第1242話 本物のアレ

 これは先にTwitterで騒いだやつなんですけど。


 数ヶ月前にですね、某牛丼チェーン店が閉店したんですよ。少々遠いところにあったので、そう頻繁に行ってなかったものですから、何気なく食べに行って「えっ、ここ来週閉店なの!?」と知り、それはそれはショックを受けたものです。


 が、それから数ヶ月前後、彼は、場所を変えてオープンしたのです。移転!? いやそんなことは一言も書いてなかったが!? どういうこと!?


 とにもかくにも再び我が市に某牛丼チェーン店が帰って来ました。しかも少し近くなりました。これならテイクアウトも出来ちゃうね、なんて旦那とほのぼの話しておりました。


 するとですね、旦那の弟さんがオープン直後に早速行ってきたらしく、別にオープン記念で何か特典があるとか、そういうのはないんですけど。ただ、スタッフのほとんどが新人さんで全体的にわたわたしていたと。オープニングスタッフですもんね。誰でも最初は一年生よ。にしても経験者とかいなかったのかな? 閉店した店舗で働いてた人とかさ!?


 とにかくてんてこまいの様子だったらしく、「じゃあ我々はもう少し慣れたであろう頃に行こうか」なんて話してたんですけど、何か思ったより早くそこに行くことになりまして。


 とはいえ、オープンしてから一月くらいは経ったのかな? こんな田舎に新規(というわけでもないけど)オープンしたわけですから、それはそれは連日大盛況だったでしょうし、一通りの失敗やら何やらも経験しているはずでしょうし、案外大丈夫かも? なんて思いつつ行ったわけです。


 多少のもたつきはね、御愛嬌ですよ。それでも皆さん笑顔で頑張ってますんでね、こちらが出来ることはさっさと注文して、さっさと食って帰る。これに尽きる。


 で、早速配膳された牛丼を食べて思ったのです。


宇部「(このご飯、なんかパサパサな気がする……)」


 ですが、口に出すわけにはいきません。普段から子ども達には『人が作ってくれた料理に文句を言ってはならない』と伝えております。つまり、「ママの料理がまずくても、文句を言うな」「文句があるなら自分で作れ」という圧です。なのにこの私が「ちょっとお米パサついてない?」とは言えないのです。ただもちろん、明らかに傷んでいるとかは別ですけど。


 なんていうか、冷凍ご飯を自然解凍したような舌触りでした。だけど牛丼ですから大丈夫。もう全然、上に乗っかってる牛の力でカバー出来ましたから。それにほら、所詮馬鹿舌の私ですから。旦那もこれといって謎のアイコンタクトとかしてきませんでしたから。私の舌がおかしいだけの可能性も大いにあったわけです。


 が、その次の日。


 ひょんなことから昨日の牛丼の話になりました。旦那は台所で子ども達の水筒を洗っています。子ども達は近くにいません、米のことを聞くならいまです。


宇部「昨日の牛丼さ」

旦那「うん」

宇部「お米、何かパサついてなかった?」

旦那「パサついてた」

宇部「あれ!? やっぱり?! 良夫さん何も言わないから私の舌がおかしいのかと思ってたよ」

旦那「いや、あれはわかるって。あの場では黙ってたけど」

宇部「なぁんだやっぱりそうだったのかぁ。何、ああいうところってお米も本部とかから送られてくるのかな。あきたこまちじゃないのかな」

旦那「どうだろ。でもとりあえずアレは炊き方に問題があるな」

宇部「そうなの?」

旦那「そうそう。だからさ――」


 水筒を洗い終えた旦那は、ザッ、とハイザー(ワンプッシュで1合が出て来る米びつ)から米を2合お釜に入れ、きりっとこちらを見ました。


旦那「俺が本物の米を食わせてやるよ(今日イチのキメ顔)」

宇部「ヒューッ! かぁーっこいいぃーっ!!」


 ここ数日はオートミールでしたが、昨日、久しぶりの外食で食った米がアレパサパサでしたからね。そりゃねぇだろ、と。もうね、最高に恰好良かったですね。言います? 俺が本物の米を食わせてやるよ、って。こんな台詞、創作の中でしか聞けませんって。こんなの美味しんぼの山岡さんが言うやつでしょ。そりゃ私も奇声を発しますわ。嘘でしょ、米を研ぐのにこんな恰好良いことある?


 やっぱりね、米どころの男は違うな、って。この恰好良さを一人でも多くの人に伝えたくて。それで呟いたわけです。


 ざっざとお米を研いでね、ピッ、と炊飯押してね。そこは土鍋じゃねぇのかいってね、いや、そんなこと言いませんて。


 そんでやっぱり最高に美味しかったですね。

 

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