知子さん(仮名)って!」


 気が高ぶって、若干泣いていたかもしれません。涙腺がもうガタガタなのでね。


 すると旦那は焦るでもなく、怒るでもなく、あー、みたいな気の抜けた声を発して言うのです。


旦那「お客さんだよ。父夫さん(旦那のお父さん。一緒に仕事をしてて、たまに名前で呼んでる。仮名)の時からのお客さん」

宇部「おっ、お客さん!? だとしても、なんでそんな『美知子さん(仮名)』で登録してるの!? 名字! 名字は!」


 カムフラージュなんじゃないか、と思ったわけですね。お客さんとか言っといて、ほんとはこっそり密会とかとかとかとか! もうパニックです。


旦那「名字……そういやわかんないなぁ。とりあえずおばあちゃんだよ。ちょっと母美さん(旦那のお母さん。たまに名前で呼ぶ。仮名)に聞いてみる」


 そう言って、その場ですぐお姑さん(母美さん)にTEL。


旦那「あーもしもし? 俺俺。あのさ、『美知子さん(仮名)』いるじゃん。そうそう。あの人ってさ、名字なんていうの? ――え? お、おお、わかった」


 お姑さんもびっくりしたでしょう。息子から電話がかかってきたと思えば、いきなりお客さんの名字を聞いてくるわけですから。新手のオレオレ詐欺かよ。


旦那「なんかね、母美さんもわかんないんだって。とりあえずみんな『美知子さん(仮名)』って呼んでるから、いいやって」

宇部「母美さんすら知らないとかある?!」


 お姑さん、直接仕事に関わっているわけではないんですけど、集金とか、電話応対とかしますし、地域密着の仕事なので、お客さんが知り合いだったり、なんてこともあります。しかも、お舅さんがバリバリの時代からのお客さんです。常連さんです。


 なのにいまだに名字がわからない!


 とにかく美知子さん(仮名)は心配するような人ではありませんでした。とにかく名字の存在しない人として認識されています。

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