第1391話 欲しいのはそれじゃない

 12月が始まって、あっという間に11日ですって。カクヨムコンも盛り上がってますかね、ちょっとよくわかりませんが。自作よ、埋もれていないか? 悪いがここから私に出来ることといえば、Twitterで細々と宣伝するだけなんだ(それも忘れがち)。あとは自力でのし上がってくれ。


 それでですよ、この時期になりますと、職場の休憩室に出現するものがあります。


 来年のカレンダーです。

 御実家で何かお店をやっているパートさんが持ってきたりですとか、あとは仕入れ先のメーカーさんからもらったりと、色々です。テーブルの上に『ご自由にどうぞ』形式で置かれていて、気付けばなくなっているという。人気なのは書き込みスペースが大きいやつですね。社名くらいしか書いてない、シンプルなやつ。だけど、お部屋に飾りたいのは、おしゃれなやつですよね。車屋さんのやつなんかはおしゃれですよ。自社製品じゃねぇのかい! みたいな風景のやつだったりして。


 それでですよ、私が知らなかっただけかもなんですが、ここ数年その存在を知って、私と、検収担当の先輩をざわつかせているカレンダーがあるんですよ。


 それが、マキタのカレンダーです。


 マキタ、わかります?

 総合電動工具メーカーです。

 この業界では日本で一番だったと記憶しています。工具担当である私も大好きなメーカーです。


 京セラ(私の中ではまだRYOBI)やHiKOKIハイコーキ(昔の日立工機)よりも好きですね。性能がどうとかそういうのはぶっちゃけわからないんですけど、ビジュアルが良い。これはね、個人のアレなので、もう全然異論あって良いやつなんですけど、マキタの工具は無骨系のイケメンだと思うんですよ。まぁ、色のイメージが大きいんですけど、ちょっと口数の少ないクールな感じでね。黙々と仕事をするタイプですね。だけど、意外とサービス精神があるというかね、ささっと先回りして助けてくれるっていうか、こっそり缶コーヒーを差し入れてくれるっていうか。


 これは完全にあれですね、マキタさんが事前連絡もなくビット(ネジ締めする時につける先端部)をオマケでつけたりするからですね。そういうサービスをいきなりやるんですよ。おい、聞いてねぇぞ、キャンペーンか? 普通に売って良いのか? 


 もうマジで私の勝手なイメージで書きましたけど、とにかくマキタさんが大好きでですね、そんな話を検収の先輩(荷物を受け取って検品したりしてくれる人)に話していたら、


先輩「宇部さん、マキタさんから良いものもらったよ。いる?」


 そんなことを言って、くるくると丸められた筒状のものを見せてくれたのです。もうおわかりですね、カレンダーです。


 マキタさんのカレンダー!? もしかして工具の写真とかババーンと載ってるのかな? だとしたら欲しいかも!


 そう思って、ワクワクしながら広げてみました。


 すると――、


 確かに、確かにイメージしていた通りに、上部にババーンと写真が載ってるタイプのカレンダーでした。書き込みスペースはちょっと小さいですが、この手のカレンダーはむしろお部屋のインテリアみたいなものですから、むしろ『〇月〇日歯医者16:00』なんてものはない方がいいのです。ええ、もうひたすら日付をチェックするだけ。


 しかし、問題は、その写真です。

 工具じゃなかったのです。


 マキタの社屋でした。

 なんていうの、○○営業所、みたいな。


 えっ、何で?!

 先輩も困惑です。

 ノリの良い、明るい先輩ですので、「社屋かよ!」くらいの威勢の良い突っ込みも入りました。現実世界ではまぁまぁ控えめな宇部さんも「社屋じゃねぇか!」と突っ込みました。


 違う。

 そうじゃない。

 我々がマキタさんに求めているのは、社屋写真集じゃねぇんだ。あの恰好良い工具の方なんだ。私は仕事の合間にマキタさんのカタログを眺めてうっとりしたりしている人間なんだ。欲しいのはそれじゃないんだ。


 いやむしろ社屋を撮るより自社製品撮る方が楽じゃない? だってわざわざ足運んでるんでしょ? それとも何? まさかそこの社員さんが適当に撮ったやつ使ってるの!? それはないでしょうよ、マキタさん!


 とりあえず、丁重にお断りしました。

 そのカレンダーは検収室に貼られています。

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